逆流性食道炎 その3

■原因
食道(長さ22~25cm、太さ1~2cmの管状の消化管)から胃の入り口にあたる
噴門部の締まりが緩いために、胃酸や胃内容物が食道に逆流して食道の粘膜を傷
つけることから症状が出現します。
実際には健常者でも一日4~5回は胃酸の逆流が起きていると言われますが、
滞留時間が短いと症状を自覚しません。
ただし、 胃から食道への逆流防止機構の働きが加齢などによって低下することや
食道裂孔ヘルニア、背中が丸くなって絶えず前屈みになったような人で起きます。
(食道裂孔ヘルニアとは食道裂孔が加齢などにより緩んで胃の一部が横隔膜より
上の胸腔にはみ出して、結果的につり上がったようになった状態を言います)。

この食道裂孔ヘルニアには3つのタイプがあります。
検査でタイプを確認してそれぞれに適した治療をします。  

滑脱型:
胃がそのまま滑り出しているタイプで、胃と食道のつなぎめである噴門部が胸の
中に入ってしまうため,胃液の逆流を防ぐ仕組みが働かなくなります。
大部分はこのタイプです。

傍食道型:
胃の一部が食道のわきを通って出ているタイプで、飛び出した胃が締め付けられて
胃粘膜からの出血や,血液の流れが阻害されるので手術が必要になることがあります。
症例としては10%程度とあまり多くありません。

混合型:
両者があわさったタイプです。     

その他、食べ過ぎ・胃酸の分泌過多・肥満・食道蠕動運動の低下・腹圧の上昇・胃
の手術後等により症状が起きます。

内視鏡検査をしても、食道にびらんや傷が見つからないのに、週に2日以上、胸焼け
などの症状があって日常生活に支障がある人は”非びらん性胃食道逆流症”です。

この際、胃酸の逆流があるのは60-70%で、残りの人は胃酸の逆流はなくても、
食べた物の刺激等で胸焼けを起こします。
治療は逆流性食道炎と同様に胃酸の分泌を抑える薬が用いられるます。



薬や生活習慣の改善で症状が改善せず、相変わらず胸焼けなどの症状が強い場合には、
強皮症とかCREST症候群などの膠原病という特殊な病気の事もあります。

■検査
胸焼けなどの症状だけでは確定診断出来ません。
食道ガンや狭心症心筋梗塞など同じような症状の出る病気を否定するためにも、
内視鏡検査(食道粘膜のびらん、発赤や潰瘍の確認)や心電図検査が必要となり
ます。
もっとも心電図だけで狭心症が否定できるわけではありません。

バリウムによるX線検査では軽症例の発見は困難です。
しかし、この検査では胃内視鏡ではわからない逆流を直接観察することができます。

程度はさまざまです。
症状があっても胃内視鏡で変化が認められない程度のものから、食道が赤くなって
いるもの、潰瘍が出来ているものまでさまざまな状態が観察されます。
じっさいには胃内視鏡で見ても約半数の人は所見がまったくありません。
又、逆に食道の炎症がひどいのに症状を感じない人もいます。
従って、検査でガンや潰瘍が否定されたら、治療は内視鏡の所見よりもむしろ患者
の自覚症状の強弱を手がかりに行われることとなります。
胸焼けを感じている人の60~70%は、内視鏡検査で食道に潰瘍や炎症の所見は
見つからないと言われています。

逆流性食道炎の程度はロサンゼルス分類(改訂日本版)という分類法が用いられます。
軽度N→M→A→B→C→最重症Dに分類されます。

N:
胸焼けの症状はありますが、内視鏡的には変化を認めないもの

M:
色調変化が認められるもの

A:
長径が5mmを超えない粘膜障害のあるもの

B:
少なくとも1ヵ所の粘膜障害の長径が5mm以上あり、それぞれ別の粘膜ひだ上に存在
する粘膜障害が互いに連続していないもの

C:
少なくとも1ヵ所の粘膜障害は2条以上の粘膜ヒダに連続して広がっているが、全周
の75%超えないもの

D:
粘膜障害が全周の75%以上にわたるもの。
"

<番外編>
バレット食道:
食道下部の粘膜は扁平上皮という組織でできていますが、胃・十二指腸の内容物の
逆流を長期間繰り返すうちに胃や腸に類似した赤っぽい円柱上皮といわれる組織に
変化してしまう状態をいいます。
更に、円柱上皮には腸上皮化生上皮という食道腺がんの発生母地となる組織が含まれ
ていることが多いので内視鏡でよく確認したり生検する必要があります。
逆流を起すケースの10%程度にみられるという報告もあります。
一度バレット食道の状態に陥ると、どんな治療を施してもそれを改善するのは極めて
困難となります。
この状態になると食道癌が起きる可能性が高まるので定期的な内視鏡による検査が
必要となります。
バレット上皮の人はそうで無い人に比べて20~40倍食道ガンのリスクが高くなる
とさえ言われているのです。 
胃酸の逆流によって発生する食道ガンは腺ガンで治療が難しくなります。
現在は全体の食道ガンの中で10%程度ですが、食事の欧米化と共に今後急速に増加
する事が予想されています。
早期発見が唯一の治療法なため、逆流性食道炎と言われたら症状が無くても定期的な
内視鏡検査が必要です。

<参考サイト>
逆流性食道炎(胃食道逆流症・GERD)
http://www.ne.jp/asahi/web/oki/health/shokudoen.html

<番外編>
透明な「雪だるま」のような不思議な生き物を、水中写真家が静岡県沼津市の大瀬崎
の海中で見つけた。
約60年前に新種として論文の記載があるが、その後は見つからず、標本も残って
いない幻の軟体動物だと分かった。
生きた状態での撮影は、世界で初めてという。
全長約1センチ。
ドラえもんを思わせるシルエットで、内臓が白く透けて見える。
クリオネ」の愛称で親しまれているハダカカメガイに近い種類で、チョウの羽の
ような「翼足(よくそく)」をはばたかせて泳ぐ。
論文に載ったスケッチしか残っておらず、標準和名もなかった。
このたび、「ヒョウタンハダカカメガイ」と命名することにした。
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出典 朝日新聞・朝刊 2009.1.22(一部改変)
版権 朝日新聞社