コロナウイルスに寿命はあるのか? / 仁井田浩二
https://agora-web.jp/archives/2053852.html
コロナの感染拡大、収束を示す陽性者ピークには、人間側の要素(ロックダウン、人流抑制等の対応策の有無、免疫、ファクターX等の人種や国民性によるコロナに対する感受性の差、ワクチン接種の有無等)だけでは説明できない振舞があります。
人間側の要素から独立している一定のピーク幅、即ち「半値幅の普遍性」です。
別名、コロナウイルスの「寿命」です。ウイルスの「寿命」という言葉に違和感のある人は、「半値幅の普遍性」と言い換えてください。
(コメント;図については、本記事を参照下さい)
1.第1波の寿命(本記事中の図1)
日本を含む11カ国の昨年3月の第1波のピークを100に規格化して重ねたグラフでは、ピークの感染者数で最大40倍違う国々で、また、各国のコロナ対策が様々な国々で、ピークの半値幅(FWHM、ピークの半分の高さでの分布の全幅)がほぼ同じ値(平均約25日)を示しています。これらの国では、感染拡大から約2ヶ月で、それもほぼ同形で急激な収束を示しています。
2.デルタ株の寿命(本記事中の図2)
解析を行っている14カ国から比較的デルタ株のピークが明確な6カ国を選んで、ピーク位置で規格化して重ねた図では、第1波に比べると幅は国ごとに広がっていますが、ピーク位置での絶対値は最大250倍ある国々で、半値幅が33日から67日、平均で42日、第1波と同様に、ほぼ同形で急激な収束を示しています
3.日本と同期している世界の陽性者推移(本記事中の図3)
昨年3月から現在までの日本の陽性者数の推移を、世界の推移と並べて描いたものです。
日本の第1波から第5波まできれいな周期性をもって現れていますが、世界の推移も日本に同期しています。
コロナウイルスの感染力は非常に強いので、各波の立ち上がりが同期するのは理解できますが、収束が日本と世界で同期するのは考えにくいことです。
何故なら、各国のコロナ対策は千差万別ですし、人種、国民毎のコロナ感受性も大きく異なるはずです。
そのような差異を平均すれば、収束は非常に広い分布になるはずです。
それが平均したうえで得られる世界の推移が、島国の日本と同じ収束を示し同期していることは、特筆すべきことです。
4.日本の各波の寿命(本記事中の図4)
こののシミュレーションは現象論です。
現象論という意味は、感染拡大や縮小の原理法則を始めから持っているのではなく、あくまで、感染の事象を記述する簡単なモデルを仮定して、実際の陽性者数、死亡者数の推移を再現するように、モデルに含まれるパラメータを時間的に変化させます。
できるだけパラメータの数を少なくすることがシミュレーションの要点です。
そこで取り入れたのが、ピーク毎に分解して解析する手法です。
ここでは「種」と呼んでいます。
分解した「種」毎に感染確率を、データを再現するように変化させるわけですが、最も簡単な場合、ピーク時で1回だけ感染確率を一気に小さくしてやれば、データを再現できます。
死亡率は「種」毎に一定にしています。
この手法で、これまでの日本の陽性者数推移を再現した図(本記事中の図5)では、各波をひとつもしくは複数の「種」(色分けにしています)に分解し、それらを足し合わせて全体を再現しています。
その各「種」を規格化して重ねて描いたこの図では、裾の広がりの様子は差が大きいですが、半値幅はほぼ同じくらい、平均で31日です。
5.英国の各波の寿命(本記事中の図6)
英国(図6)の例では、日本(図4)の場合と同様に、英国の陽性者推移を「種」分解して再現しています。
世界のいろいろな国の解析をしていると、英国の場合の第3波と第4波の間にあるようなきれいなピーク状ではない「種」を設定しないと全体を再現できないこともありますが、基本は単純なピーク状の「種」の重ね合わせでデータを再現できます。
図7(本記事参照)は、英国の各「種」を規格化して重ねて描いたものです。
裾の広がりの様子は差が大きいですが、半値幅はほぼ同じくらい、平均で32日です。日本の31日とほぼ同じです。
6.結論
現象論の立場から言えば、ここで示した「半値幅の普遍性」は、必ずしもウイルスの寿命の仮説を必要とするものではありません。
ただし、この普遍性はピークアウトのメカニズムを解明する上には必須なものです。
この「半値幅の普遍性」と矛盾なくピークアウトを記述できなければ、これまで行われたロックダウン、人流制限、ワクチン等の施策の効果の定量的評価はできません。
(関連サイト)
仁井田浩二
https://tccpolice.hatenablog.com/entry/2021/02/05/122544
(彼に対して手厳しい内容となっています)
コメント;
この記事は、流行現象の結果を統計学的に解析した「後付け」の内容です。
今回(2021.11時点)の第5波のような、(急ブレーキがかかったような)国内でのきわめて急激な感染者数の減少は、(予測は出来なかったものの)どのように説明されるのでしょうか。
さらには欲を言えば、今回の現象の予測が事前に出来ていれば説得力のある記事といえます。
少なくとも、ワクチン以外には、さしたる感染防止対策もなかった第5波の急速な一時的収束の解析を期待しています。