次世代コロナワクチン、無痛・安価 ② 2/2
米テキサス大学オースティン校などが開発した「NDV-HXP-S」は、インフルエンザワクチンと同様に鶏卵で量産できる新型コロナワクチンだ。
既存のインフルワクチンの製造工場を使えるため、発展途上国や低・中所得の国々でもワクチンが手に入りやすくなる。
ベトナムやタイなど数カ国で治験を実施中だ。
国内では、体内で自ら増える新しいタイプのRNAワクチンの治験も実施中だ。藤田医科大学では5月から米医薬品開発のエリクサジェン・セラピューティックス(メリーランド州)製のワクチンの治験を開始。
米新興ワクチンメーカー、VLPセラピューティクス(同)は大分大学医学部付属病院で数十人を対象に、9月から治験を開始する予定だ。
22年にも承認申請を行う方針だ。
新しいタイプのRNAワクチンは、自己増殖するため、mRNAの量は米ファイザー製などと比べて少量でも効果があるとされ、低コスト化できる可能性が高い。
東京大学の河岡義裕特任教授は「(新型コロナの流行が収まっても)新たな新興感染症は現れるし、パンデミックは今後も必ず起きる」と指摘する。
コロナワクチンで浮き彫りになった接種や供給の難しさを克服する次世代ワクチン開発の成功の有無が、感染症との闘いの行方を左右するカギとなりそうだ。
「次の脅威」に備え開発急務 供給格差の解消カギ
新型コロナの脅威を軽減したのが、mRNAワクチンをはじめとする実用化済みのワクチンだ。
ウイルスの確認から1年足らずで実用化し、重症化や死亡リスクを大幅に下
げた。
ただ感染を完全に防ぐのは難しい他、供給を巡り世界的な格差が生まれている。
米疾病対策センター(CDC)は7月、ワクチン接種者にも屋内でのマスク着用を勧告した。
ワクチンを接種した人も感染すると非接種者並みにウイルスを出すことがあるとわかったためだ。
8月に入り、世界保健機関(WHO)は現行ワクチンの3回目の追加接(ブースター接種)を9月末まで中止すべきだとの見解を示した。
発展途上国などのワクチン不足が加速しかねないからだ。
次世代ワクチンは現行型の課題を解決する使命を負う。
重症者が減っても感染が続けばワクチン接種者の免疫を回避する新しい変異型が生まれる懸念もある。
鼻ワクチンを開発する三重大学の野阪哲哉教授は「感染そのものを防ぐワクチンが必要だ」と話す。
効果の高いmRNAワクチンは一般的なワクチンの数倍以上の製造コストがかかかり、大幅な増産は難しい。
鶏卵で量産したり、体内で増える自己増殖型が普及したりすれば供給不安の解消に役立つ。
もう一つ重要なのは医療従事者の負担軽減だ。
鼻ワクチンや食べるワクチンは、医師などがいなくても自分で接種できるようになる可能性がある。
ワクチンの供給があれば接種を安定的に進められる。
近年はコロナウイルスだけでも約10年ごとに病原注の高いタイプの流行が発生、感染症への備えは重要性を増している。
野阪教授は「従来型にとどまらず新しい仕組みのワクチンを開発していくことが大事だ」と強調する。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.8.17