高血圧治療の基準

高血圧治療対象  基準見直し賛否

後期高齢者「140」以上
「降圧で効果」「梗塞の恐れ」
日本高血圧学会を中心に高血圧の診療ガイドラインの改定作業が大詰めをむかえている。
75歳以上の、いわゆる後期高齢者の基準値を見直すかどうかが焦点。
日本人を対象にした疫学研究データが乏しく、専門家の間でも意見がわかれている。

明確な根拠なし
現在のガイドラインは2004年に改定された。
その際、後期高齢者の基準値を上の血圧(収縮期血圧で従来の「140以上160未満」から
「140未満」に引き下げた。
 
140以上の場合には「厳格な降圧(治療)を目指す」と記す一方で、「高齢者において
目標値が妥当であるか否かは、現在のところエビデンス(根拠)がない」とする明りょうな
内容になった。
医療現場からは「患者が増えただけ」という指摘もある。

海外には「治療による血圧の下げ過ぎはよくない」とする報告も。
後期高齢者は急激に血圧を下げ過ぎると、血管が詰まって脳梗塞(こうそく)などの疾患が
起こりやすくなり、死亡率が高まるという。

東海大学の大櫛陽一教授らは、福島県郡山市の健診受診者を調べた。
70歳以上では高血圧を治療すると、治療しない場合よりも脳梗塞になるリスクが2.85倍
だった。

大櫛教授は 統計的に見ると160未満(とする以前の基準)の方が妥当という。
 
今年7月に公開した暫定の改定版では後期高齢者の記述について特に変更していない。
日本高血圧学会理事長の松岡博昭独協医科大学教授は「日本人のデータを集めるための大規模
介入試験の結果が不十分だった。
欧米のデータをもとに作った現行基準を覆すだけの日本人のデータはない」と説明する。
 
松岡教授が「結果不十分」という大規模介入試験とは、2004年末に終わった日本人を対象
とした「JATOS」のことだ。
65歳以上の高齢者を治療して、上の血圧を140未満に積極治療した患者と、「140以上
160未満」にゆるやかに下げた患者とを比較し、治療の程度と疾病のなりやすさの関連を
調べた。
その結果、両群に差はなかった。
 
普通に考えれば、治療によって無理して140未満に下げる必要はないようにみえる。
 
松岡教授は「基準値が160未満でもよいという考えがあるのもわかる。ただ、JATOSは
もともとの治験計画に問題があり、確認された心疾患の総数が少な過ぎて参考にならない」と
説明する。

JATOSの計画に携わった慶応大学の猿田享男名誉教授は 日本の医学は欧米のデータばかり
に頼り、日本人のデータをもとにしていない。この風潮を変えるため、JATOSを実施した」
と話す。
 
日本人は欧米人より脳卒中の発症率が高く、心筋梗塞が少ない。
人種差を踏まえた基準を作るための試験だったが、もくろみ通りにはいかなかったようだ。

現場は柔軟判断
欧米の高血圧の基準値は上の血圧で140未満。
後期高齢者かどうかで分けてはいない。
また、海外の研究チームが今年になり、後期高齢者を対
象にした介入試験で、治療した方が病気の予後がよいという報告をして注目を集めている。
 
現場の医師はガイドラインを意識しながらも、自分で集めたデータや経駿に沿って治療して
いるのが現状だ。
 
三井記念病院総合健診センターの山門實所長は、上の血圧が140を超えても「罹患(りかん)
する疾病がなく、危険性も低いときなどは、薬を使わずに生活指導による数カ月単位のゆっくり
とした治療から始める 」と話す。

改定ガイドラインは来年1月にも公表される見通しだ。
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出典 日経新聞・夕刊 2008.8.19
版権 日経新聞

<切抜き帖>
脳の性差決定に関与か 京都府医大神経細胞の集合体発見
ラットの脳で体温やホルモン分泌の調整を担う視床下部という部分に、これまで知られていない
神経細胞の集合体が存在することを、京都府立医科大学の研究チームが見つけた。
脳の中での性差を決める機能に関与している可能性があるという。
成果は19日、米科学アカデミー紀要(電子版)に発表した。
発見したのは博士課程大学院生の森浩子さんと河田光博教授らのチーム。
薄く切ったラットの脳で女性ホルモンに反応する神経細胞を調べるうちに見つけた。
神経細胞の集合体はオスの方がメスよりも1.7倍大きい。
メスは月経の周期に応じて大きくなったり小さくなったりすることが分かった。
メスの場合、女性ホルモンの分泌を制御していると考えられる。
出典 日経新聞・夕刊 2008.8.19
版権 日経新聞

対人関係:「キレる」構造を研究へ 文科省
引きこもりや「キレる若者」など対人関係の不適応が問題化していることを受け、文部科学省
は来年度から、人間の社会行動やコミュニケーションに関係する脳の機能や構造を特定する研究
に乗り出す方針を固めた。
脳のある部位の変化や個人的特徴が、行動などにどのような影響を与えるかを示す指標を作り、
問題行動や社会性障害の予防や治療につなげることを目指す。
文科省や専門家によると、脳の生物学的な特徴と社会行動との関係は、動物では比較的解明が
進んでいる。
マウスでは、ある種の脳内物質を欠くと自閉的行動を示したり、攻撃性が高まることが分かって
きたという。
人間については、脳の計測の難しさなどから心理学的な手法での研究が主だった。
今回、文科省は動物での知見を網羅的に結集し、計測技術の開発も進め、人間の社会性を生み
出す脳内メカニズムの解明を目指す。
文科省がテーマを設定し公募で研究者を選ぶ。
さらに、不眠症摂食障害、うつの増加を踏まえ、ストレス耐性や睡眠リズムをつかさどる脳幹
研究も強化する。
このため、今年度から5年計画で始めた脳科学研究戦略推進プログラムを拡充し、今年度の
予算17億円から倍増以上の重点投資を計画している。
文科省ライフサイエンス課は「脳科学だけですべての問題に答えることはできないが、問題行動
や社会性障害の生物学的なリスク要因がある程度明らかになれば、予防や治療に結びつく可能性
がある」と期待する。
東北大で「脳神経科学を社会に還流する教育研究拠点」のリーダーを務める大隅典子教授は
「早い段階でリスクが分かれば、育児や教育でケアできる可能性がある。
こうした指標が差別につながらないよう、経験や環境によって脳が生物学的に変化することなど
も社会に説明しながら研究を進める必要がある」と指摘する。
http://mainichi.jp/select/science/news/20080819k0000m040147000c.html
版権 毎日新聞社

<自遊時間>
グルジアとロシアの紛争がニュースになっています。北京オリンピック中というのがいかにも
ロシア的ですが、グルジアのポチという町。
「ロシアがゴリとポチを攻める」といったような見出しを見るとポチという都市を守ってあげ
たくなります。
名前が何とも母性本能をくすぐるのです。
ゴリはなんだか強そうなイメージがあるのでポチみたいな気にはなりません。



医療専門のブログは別にあります。
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
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