iPS細胞使い治療薬候補発見 京大、アルツハイマー病で

アルツハイマー病患者由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使い、土壌に生息する微生物が作る物質の中から治療薬候補となるものを見つけたと、京都大の井上治久教授(神経内科学)らのチームが英科学誌に発表した。

 

アルツハイマー病は脳に「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質が異常に蓄積することが原因とされる。

チームは患者由来のiPS細胞を脳の神経細胞に成長させ、細菌や真菌が作る98種類の物質を振りかけてこのタンパク質の量がどう変化するか調べた。

 

植物などに寄生する真菌の一種が作る「ベルカリンA」という物質を振りかけると、アミロイドベータの量が大幅に減少することが分かった。

低濃度なら神経細胞を傷つけないという。

 

抗生物質ペニシリン」など、微生物が作る物質がもとになった医薬品は多い。

チームは「微生物とiPS細胞を組み合わせることで、人への投与で効果が期待できる化合物を効率的に得られる可能性がある」としている。

 

今回の成果を治療薬の開発につなげるには、発見した物質の作用によりアミロイドベータの量が減少するメカニズムや、副作用の有無などを調べる必要があるという。

参考・引用一部改変

日経新聞・夕刊  2022.3.5

 

 

<参考>

アルツハイマー病病因分子の産生量に影響を与える土壌微生物叢由来代謝物の同定

~土壌微生物叢 vs アミロイドβから新世代の微生物創薬へ~

https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220302-190000.html

・iPS細胞を使ったスクリーニング系を用いることで、神経細胞アミロイドβ産生動態を変化させる土壌微生物叢由来の代謝物)を同定し、土壌微生物とアルツハイマー病の関係を明らかにした。

・この手法を用いて、微生物叢が神経細胞の病態に与える影響を直接的に調べることで、微生物叢の疾患への影響評価や、新たな微生物創薬研究につながると考えられる。

    

・微生物とアミロイドβの関係を明らかにすることは、人類の防御システムと病因分子としてのアミロイドβの役割のトレードオフの結果としてのアルツハイマー病、という理解につながる可能性がある。

<コメント>

「ADは人類の防御システムと病因分子としてのAβの役割の進化上のトレードオフの結果と考えられるかもしれない」という考察が興味深い。