鉄欠乏性貧血

貧血とは、何らかの原因で赤血球の数が減少したり、赤血球の色(ヘモグロビン、血色素)が薄くなる病気のことをいいます。
血液が赤い理由は赤血球が赤いためで、その赤いのはヘモグロビンが含まれているためで、主な成分は鉄です。
鉄は成人の体内で約4gしかない微量元素です。
赤血球中にあって酸素を体の隅々に運搬する役割をもっていて、肝臓や脾臓や骨髄にも貯蔵鉄として存在しています。

きょうは貧血でもっともポピュラーな鉄欠乏(低色素)性貧血をとりあげました。
内容の多くは


からのものです。

鉄欠乏性貧血とは

生体内でヘモグロビンの合成に不可欠な鉄が欠乏し、ヘモグロビンがの合成が十分に行われないために生ずる貧血で、日常最も多く見られる貧血です。
私達の体は鉄を作り出すことは出来ませんので食物から補給することが必要です。
成人男性で毎日約1mgの鉄が失われます。
一方、通常摂取された鉄はその約10%が吸収されますので、1日約10mgの鉄を摂取しなければいけません。
成人女性の場合には月経による出血で1日平均2mg、さらに妊娠中の女性は1日平均で3mgの鉄が必要となり、それぞれ1日20mg、30mgの鉄を摂取しないと鉄の不足状態となります。
鉄の不足分は体に蓄えられている貯蔵鉄(通常約1000mg)から供給されますが、貯蔵鉄が枯渇すると鉄欠乏性貧血が現れてきます。
参考:女性が月経のために失う血液量は月平均で45ml、一方1mlの出血で失われる鉄は0.5mgですので、毎月20mg以上の鉄分が失われます。また、1回の妊娠で必要とされる鉄の量は出産時の出血、胎児への鉄の補給などのため1000mgと言われています。
*ヘモグロビンは日本語で血色素といい、鉄と蛋白質からできています。
*健康な成人場合、体内には3.5~4gの鉄があり、毎日、汗や尿などで0.5~1mg程度自然に排出されています。
*成人女性の1日の鉄所用量は12mg、妊婦は20mgです。

原因

月経過多(子宮筋腫子宮内膜症など)
慢性的な出血(潰瘍や腫瘍による消化管出血、痔からの出血)
成長期や妊娠などの際の需要の増大
胃や十二指腸切除後などの吸収不良
極端な節食や偏食(思春期に多い)
*思春期の貧血は、妊娠貧血の誘引にもなります。
*妊娠期の貧血は、未熟児出産や乳児貧血(生後2~3か月で出現)の原因にもなります。
*失血量が多いと、鉄分の補給だけでは追いつけません。
原因を追求して「蛇口を締める」治療も必要です。
さらに、原因を追求しないまま治療すると、重大な病気がかくれていた場合に、見落としたり発見が遅れる可能性があります。

症状

動悸・息切れ・易疲労感(疲れやすい)・全身倦怠感(何となくだるい)・浮腫・立ちくらみ・顔面蒼白・頭痛・朝起きにくいなどの貧血の一般的な兆候の他に爪がスプーン状になったり、希に口内炎、舌炎、嚥下障害(Plummer-vinson症候群)などが見られることもあります。
気分が落ち込んでメンタル的な病気を疑われることもあります。
舌の表面がつるつるになったり、食事でしみたりすることもあり、特殊なケースですが氷や煎餅(せんべい)などの固いものを好むようになったりします。
貧血が徐々に進むことが多いため見逃しがちになります。
ヘモグロビンが極度に減少していても、体が順応して明らかな貧血症状が見られないこともあります。

診断

  Hb(ヘモグロビン濃度)<12g/dl
  MCV<80、MCH<27
  血清鉄↓
  総鉄結合能↑
  血清フェリチン↓
*WHO基準(貧血) Hb(ヘモグロビン濃度)
  <11g/dl   幼児、妊婦
  <12g/dl   小学生、中学生、成人(女性)
  <13g/dl   成人(男性)
*女性の10人に1~2人が鉄欠乏性貧血というデータがあります。
(2001年度日本赤十字社調査)
若い女性では3~4人に1人は貧血ともいわれます。

治療

原因に対する対応と鉄の補給を行います。
■鉄欠乏性貧血は不足している鉄を補給する事で、大部分のケースで簡単に貧血は治癒します。
しかし、鉄が欠乏するに至った原因を治療しない限り高率に再発しますので、原因検索とその治療が非常に大切です。
特に60~65歳以上の高齢者の鉄欠乏性貧血では、約60%が消化管悪性腫瘍などの悪性疾患によると報告されていますので、注意が必要です。
■鉄剤の服用と同時に食事療法を併用することは大切な事ですが、食事療法だけでは足りなくなった鉄を補充するには到底不十分です。
鉄剤は通常50~200mgを服用しますが、鉄分が最も多い事で有名なレバーでも1食分(50g)の鉄の含有量はわずか6.5mgにすぎません。
■一般に鉄欠乏性貧血と診断され鉄剤を服用した場合、平均0.1~0.2g/dl/日のペースでヘモグロビンが増加し、約1~2ヶ月でヘモグロビンは正常化します。
しかしその時点ではまだ貯蔵鉄は十分に補充されていませんので、さらに鉄剤を服用する事が大切です。
貧血の程度・鉄欠乏の原因により違いはありますが、半年~1年かかることが普通です。
貯蔵鉄の状態を把握するためには、血清フェリチン値を測定を行います。
フェリチンの値が20ng/dl以上あれば貯蔵鉄が十分量まで補充されたと判断し、鉄剤投与を中止しますが、貯蔵鉄を十分回復させても、鉄の喪失の原因が続いている場合は再発しますので、半年~1年後には一度フェリチンを含めた血液検査で、チェックしましょう。
■鉄剤の服用にあたっては、空腹時の投与が吸収の点では優れています(食後又は食事中の投与では空腹時投与の60%の吸収率となります)が、鉄剤には、胃腸障害(吐き気・嘔吐・下痢・便秘・心窩部痛など)という副作用が伴いやすいので、それを避けるために食直後または食事中の服用をすすめることが普通です。
■ビタミンC(アスコルビン酸)を一緒に服用すると鉄の吸収が促進するということで、併用される事がありますが、併用により消化器症状が増悪する場合もあります。
■お茶などに含まれるタンニンにより吸収が悪くなる事があります。
■消化管粘膜からの鉄の吸収は体内の鉄不足量に応じて増減する事(mucosal block)が知られており、鉄欠乏状態が強度の時には鉄の吸収率も上がっておりますが、体内総鉄量の飽和に従って鉄剤中の鉄分の吸収率が自然と低下してきます。
■経口投与で鉄を補充する限り鉄過剰症が発症することはまずありません。
■鉄剤を服用すると便が黒くなることがあります。
■はじめは鉄の吸収率が高く目立たなかったのが、ほぼ鉄の補充が完了して吸収率が低下してきた頃に目立つ場合もあります。
■制酸剤やテトラサイクリン系の抗生物質の服用、ナッツ類の過剰摂取は鉄の吸収を妨げることが知られています。
逆に鉄剤を服用していると吸収が妨げられる薬剤もあります。キノロン系の抗菌剤やセフニジル(商品名:セフゾン)などが代表的なものです。
*鉄を多く含む食品 
  肉、魚、貝、レバー、ひじき、ホウレンソウ、大豆など

■非経口的補充:鉄剤の服用で、消化器症状の副作用が顕著なとき、内服剤では鉄の吸収が十分でないときなどには、鉄を静脈注射で補給する事もあります。
この場合投与された鉄は体内に蓄積されますので、あらかじめ鉄の必要量を計算し、過剰投与にならないように注意します。

<参考および引用サイト>
鉄欠乏性貧血
http://www.nms.co.jp/naika2/blood/ida.html


<関連サイト>
鉄欠乏性貧血治療のポイント
http://www.mfukuda.com/kouen/tetu.htm
貧血
http://www.peare.or.jp/peare/a/13blod/1301blod.html
貧血と食生活
http://www2.neweb.ne.jp/wc/hooko/hinketu.html

<自遊時間>
2月4日の新聞に
「独キマンダ」、米工場を閉鎖 1500人削減
という記事が載っていました。
独キマンダは最近破綻したドイツのDRAM大手ということです。
昔、新聞のテレビの番組表で「中居正広のキンスマ」という字を見つけた時も、思わず目をこすりました。

読んでいただいて有難うございます。
コメントをお待ちしています。
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(~H20.12.10)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(~H20.5.21)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)