機能性胃腸症

##その胃のもたれや痛み、もしかしたら「機能性胃腸症(FD)」かも知れません。
おなかだけではなく日常生活さえも不快にさせる「胃のもたれや痛み」。
潰瘍やがんなどの可能性があるため、病院では内視鏡検査で胃の状態を確認するわけですが、 何の異常も見つからないケースが増えてきています。
従来は「慢性胃炎」と呼ばれていたこの症状を、最近では「機能性胃腸症」と呼んでいます。


#「機能性胃腸症」とは?
機能性胃腸症(FD: Functional Dyspepsia)」は、内視鏡検査などで胃に潰瘍やがんなどが認められないのに、胃のもたれや痛みを感じる症状のことをいいます。
こうした症状は、昔は胃下垂、胃アトニー(アトニーとは筋肉の緊張が低下またはないことを意味し、胃無力症ともいわれます)と呼ばれ、最近まで胃けいれん、神経性胃炎、慢性胃炎などと診断されてきました。
しかし、胃の粘膜に何の異常もないのに、胃の粘膜に炎症があるという意味の「胃炎」を使うことは正確ではないということから、近年「機能性胃腸症」と呼ばれるようになってきたのです。

胃のもたれは、食べすぎなどによって胃の機能が低下し、胃の中に長く食べ物がとどまることで起こりますが、食べる量を控える等で胃の機能が回復します。
また胃の痛みについても、潰瘍などの粘膜障害の場合は、その障害が治ると痛みもなくなります。
機能性胃腸症は、そうした「食べすぎ」や「潰瘍」ではなく、胃の運動機能などに障害が起こることで、胃のもたれや痛みを感じてしまう病気なのです。

ある調査では、消化器の専門機関を受診した患者さんのうち、約半数の患者さんがこの機能性胃腸症でだったという報告もあるほどで、もしかすると胃の病気の中で一番メジャーなものといえるかもしれません。
(「正しい胃の動きと『機能性胃腸症』の胃の動き」のムービーあり)


#「機能性胃腸症」の原因
機能性胃腸症の原因は、現在のところ明確になっていませんが、精神的ストレスや、過労などの身体的ストレスが原因といわれており、そうした緊張状態が胃のさまざまな機能に影響を与え、意のもたれや痛みを起こしているのではないか、と考えられています。

早期膨満感;胃の拡張機能が低下した状態です。

胃のもたれ; 胃の収縮機能が低下した状態です。

胃の痛み;胃の知覚障害(知覚過敏)によって起こります。


#「機能性胃腸症」の症状
世界の医師たちで構成されるローマ委員会によって、機能性胃腸症は次の2つの症状に分類されています。
<食後愁訴症候群> 食後に起こるもたれ感を中心としたタイプ
胃もたれ感がある
○食事をしてもすぐに満腹になる(早期膨満感)
 ※愁訴(しゅうそ)は患者の訴えの意味です。

<心窩部痛症候群> 胸から上腹部に痛みを感じるタイプ
心窩部に痛みを感じる
心窩部にやけるような感じがある
 ※心窩(しんか)部はみぞおちのことです。



#「機能性胃腸症」の検査
機能性胃腸症の検査は、胃の粘膜に潰瘍などがないことを確認するための検査になります。
症状にあわせて以下の中から選ばれます。
○胸部X線検査
内視鏡検査
○超音波検査
○血液生化学検査
○その他  胃排出能検査、便潜血検査、心理テスト



#「機能性胃腸症」の治療
機能性胃腸症の治療は、対症療法を中心に行なわれます。
対症療法とは、病気による症状を和らげることを目的に行なわれる治療です。
主に薬物療法などの内科的治療と食生活を含むライフスタイルの改善の両面から行ないます。

薬物療法
主に病院で処方してもらう以下のくすりで治療を行ないます。
●消化管運動機能改善薬
低下したり、過剰になりすぎたりしている腸の運動機能を正常な状態に近づける作用を持ったくすりです。
●胃酸分泌抑制薬
胃を刺激する胃酸の分泌を抑えるくすりです。
抗不安薬
軽い不安や緊張など、ストレスに有効なくすりです。

○食生活の改善
食生活にも気をつけながら、治療を行ないます。
●規則正しい食生活を心がける
●よく噛み、ゆっくり食べ、また食べ過ぎない
●消化にいいものを選んで食べる

このほか、睡眠を十分にとり、ストレスをためないようにするなど、日常生活の改善も必要です。


ある調査では、臨床治験ではプラセボ(※1)での症状改善が40~50%の患者さんで見られました。
これはドクターがきちんと患者さんの話に耳を傾けていたか、といった診察の姿勢による効果であるとの報告もあります。
主にストレスを原因とするものだけに、信頼のできるドクターを選ぶことも、この症状を治すための重要な要素といえるかもしれません。

(※1)プラセボとは、治療効果のないくすりのこと。
くすりの効果は、使用する人の心理的なものも大きく影響するので、本当にその成分に効果があったかといった点において正確なデータを取るのがなかなか難しいのが実情です。
そこでくすりの臨床治験では、治験薬を使用したグループとプラセボを使用したグループとを比較し、治験薬の有効性を明らかにします。
その際、治験薬とプラセボはまったく見分けがつかないうえ、誰がどちらを服用しているかはわからないようにして実施されます。

<参考および引用>
胸焼け・胃もたれ・便秘でお悩みの方のための情報共有サイト
消化管運動機能改善委員会
http://kanja.ds-pharma.jp/health/kenkou/about/fd/index.html
大日本住友製薬のサイトです)




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出典 日経新聞・朝刊 2010.4.17
版権 日経新聞





機能性ディスペプシアの診断基準と治療
http://medical.radionikkei.jp/premium/entry-157178.html
(ドクター向けのサイトです)









<自遊時間>
ネットで話題に!中国雑技団もびっくりの「ラヂオ体操第4」って!?
http://www.news-gate.jp/2010/0523/5/



読んでいただいて有難うございます。
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