心房細動に根治の道

応用広がる「カテーテルアブレーション」 異常信号断ち切る

心臓の拍動が時に乱れる不整脈
原因によって複数ある治療法の中で、心筋の一部を高周波で加熱する治療法(力テーテル
アブレーション)の応用範囲が広がっている。
高齢者の心房細動に行われることも多くなっているという。
ただ治療には危険も伴う。
適用には慎重な見極めが必要だ。

電車に普通に乗れるし、高層ビルのエレベーターにも乗れる。
東京都内に住む70代の女性は2005年6月にその治療を受けて、生活が一変した。
 
「当たり前の暮らしができることがこんなにうれしいとは。朝まで一度も目覚めなくなった
ことが何よりです」
 
その治療は、カテーテルアブレーション。
群馬県立心臓血管センター前橋市)で内藤滋人・循環器内科第2部長の施術を受けた。

2007年から心房細動の発作に悩まされてきた。
不整脈の一つで、左心房の拍動リズムが乱れ、脈がばらつくなどの発作が起きる。
その年の正月に風邪をひいて寝ていた時に起きた「心臓が飛び出すような」発作が始まり
だった。
 
都内の大学病院に通って薬による治療を受け続けても発作は治まらない。
主治医に言われた。
「治りませんが、命に別条ありません」
 
発作の回数は増え、1日1~2回も珍しくない。
寝ている間も起きた。
友人との待ち合わせもままならない。
不安で仕方がなかった。
 
ある日の通院で、たまたま外来の当番だった医師が、カテーテルアブレーションのことを
教えてくれた。
ただ、血液が漏れて血圧が低下する心タンポナーゼといった合併症の危険もあるという。
 
専門誌を調べて同センターを受診。
内藤さんに詳しく説明してもらった。
「苦しかったでしょう」とも声をかけられた。
救われる思いがした。
 
この治療は、カテーテルという細い管を主に脚の付け根の血管から心臓に通し、先端を
高周波で約50度に熱して心筋の一部を焼却する方法だ。
 
心房細動は、肺静脈が左心房につながる根本あたりから電気信号が出るのが原因とされる。
それが左心房の筋肉に伝わり、不規則な拍動を生じさせる。

カテーテルアブレーションでは、肺静脈のつながったあたりを隔離するように心筋を
焼灼していき、不規則な拍動を招く電気信号の流れを断ち切るのです」と内藤さん。
 
日本に導入されたのは1980年代終わり。
WPW症候群という、本来の電気信号の伝導路
とは別の経路が心房と心室の間にできたケースに用いられた。
発作が起きると意識がもうろうとするなどの症状があるため、車の運転手や飛行機の
操縦士といった職業の人に欠かせない治療になった。
 
それがほかの不整脈にも徐々に使われるようになり、近年、心房細動にも応用できること
が分かって一気に広がろうとしている。
 
70歳以上の5%、80歳以上の8%の人が心房細動を発症しているとされる。
それ自体は命にかかわるものではないが、血流がよどむことで血栓ができ、脳塞栓を
起こすことがある。
脳梗塞の約3分の1を占めるといわれる。
発作への不安は日常生活の大きなストレスにもなる。

従来の心房細動の治療では、薬で発作をコントロールしたり血栓ができないように
したりしてきた。
そこに根治も可能な治療法が登場したことは大きな進歩だ。

危険伴い合併症も

「しかし、この治療はカテーテルで左右の心房の間の壁を突き抜けなければならず、
経験の少ない医師が行うと危険を伴うので熟練を要する」と国際医療福祉大学の熊谷一郎
教授(福岡大学客員教授、循環器内科)は指摘する。
 
左心房には4本の肺静脈がつながる。
1本ずつ隔離する形で治療した場合、肺静脈が狭まることもある。
すぐ近くを通る食道に害が及ぶことや心臓の壁を破る心配もある。
心タンポナーゼといった合併症の可能性もある。
 
心房細動は、比較的若い人に多い発作性から、持続性、慢性へと進んでいくことが
珍しくない。
「発作性で左心房の直径が4センチ程度なら90%以上の成功率だが、慢性で5センチ
以下なら70%程度。慢性で6センチほどに拡張していると通常は適応になりません」
 
年齢、発作の程度、薬の効き具合、他の心臓病の有無、仕事などを踏まえて、どの治療を
選ぶか、主治医とよく相談を・・・。
内藤さん、熊谷さんの一致したアドバイスだ。


心臓拍動の仕組みと不整脈 
心臓には四つの部屋があり、左心室から送り出されて全身をめぐった血液は右心房に
帰って右心室に行き、肺に送られて左心房に戻る。
 
このリズムをとっているのが、右心房の壁にある洞結節だ。
ここから出る電気信号が房室結節を通じて心筋にめぐり、1分間に60~100回ほど
の収縮と拡張を規則正しく繰り返している。
 
ただ本来の伝導路とは違う経路で信号が流れたり、別の場所で信号が出たりして心筋の
収縮と拡張が不規則になることがある。
その結果、脈が速くなったり、逆にゆっくりしたりする。
これが不整脈だ。
心室細動のように突然死につながる重い場合もある。
 
不整脈には様々な種類があり、治療法も、薬やペースメーカー、植え込み型除細動器
(ICD)、カテーテルアブレーションなど数多い。
不整脈の種類や、その病状、患者の年齢に応じて選択される。
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出典 朝日新聞・朝刊 2008.9.14
版権 朝日新聞社


<コメント>
文中のタンポナーゼは、正しくはタンポナーデ(tamponade)です。
「左心房の拍動リズムが乱れ」・・・左心房と右心房の両方の心房の拍動リズムが乱れます。

<関連サイト>
心房細動の解説Q&A(詳細解説)
http://www.m-junkanki.com/heart_diseases/atrial_fibril.html
心房細動の解説
http://www.m-junkanki.com/short_explanations/af/af1.html
心房細動
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E6%88%BF%E7%B4%B0%E5%8B%95
心原性脳梗塞に立ち向かう 心房細動.com
http://www.shinbousaidou.com/
心房細動
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10650700.html
心房細動に対するカテーテルアブレーション
http://www.lifescience.jp/ebm/medhist/0504/0504.htm
これからカテーテルアブレーションを受ける人のために
http://www.janis.or.jp/users/ysasaki/rfca/rfca.html
心房粗細動、アブレーション治療
http://www.jhf.or.jp/q&adb/category/c1-3.html
カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)
http://www.tkgh.jp/02shinryou/p2-01-04.html
カテーテルアブレーション
http://www.sakakibara-hp.com/menu_ka/abr/index.htm
不整脈の根治をめざすアブレーション
http://www.kokura-heart.com/pub/zensen/fusei.html
カテーテルアブレーション
http://www.chibanishi-hp.or.jp/pages/catheter_ablation.php
カテーテルアブレーション
http://www.sakakibara-hp.com/Head_iryoukikan/abre_sassi/sassi.pdf
心房細動のカテーテルアブレーション2
http://cardioweb.cpnet.med.keio.ac.jp/HD/EPS/Af/AF/index.html
じいじのひとりごと: カテーテルアブレーション
http://ott.de-blog.jp/ottch/2005/11/post_bf99.html
(患者さんの体験記です)


以下の追加を行いました。(2008.9.29)
<関連サイト その2>
リニューアルハートニュース 2007年No.2(60)
心房細動ってどんな不整脈
http://www.jhf.or.jp/heartnews/newHN/2007/no2/index.html
日本心臓財団の一般向け解説(富山医科薬科大学のドクターが執筆)
不整脈のアブレーション治療 Vol.41(2003年-No.1)
http://www.jhf.or.jp/heartnews/hn2003no1/?
医大のドクターの 2002年の総説(右上のPDFファイル)
?http://www.nms.ac.jp/jnms/2002/06903290j.html?
専門的で難しいかもしれませんが、2002心臓病学会のシンポジウム講演が試聴できます。
?http://club.carenet.co.jp/Cardiology/jcc2002/index.asp?SID=#hm1010?
仙台市立病院
?http://www.city.sendai.jp/byouin/soumu/hosp/bumon/crd/shinryo2.html?
小倉記念病院
?http://www.kokura-heart.com/pub/zensen/fusei.html?




読んでいただいて有難うございます。
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