潰瘍性大腸炎 治療の指針改訂
腸に炎症が起こる難病の潰瘍性大腸炎。
患者数は増え続け、2016年の厚生労働省研究班の報告では約22万人。
新薬の登場や研究の進歩により治療指針は毎年改訂され、治療の選択肢も増えている。
最新の指針では、既存薬の使い方に対する注意も新たに盛り込まれた。
潰瘍性大腸炎と診断された兵庫県の60代の男性は治療薬をのみ始め、1週間で血便と下痢がかなりおさまった。
ところが、その3日後、39度の高熱が出て激しい下痢を起こした。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性の炎症が起こり、下痢や血便、腹痛が続く。国が指定する難病だ。
炎症を抑える基本的な薬が5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤。
ただ、この男性のように薬を使い始めて間もなく、薬に対するアレルギーで下痢、発熱、腹痛などが起こることがある。
まれな現象と考えられていたが、最近報告が増えているという。
病気が急に悪化したのかアレルギーなのか、薬を使い始めたばかりの時期に起こった場合は判断がむずかしい。
アレルギーを疑わずに薬を続けて悪化させてしまうケースもある。
こうした事態を防ぐために、3月末に改訂された厚労省研究班の治療指針では、使い始めにアレルギーを疑う症状があれば、「薬の『中止』を検討する」と盛り込まれた。
中止後の治療は、作用の異なる別の薬で対応することが多いが、アレルギーがあった薬をごく微量から増やす、別の種類の5-ASA製剤にするなどの選択肢もある。
5-ASA製剤の再挑戦については事前のアレルギー検査の必要性も含めて確立していないため指針には盛り込まれていない。
指針では、5―ASA製剤で改善しない場合に使われることが多いステロイドの使い方についても、改めて注意が必要だと警鐘を鳴らしている。
ステロイドは、漫然と長く使ったり、中止した場合でも短期間に繰り返して使ったりすると、顔がむくむ、感染症にかかりやすい、などの副作用につな
がりかねない。
だが昨年発表された研究で、適切に使われていない例が少なくないことが明らかになった。
全国の潰瘍性大腸炎患者の診療報酬明細書(レセプト)のデータベースを使
い、杏林大や東邦大などのグループが解析したところ、16年にステロイドを使った466人のうち、期間が90日未満だったのは41%、180日以上が34%に上った。
ステロイドは、重症度や治療歴などをもとに適正な量で治療を開始し、使い始めて1~2週間以内に効果が不十分であれば、別の薬への切りかえを検討する。
5-ASA製剤に戻るか、免疫調節薬を使い状態を維持する。
免疫調節薬を使うと、まれに白血球の数が減り、髪の毛が抜けるなどの副作用が出る人がいる。
最近は特定の遺伝型の人にだけこうした副作用が出ることがわかっており、検査で避けることができる。
増える選択肢 合うもの続けて
基本的な治療薬やステロイドで症状が改善できない3割程度の患者のために、分子標的薬とよばれる新しいタイプの薬も次々と登場している。
今は6種類ある。
作用の仕組みが違う上、点滴、自己注射、のみ薬などさまざまなタイプがあり、選択肢が増えた。
症状に応じて使い分け、薬の効果がないと別の薬への変更を検討する。
医学的に明確な選択基準がない場合は、ライフスタイルや好みにあったものを医師と患者が相談して選ぶケースも多い。
症状が改善しても、治療をやめると再発するリスクがあり、薬を中止できる条件はまだ確立していない。
病気と長くつきあう必要があり、困っていることは主治医に相談しよう。
再び悪化することが心配で、極端な食事制限などをしている人もいるが、食事の影響はほとんどない。
何より、治療をきちんと続けることが大切で、適切な治療で日常生活を問題なく送ることができる。
周囲の人もその点の理解が必要だ。
一方、最近は新型コロナウイルスワクチン接種について心配する患者もいる。
免疫を抑える薬を使っている場合、ワクチンの効果が少し下がる恐れはある
が、新型コロナに感染すれば重症化のリスクがある。
ワクチンは受けたほうがよい。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2021.5.26