黄斑上膜

きょうは「黄斑上膜」という眼科の病気をとりあげてみました。


’’’どんな病気か’’’
加齢に伴って起こる特発性と、ほかの眼病に伴って起こる続発性がありますが、ここではより一般的な特発性黄斑上膜(おうはんじょうまく)についてのみ解説します。
 
黄斑部網膜の上にある後部硝子体皮質(こうぶしょうしたいひしつ)が、半透明の膜状の組織になったものが黄斑上膜です。
黄斑上膜がすべて見え方に影響するわけではなく、自覚症状のない黄斑上膜もたくさんあります。
黄斑上膜の厚み、収縮の度合いなどによっては、視力が低下します。


’’’原因は何か’’’
黄斑円孔(おうはんえんこう)と同様に、硝子体の加齢性変化が原因になります。
最も典型的な出来方を説明しておきます。
正常な眼球でも40歳から60歳くらいになると、眼球の大部分を占める硝子体に生理的な変化が起こってきて、硝子体が網膜から離れていくます。
これを後部硝子体剥離(はくり)といいます。

その時、何かの拍子に黄斑部の後部硝子体皮質が網膜の表面にとり残されます。
とり残された硝子体皮質はやがて線維状になって収縮します。
黄斑上膜が収縮することにより網膜にしわがよったり、網膜がずれたり、中心部に水がたまったりすると見え方が影響されます((図56)。
要するに、黄斑に硝子体の一部が残ってしまい、これが分厚くなって黄斑上膜となるのです。
その他にも、外傷、ぶどう膜炎(眼内に炎症がおこる病気)、網膜裂孔、網膜剥離の手術後などでも二次的に黄斑上膜ができる場合があります。

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’’’症状の現れ方’’’
黄斑上膜は多様な病気で、症状の現れ方も一様ではありません。
視力低下、変視症(へんししょう)、霧視(むし)などが多い症状ですが、突然現れることはなく(突然気づくことはある)、いつとはなしにということが多いようです。
変視症は黄斑円孔とはまったく違い、波打って見えることが多いようです(図54-c)。

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’’’検査と診断’’’
眼底検査で簡単に診断がつきます。
アムスラーチャートで「ゆがみの程度」を判定します。
OCT(光学的干渉断層計)は、黄斑上膜の下にある網膜の状態を描き出す(網膜の断面を撮影)ので、とても有用です。
 
以前は、黄斑上膜による視力低下は、光が上膜にさえぎられたり、網膜にしわがよったり、網膜がずれることで細胞の並びが乱れたりすることなどが原因と考えられていました。
しかし、OCTで網膜の様子がよく観察できるようになると、中心部網膜の中や下に水がたまることが視力低下の主因であることがわかってきました。


’’’治療の方法’’’
治療をするなら、硝子体手術が唯一の方法です。
手術によって黄斑上膜を除去する以外に膜を取り除くことはできません。
しかし、黄斑上膜はすべて治療しなくてはいけないものではありません。
程度によっては治療の必要はないので、視力障害や変視症の程度、発症してからの期間などさまざまな条件を考慮して治療すべきかどうかを考えます。
視力低下・ゆがみ等の患者さん自身の自覚的症状が強くなったときに、症状の改善のため手術(硝子体手術)を行います。

黄斑上膜に対する硝子体手術では、まず眼球の中を占めている硝子体(透明なゼリー状の組織)を専用の器械によって切除します。
その後小さいピンセットのような器具で黄斑部のセロファン状の膜を慎重にはがしていきます。
黄斑上膜をはがした後の網膜の状態によっては眼球内にガスをいれて終了することがあり、その際は手術後うつぶせの姿勢をとる必要があります
 
失明に至るという病気でもないので、本人が望まなければ無理に手術する必要はありません。


’’’黄斑上膜に気づいたらどうする’’’
徐々に発症・進行する病気ですからあわてることはありませんが、とりあえず治療方針を決める必要があります。
専門医に診てもらって、手術の要否、経過観察の要否などを診断してもらうのがよいでしょう。
手術するかどうか、するならいつするかはよく話を聞いてから決めたほうがよいでしょう。
黄斑部に強い皺(しわ)・浮腫(むくみ)・円孔(あな)を作ってしまうことがあるので、手術をしない場合でも定期的な診察を行い、黄斑上膜の状態を検査しておく事が大切です。

<参考および引用サイト>
黄斑上膜 - goo ヘルスケア(一部改変)
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10A71300.html


<黄斑上膜 関連サイト>
病気について 黄斑上膜  京都府立医大病院眼科
http://www.ganka.gr.jp/eye/sickness_ohan-j.htm
■黄斑上膜とはこの黄斑の上にセロファン状の膜ができる病気です。

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図2はOCTの画像です。
矢印の部分が黄斑上膜です。



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出典 朝日新聞・朝刊 2010.3.19
版権 朝日新聞社


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