ビタミンとがん予防

がんと食生活については時々話題になります。
きょうはそれらの話に水をかけるような論文の紹介です。
3年前の発表ですが、「ああいえばこういう」、よくいえば「コペルニクス的転回」というたぐいのものか何だかよくわからなくなってしまいます。
医学に限った話かも知れませんが、こういった「どんでん返し」的な研究は、日本の研究者はあまり得意ではありません。
アングロサクソン特有かと思っていましたが、中国の研究者もお好きなようです。


#がんと食生活の重要性に疑問を投げかける論文発表
#ビタミンなどの積極的な摂取はがん予防に効果なし!?

がんの予防には食事に気をつけ、運動をする――。
「定説」のように思ってきたことが、実はエビデンスに欠ける「仮説」にすぎなかったのかもしれない。
Journal of National Cancer Institute誌2006年7月19日号に発表された2本の論文は、がんにおける食生活の重要性に疑問を投げかける結果を示した。
 
論文の1つは、がんと食生活の関連性をみた59の試験に対するメタアナリシス研究。
ビタミンや食物繊維の摂取など健康的な食生活が、がん患者の死亡率や再発率に有効であるかどうかを調べた結果、食生活の有用性を証明できなかったというものだ。
 
もう1つは、胃がん予防におけるH.ピロリ菌の除菌とビタミン、ニンニクの効果を比較した無作為化二重盲検試験
がん予防の効果が高いといわれるビタミン Cやセレニウムを含むサプリメントを7年以上にわたり服用したが、有効性は示されず、2週間の薬物投与による除菌の方が胃がんの発症をおさえた。
またニンニクエキスも同様に、長期間の服用は胃がんを予防するとはいえない結果となった。



#●食生活の是正が生存を延長させるエビデンスはない
1つめのメタアナリシス研究は、英国Bristol大学のAnna A. Davies氏ら研究グループが発表した。
Cochrane Libraryなど4つのデータベースを使い、がんや前がん病変(preinvasive lesions)の患者を対象とした無作為化試験で、サプリメントも含めた食事介入が、死亡率や再発率などに与える影響を調べた研究を抽出した。
化学療法や放射線療法を併用した試験は除外した。
 
これらの条件のもと選択されたのは、がん患者を対象にした25の試験と、前がん病変の患者を対象にした34の試験。
このうち、がん種が特定されていたのは、前者では皮膚がん(4試験)、乳がん(4試験)、膀胱がん(3試験)などを含む18試験、後者では大腸がん(19試験)を含む全34試験だった。
 
メタ分析の結果、がん患者を対象にした試験において、全死亡に対する「健康的な生活」(食事介入や体重の減量、運動を含む7試験)のオッズ比は0.9(95%信頼区間 0.46-1.77)であり、βカロチンやビタミンCなどの抗酸化物質(7試験)も、レチノール(4試験)も死亡率を改善する結果は得られなかった。
再発に関しても同様の結果だった。
さらに前がん病変の患者を対象にした試験においても、前がん病変からがんへの進行、前がん病変の再発に対し、食事介入の有用性は示されなかった。
 
このため研究グループは「がん患者における食生活の是正が、生存を延長し予後を改善するというエビデンスはない」と結論づけた。
その理由の1つとして、分析の対象とした試験の多くが、患者の割りつけや盲検化に問題があり、「試験の質が低かった」ことにあるという。
そして「エビデンスが集まるまでは、医師は患者に健康的な食事を摂るよう勧めるべきではあるが、健康的な食生活ががん自体を管理する上で最重要であると言ってはいけない」と述べている。



#●胃がん予防にビタミンとニンニクは有用性なし
2つめの研究は、中国北京大学のWei-cheng You氏と米国がん研究所のMitchell H. Gail氏らが行った無作為化試験。対象は中国山東省中部の一地域に住む35~64歳の3365人。
 
このうちH.ピロリ菌陽性者(2258人)は、アモキシシリンとオメプラゾール、あるいはプラセボの投与を2週間、その後、ビタミンC(250mg)、ビタミンE(100IU)、セレニウム(37.5μg)を含むサプリメントとニンニクエキス、あるいはプラセボの服用を7.3年間続けた。
一方、H.ピロリ菌陰性者(1107人)は、ビタミンのサプリメントとニンニク、あるいはプラセボの服用のみを7.3年間行った。

試験は1995年に開始し、1999年と2003年に胃の生検を行った。
その結果、除菌治療では重度な慢性萎縮性胃炎や腸上皮化生、異形成、あるいは胃がんの発症は有意に低下し、1999年の時点でのオッズ比は0.77(95%信頼区間 0.62-0.95)、2003年では0.60(同0.47-0.75)と減少した。
また2003年における胃がんの発症率は除菌治療群では1.7%で、プラセボ群の2.4%に比べて低かった。
 
ところが、ビタミンやニンニクを服用した場合は、こうした良好な結果は得られず、胃がんに対するハザード比はビタミン服用で1.03(95%信頼区間 0.61-1.73, P=0.91)、ニンニクは1.06(同 0.63-1.78, P=0.84)だった。
このため「ビタミンやニンニクの長期服用は前がん病変や胃がんの発症予防に有効ではない」と研究グループは結論づけた。
http://cancernavi.nikkeibp.co.jp/report/post_1.html
出典 「がんナビ通信」 2006.7.26
版権 日経BP


<関連サイト>
ビタミンC
http://plaza.harmonix.ne.jp/~lifeplus/text/Vita_C.html

ビタミンCやE、ガン予防に効果みられず 米研究
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2547695/3602104



<番外編>
新型インフル>対象外の妻にワクチン接種 鹿児島の院長
鹿児島市内の病院長が11月上旬、医療従事者向けの新型インフルエンザワクチンを、対象者でない妻に接種していたことが分かった。

鹿児島県が決めた接種の優先順位に違反しているが、院長は取材に「院内の感染症対策委員会が決めたこと。指示はしていない。廃棄はもったいないし何が悪いのか」と話している。

県は、国が決めた優先順位に従い、接種を、10月19日から医療従事者▽11月4日から重い持病がある入院患者▽同20日から入院患者以外の重い持病者と妊婦――と定めた。

院長によると11月5日、まず医師十数人に対して接種。
看護師らの分は届いていなかったという。

同日、看護師の一人から「1人分残り、対策委で決めたので奥さんに」とワクチンを受け取り、院長自身が妻に接種した。
妻は重い呼吸器系の疾患があるが入院はしておらず本来、接種は11月20日からだった。

院長は「妻から感染して私が倒れると困ると、対策委が決めた。『余ったら廃棄』との国の決まり自体が問題」と主張している。

国は、いったん開封したワクチンが余り24時間経過した場合「適切に廃棄する」よう定めている。ワクチンを巡っては、兵庫県内の病院で診療所長が対象外の孫に接種した例が発覚している。
(福岡静哉)
http://www.excite.co.jp/News/society/20091213/20091213E40.001.html
出典 毎日jp2009.12.13
版権 毎日新聞社
<コメント>
記者の福岡氏のコメントは勿論ありませんが、当然よくないこととしてニュースとしてとりあげた訳です。
「重い呼吸器系の疾患がある」ということで、そんなに杓子定規に決めなくても医師の裁量でいいじゃないですか。
馬鹿げた記事もほどほどに。

県はそこまできちんとしなくても「原則的に」の文言をどうして入れないのでしょうか。
何より、そんなに効果があるものでもありません。
私はというと自分自身は勿論のこと家族にも接種する予定はまったくありません。
当院のナースも接種を希望しません。


<診察椅子>
今日は日曜日。
午前中の時間を使って、新型インフルエンザワクチンを予約していただいた1歳から小学校3年生を対象に接種しました。
実は当院としては今日が初めての新型インフルエンザワクチンの接種です。
スタッフが率先して休日を返上して勤務するという申し出があって実現しました。
ちょっぴり、この申し出はうれしかったです。




読んでいただいて有難うございます。
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