軽症の在宅療養に対応 コロナ飲み薬

塩野義、軽症の在宅療養に対応 コロナ飲み薬1000万人分 国内外で生産体制整備

在宅療養対応 国内外で2022年春までに 塩野義製薬の手代木功社長は24日、開発中の新型コロナウイルス治療薬について、2022年3月末までに国内外で1000万人分の生産体制を整える方針を明らかにした。

同社の新薬候補は軽症者などを対象とした飲み薬タイプで、実用化できれば在宅で療養する患者が使いやすくなる。

国内向けに加えて海外供給にも取り組み、海外製薬会社が先行する治療薬で安定供給を目指す。

塩野義は新薬候補について7月から国内で初期段階の臨床試験(治験)を始めている。

年内にも複数国で大規模な最終段階の治験を始め、22年3月末をめどに米国で緊急使用許可の取得を目指す。

21年内に国内で100万人分の生産体制を確保する。

開発と並行して、海外の製薬会社などと製造体制の構築を検討する。

「海外で製造委託先や提携先を今後探し、複数の生産拠点を設ける」(手代木社長)。

開発が順調に進めば国内生産分と合計で1000万人分の供給体制を整える考えだ。

新型コロナの患者数は世界で急増している。

ジョンズ・ホプキンス大学の集計では、世界の感染者数は累計2億人を超えた。

1000万人分規模の治療薬が軽症者向けに確保できれば、重症患者が増え医療負担が増すのを一定程度抑制できる可能性がある。

塩野義の新薬候補はウイルスの増殖に必要な酵素の働きを妨げる。感染初期に服用して重症化の抑制と発熱やせきなどの症状改善を狙う。

1日1回の服用を5日間続ける使い方を想定。

日本では「条件付き早期承認制度」を活用し、21年内の承認申請を検討する。

日本で承認されている治療薬は現在4種類だが、軽症者向けに使えるのは中外製薬の「抗体カクテル療法」のみで、主に病院での点滴投与が前提だ。

医療の逼迫を抑制するには、自宅療養で回復できる体制を整えることが重要となる。

手代木社長は「経済回復には、自宅待機やホテル療養を強いられる軽症者を早く通常の生活に戻すことが大事だ」と指摘する。

さらに、無症状者向けの薬としての実用化も検討する。

国内で9月末から始める予定の第2段階の治験では、軽症者に加え無症状者を対象に加える。プラセボ(偽薬)を服用した場合と比較する試験で、症状の出方などを見る計画だ。

インフルエンザでは発症予防として治療薬が投与される例もある。

新型コロナでも投与可能な薬を望む声がある。

塩野義は新型コロナワクチンも開発中で、21年内に国内で最大年6000万人分の生産体制を整える。

24日、初期段階の治験で1回目接種後の安全性を確認したと発表した。

年内に最終段階の治験を始め、22年3月末までの実用化を目指す。

現在、国内で使えるワクチンは海外メーカー製だけだ。

手代木社長は国産ワクチン産業育成のためには「国が主導して常に大規模な治験ができる体制をつくる必要がある」と語った。

治療薬についても「国は戦略的な備蓄を考えるべきだ」と指摘した。

コロナ飲み薬開発、MSDや中外製薬が最終治験 軽症者向けの新型コロナウイルス治療薬の開発は国内でも進んでいる。

米メルク日本法人のMSDと、スイス・ロシュ傘下の中外製薬が飲み薬タイプの治療薬候補について最終段階の臨床試験を進めている。

実用化されれば、在宅療養者の治療の選択肢が広がる。

MSDは軽症者向けの飲み薬候補「モルヌピラビル」について、最終段階の治験を6月に始めた。

初期症状の外来患者に対して1日2回、5日間投与している。

米国などでも治験をしており、早ければ9月にも有効性などの結果がわかる見通しだ。

中外製薬も米バイオ企業のアテアが開発した飲み薬の候補物質「AT-527」について、日本市場向けに最終段階の治験をしている。

既存薬の転用を模索する動きもある。

富士フイルムホールディングスも抗インフルエンザ薬「アビガン」をコロナ治療に転用するための治験を進めている。

新型コロナの感染拡大は止まらず、症状が悪化しても入院先が見つからない例が国内でも増加している。

海外ではワクチン接種率が7割前後で頭打ちになったまま、インド型(デルタ型)の感染が拡大している国もある。

感染拡大時に医療逼迫を避けるには、在宅で軽症患者が療養できる体制づくりが欠かせない。

ただ、新薬候補が実用化に結びつかない例も少なくない。

武田薬品工業は4月、ウイルスに感染して回復した患者の血液成分を活用した治療薬の開発を中止した。

第一三共日医工などと共同で開発中だった治療薬候補に、安全性の懸念があるとして開発を断念した。

米国ではいったん緊急使用許可が下りた薬が、デルタ型への有効性が確認できないとして取り下げになった例もある。

東海東京調査センターの赤羽高シニアアナリストは「海外製薬会社が開発を進める治療薬を

しのぐ有効性を出さなければ承認を得るのは難しいだろう」とも指摘する。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.8.25