コロナ下で増えた進行がん

コロナ下で増えた進行がん

横浜市立大学を中心とする研究グループは9月に、新型コロナウイルスの流行によって、早期がんが減り、進行がんが増えたという衝撃的な調査結果を発表した。

 

横浜市立大病院と国立病院機構横浜医療センターにおいて、2017年から20年までの4年間に新規に消化器系のがんである食道がん胃がん、大腸がん、膵がん、肝臓がん、胆道がんと診断された患者5千人超が調査対象。

 

日本でコロナが本格的に流行し始めた20年3月以降を流行期、それ以前を流行前として比較したところ、流行期の患者数は、流行前と比べて、胃がんでは26.9%、大腸がんでは13.5%と有意な減少が見られた。

食道がん、肝臓がん、胆道がんでも患者数は減少していたが有意差はなかった。

膵がんはほぼ不変だった。

 

ステージ別分析の結果、胃がんと大腸がんは、コロナ流行前と比べて、流行期では早期がんの患者数が減っていることが分かった。

 

固形がんの進行度は、粘膜内にとどまるステージ0から、転移があり治癒が難しくなるステージ4に分けられる。

 

今回の調査では、ステージ0、1といった早期の大腸がんの患者数がコロナ流行期は流行前より3割以上減っていた(有意差あり)。

やや進行したステージ2(粘膜の外側の筋肉の層までがんが進展するがリンパ節の転移はない)でも、35%減と有意な減少がみられた。

 

一方、リンパ節の転移があり、抗がん剤などの補助治療を要するステージ3は約7割増だった(有意差あり)。

 

胃がんでも、ステージ1の患者数が有意に減っていた。

その他のがんでは、有意な変化は認めなかった。

 

日本では海外のような厳格なロックダウンはせず、医療へのアクセスについても制限は原則、実施されていない。

この研究でも、再診患者の数については、流行前後で有意な減少はなかった。

 

これは非常に重要なポイントでだが、「がんは症状を出しにくい病気」でだ。

早期がんで症状が出ることはまずない。

がんを早期のうちに診断できる時間は1~2年位だから、体調が万全でも、定期的に検診を受けることが必要だ。

 

しかし、自治体によるがん検診(住民検診)の受診者は、20年は前年より3割も減った。

そして、消化器系のがんのうち、住民検診の対象は胃がんと大腸がんだけ。がん検診の受診減が、早期の胃がん・大腸がんの減少につながった可能性がある。

コロナでがん死亡急増が現実になりつつある。

(執筆 東京大学・中川恵一 特任教授)

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.10.20