コロナ後遺症 低い認知度 休職や退職 診断書拒否も、多様な症状「相談窓口を」
新型コロナウイルスの後遺症とみられる症状に苦しむ人が増えている。
医療機関で専門外来を設置する動きも出てきたがまだ少数で、診断書がもらえずに解雇につながったケースもある。
専門家は「後遺症について社会の認知度を高め、専門外来や相談窓口の設置などを急ぐべきだ」と訴える。
関東の50代の女性看護師は2020年3月に職場で新型コロナに感染し入院した。
症状は軽症で4月に退院したが、その後脱毛症状や微熱といった体調不良が続き、転職が決まっていた新しい病院も最初から休職を余儀なくされた。
それでも、改めて受けたPCR検査の結果は陰性だったため、6月には転職先で働き始めた。
だが7月に入っても熱や倦怠感、体の痛みなどの症状が続いたため再び休職。かかりつけの病院でコロナの後遺症と診断されたものの詳しいことはわからず、その後専門的な病院で9月になってようやく筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群、線維筋痛症と診断された。
その後も体調は戻らず休職が続き、今年3月末での解雇を言い渡された。
女性は現在一人暮らしで、今も心臓の痛みや頭痛、倦怠感に悩まされる。
「治る見込みもなく、働くどころか家事をするのも厳しい」と不安は募る一方だ。「この先どうすればいいのか」と途方に暮れる。
後遺症に悩む人の中には休職となる人や、解雇や退職に追い込まれる人も少なくない。
昨年3月から1300人以上の後遺症の症状を訴える患者をみてきた、あるクリニックによると、同院にかかった患者で仕事をしていた680人のうち、休職者は約4割の274人に上り、3%にあたる22人が解雇や退職に追い込まれるなど職を失った。
後遺症を訴え医療機関に診断書を依頼しても断られ、無断欠勤扱いとなって解雇や退職となる人が多い。
病院にかかっても「そんなものはない」「精神的なものだ」とまともに取り合ってくれないことも多いという。
後遺症をみてくれる医療機関が少なく、解雇後に後遺症外来を見つけて受診に来た例も少なくない」と話す。
コロナの後遺症は分かっていないことが多い。
英国立衛生研究所によると
(1) 肺や心臓への恒久的障害
(2) 集中治療後症候群
(3) ウイルス後疲労症候群
(4) 持続する新型コロナの症状
――が複合的に絡んでいると考えられている。
さらに診断を難しくしているのが症状の多様性だ。
味覚・嗅覚障害のみの人もいれば、日常生活に支障を来す倦怠感や全身の痛みなど筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群のような症状を訴える人も一定数いるという。
同様の症状は欧米でも報告されている。
ただ疲労や痛みの症状があっても、一般の臨床検査では異常が見つからないことが多く診断が難しい。
治療も漢方薬や抗うつ剤などの薬物療法や運動療法を状態に応じて実施するが、有効な方法は確立されていない。
医療機関は対応に乗り出している。
聖マリアンナ医科大病院(川崎市)では今年1月に「感染症後外来」を開設、北里大学東洋医学総合研究所(東京都)でも漢方のオンライン外来で後遺症患者の診療を始めた。
岡山大病院(岡山市)でも2月に「コロナ・アフターケア外来」を開設するなど徐々に広がっているが、全国的にはまだ少数だ。
東京都墨田区は3月から後遺症の相談窓口を設置した。
区内の医師会と連携し、相談窓口から診療所へつなぐ仕組み。
ただこうした自治体の対応もまだ少ない。
東北大大学院の小坂健教授(公衆衛生学)は「国内感染者は分かっているだけでも40万人を超えており、未検査の人も含めると後遺症に苦しむ人は数万人規模に上ってもおかしくない。一人で悩んでいる人も多く、アクセスしやすい後遺症外来を増やし、各自治
体に相談窓口を早急に設置すべきだ」と指摘する。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.4.4
<関連サイト>
コロナの後遺症の症状