ロコモティブシンドローム

日本は世界にさきがけて高齢社会を迎えました。
これに伴い運動器の障害も増加しています。
「人間は運動器に支えられて生きている。運動器の健康には、医学的評価と対策が
重要であるということを日々意識してほしい」というメッセージを込めて日本整形
外科学会が、2007年(平成19年)に、運動器症候群:ロコモティブ シンドローム
(locomotive syndrome)という「概念」を新たに提唱しました。


この「ロコモシンドローム」は 日本語では「運動器機能低下症候群」と訳されます。
「ロコモティブ」は本来、「原動力」、「強力な推進力」という意味です。
しかし、医学関係では人間の身体の首から下の骨、関節、筋肉、神経など、内臓を除いた
部分をさします。
臓器症候群であるメタボリックシンドロームと対になる症候群です。
ロコモティブシンドロームの対象となるおもな疾患としては、骨粗鬆症、変形性関節症、
関節リウマチ、脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折、腰部脊柱管狭窄症などがあります。



骨、関節、筋肉などの運動器の働きが衰えると、くらしの中の自立度が低下し、介護が
必要になったり、寝たきりになる可能性が高くなります。
運動器の障害のために、要介護になったり、要介護になる危険の高い状態がロコモティ
ブシンドロームです。

運動器とは、身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称です。
運動器はそれぞれが連携して働いており、どのひとつが悪くても身体はうまく動きません。
また、複数の運動器が同時に障害を受けることもあります。
運動器を全体としてとらえる、それがロコモの考え方です。

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日本整形外科学会 ロコモパンフレット2009年度版から
http://www.kansetsu-itai.com/2009/06/post-118.php



ロコモティブシンドロームについて
―新しいコンセプトには新たな言葉が必要―

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)は、運動器の障害により要介護
になるリスクの高い状態をいいます。
ロコモティブは運動器(locomotive organs)の意味です。

●「運動器の健康」には適切なメカニカルストレスが必須である
第81回日整会学術総会で宇宙飛行士の毛利衛氏は、「人類は宇宙生命と成りえるか」と
題して、興味深い招待講演をされました。
宇宙では体を支える必要がないため筋肉や骨は非常に脆弱となります。
宇宙飛行士はこれを防ぐため、エルゴメーターやゴムバンドを使って日課として運動を
しますが、それだけでは十分でなく、長期宇宙滞在者には帰還後通常の生活に戻るため
リハビリテーションプログラムが用意されているとのことです。
そして「宇宙という無重力状態では、今の体の状態を維持できない」と感想を述べられ
ました。
これは、運動器の健康には適切なメカニカルストレスが必須であることを示す好例です。

●「運動器の障害」は要介護の原因となる
多くの人々は高齢になることに不安を持っています。
しかし、一般生活者が高齢になったときに患う病気として心配するのは、がん(77%)、
認知症(70%)、脳血管障害(67%)、心臓疾患(57%)の順で(荒井由美子ら、
2005)、運動器疾患の認識度はさほど高くありません。

●運動不足は「運動器の健康」に有害で、その先に要介護の危険がある
禁煙は難しいといわれています。
製薬会社で禁煙の広報を担当している喜多英人氏によれば、禁煙をすすめるコツの一つは
「喫煙は有害だというイメージを持ってもらうこと」だといいます(朝日新聞、平成20年
5月20日、コラム「あなたの安心」)。
そして非喫煙に比べ喉頭がん32.5倍、肺がん45倍のリスクがあるというデータが添えられ
ています。
いま社会で話題となっている“メタボ”にも「肥満は有害である」とのメッセージが込められ
ており、その行き着く先に「脳卒中」「心筋梗塞」の危険があるのです。
運動器の重要性をアピールする場合、「身体を適切に動かしていないことは単に運動不足
という習慣の問題ではなく、運動器の健康に有害であり」、「その障害の先には要介護の
危険がある」というコンセプトを明瞭に述べていく必要があります。
運動器はサイレントオルガンで、障害がすすむまで症状が現れません。

平成20年度から、厚労省の運動器疾患対策事業が始まりました。

日本整形外科学会 理事長 中村 耕三先生
出典:日本整形外科学会 広報室ニュース 第74号(一部改変)
http://j-locomo.com/Topics.html



1. ロコモティブシンドローム[用語説明]
■ロコモーション(locomotion)とは移動能力のこと

■ロコモティブ(locomotive)とは移動能力を有すること


2. なぜ「ロコモティブシンドローム」という概念が必要だとわれわれが考え始めたか?
■高齢者では変性、骨粗鬆など運動器の複数の病態が複合して移動能力を低下させる

■各々の疾患、病態は互いに関連しあう

■専門分化が運動器にまで及んだことは高齢者の運動器の問題を考える上では弊害になる

■専門分化によって得られた知見を構造化することが必要で、いわば整形外科を再総合化
する合言葉が必要

■運動器の障害が要介護の要因として重要であることを要介護になる前の年代の人にも知
っていただきたい

■運動器の障害のために要介護となることを予防するための合言葉


3. そもそも運動器ってなに?
■運動器とは身体活動を担う筋・骨格・神経系の総称であり、筋肉、腱、靭帯、骨、関節、
神経、脈管系などの身体運動に関わるいろいろな組織・器官の機能的連合のこと

■運動器はそれぞれが連携して働いており、どのひとつが悪くても身体はうまく動かない.
また複数の運動器が同時に障害を受けることもある

■高齢者では運動器の複数の病態が複合して移動能力を低下させる

■整形外科で扱う対象の総称
明治37年、田代義徳初代東大整形外科教授は科の名称として整形外科か運動器外科かで
悩んだ


4. ロコモティブシンドロームの三大要因
■脊柱管狭窄による脊髄、馬尾、神経根の障害

■変形性関節症、関節炎による下肢の関節障害

骨粗鬆症骨粗鬆症性骨折


5. ロコモティブシンドロームという名称に関連する疾患、病態
<運動器不安定症>
運動機能低下をきたす疾患
■脊椎圧迫骨折および各種脊柱変形(亀背、高度腰椎後彎・側湾など)
■下肢骨折(大腿骨頚部骨折など)
骨粗鬆症
■変形性関節症(股関節、膝関節など)
■腰部脊柱管狭窄症
■脊髄障害(頚部脊髄症、脊髄損傷など)
■神経・筋疾患
■関節リウマチおよび各種関節炎
■下肢切断
■長期臥床後の運動器廃用
■高頻度転倒者
上記の疾患が現在又は過去にあり、かつ機能評価基準の自立度又は運動機能のどちらかの
低下を示すもの

機能評価基準
■日常生活自立度:ランクJまたはA(要支援+要介護1、2)
■運動機能:1) または 2)
1):開眼片脚起立時間 15秒未満
2):3m Timed up and go test
    3メートル歩行時間評価(3mTUG)11秒以上
(2006年4月日本整形外科学会日本運動器リハビリテーション学会、日本臨床整形外科医
の連盟で発表)

廃用症候群
■1964年のリハビリテーションの教科書にある disuse syndromes、disuse phenomena
■使わないでいると衰えてしまう現象
■急性期を乗り切った患者が関節拘縮、筋萎縮、痴呆症状に陥ってリハビリテーション医療
関係者に紹介される場合が多い


ロコモーションチェック(ロコチェック)2009
http://j-locomo.com/Lococheck.html

ロコモーショントレーニング(ロコトレ)2009
http://j-locomo.com/Locotraining.html



<関連サイト>
ロコモティブシンドロームとは?
www.nhk.or.jp/.../archive/ 2009/0406/index.html
(イラスト入りで、ロコモの概念を簡単に知ることができます)

ロコモティブシンドロームをご存知ですか?
www.keisetsukai-group.com/ other/locomo/

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・片足立ちは両足立ちに比して 2.75倍の負荷がかかる
・1分間片足立ち訓練=約53分間歩行に相当
厚生労働省2006.8.29記事. 阪本桂三、整形外科学会