強力な多剤耐性菌が拡散

抗生剤の効かない最近がこの世に蔓延(はびこ)ったらどうなるでしょうか。
想像するだけでも恐ろしい話です。


強力な多剤耐性菌が拡散 インド・パキスタンから-初の死者、監視訴え・国際チーム

抗生物質がほとんど効かなくなる遺伝子を持つ多剤耐性菌がインドやパキスタンで広がり、両国に旅行して感染する例が増えていると、インド・マドラス大や英健康保護庁(HPA)などの国際研究チームが16日までに英医学誌ランセット電子版に発表した。
 
AFP通信によると、パキスタンで交通事故に遭い、入院した際にこの耐性菌に感染したベルギー人男性が帰国後の6月に死亡。
最初の死者と報じられた。
インドなどで治療を受けた際に感染した人は英国やオーストラリアでも見つかった。
 
この遺伝子は「ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ1、New Delhi metallo-beta-lactamase-1(NDM-1)」と呼ばれる酵素を作る働きがあり(酵素遺伝子)、大腸菌や肺炎桿菌などさまざまな細菌に広がっている。
研究チームは、NDM-1遺伝子を持つ細菌が世界各地に拡散する可能性が高く、各国当局が協力して監視する必要があると指摘している。
 
研究チームによると、この遺伝子は細菌が染色体とは別に持つ小さな環状DNA「プラスミド」にあるため、細菌から細菌へ移りやすい。
多剤耐性菌によく使われる「カルバペネム抗生物質」が効かないことが、懸念を高める要因となっている。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201008/2010081700004
出典 時事ドットコム 2010.8.17(一部改変)
版権 時事通信社

(参考)カルバペネム抗生物質:多剤耐性菌による症状の救急治療の現場で「最後の手段」とされている

<私的コメント>
この男性は旅行中に交通事故で脚に大けがを負い、現地で入院して治療を受けた後、ベルギーに帰国していました。
帰国時にはすでに感染しており、コリスチンという強力な抗生物質を投与したが効果がなく、死亡したということです。



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出典 朝日新聞・朝刊 2010.8.24
版権 朝日新聞社




<関連サイト>
薬剤耐性菌の感染で初の死亡確認、ベルギー人男性
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2748386/6074504
AFP BB News 2010.8.15
■ベルギーでは、この男性とは別に故国のモンテネグロを旅行中に事故に遭い、モンテネグロで入院した後に感染していることが分かった男性も確認されている。
この男性は帰国後にベルギーで治療を受け、7月に回復した。
ルーヴェン大学(University of Leuven)の細菌学者、Youri Glupczynski氏は、「この細菌の発生の中心はインドとパキスタンだとみられるが、接触と旅行によって広い地域に広がっているようだ」と語った。


抗生物質効きにくい病原性大腸菌 米で確認、日本でも
http://www.asahi.com/science/update/0819/TKY201008190089.html
出典 asahi.com 2010.8.19
版権 朝日新聞社
抗生物質で治療しにくい新型の多剤耐性の病原性大腸菌が米国で広がっていることが、ミネソタ州の退役軍人医療センターなどの研究でわかった。
ST131と呼ばれる型で、従来の耐性大腸菌に比べて病原性が比較的高く、感染すると重症になりやすい。日本でも見つかり、西日本などで拡大中という。
■米感染症学会の専門誌に今月、掲載された論文によると、2007年、米国で抗生物質が効かない大腸菌の流行があった。
研究チームが入院患者127人から採取した大腸菌を調べたところ、うち54人がST131だった。
■耐性がある大腸菌は病原性が低いものが多く、病原性の高い大腸菌抗生物質による治療が可能だったが、SST131は病原性が比較的高いうえに耐性もある。
■カルバペネムなど切り札となる薬への耐性はみられていないが、チームのジェームズ・ジョンソン博士は「この菌がもう一つ耐性遺伝子を獲得すると、ほとんど治療不能。大変、憂慮される」と警告している。
■ST131は米国以外の数カ国で見つかっている。
九州大病院の内田勇二郎助教によると、耐性がやや異なるST131が西日本を中心に拡大中という。
大腸菌の多くは無害だが、まれに重い感染症を引き起こすものもある。
ST131は、激しい下痢を引き起こしたりするO(オー)157とは異なる型だが、食中毒を起こすこともある。
必要以上に恐れることはないが、尿管感染が悪化した敗血症などで患者が死亡する場合もある。
抗生物質の乱用などによる耐性菌の発生は世界的な問題になっており、世界保健機関(WHO)は来年4月の世界保健デーのテーマを「薬剤耐性」にする予定。
また最近、インド由来とみられ、抗生物質がほとんど効かない耐性遺伝子NDM1を持つ菌も見つかっている。


耐性菌、医療ツーリズムで?拡大 インドから欧州へ
http://www.asahi.com/international/update/0817/TKY201008170101.html
出典 asahi.com 2010.8.17(一部改変)
版権 朝日新聞社
■ほとんどの抗生物質が効かない多剤耐性細菌がインド、パキスタンから欧州に広がっていることがわかった。
■カルバペネムは重症の感染症の治療の「最後のとりで」ともされる重要な薬で、耐性菌の発生を防ぐため、乱用は強く戒められているが、論文によると、インドでは処方箋なしで大量に使われ、耐性遺伝子発生の温床になっているという。

英国の患者の多くは、美容外科手術などを受けるために、医療費が安いインドやパキスタンに旅行していた。チームは、患者は現地で感染して帰国したとみている。
■今回見つかった細菌は病原性がそれほど高くないと見られるが、チームは、耐性遺伝子がほかの細菌へと飛び移って耐性が広がりやすい性質に注目。
ほとんど抗生物質が効かない病原性の高い菌が生まれるおそれがあり、「世界的な医療問題になる可能性がある」と監視の必要性を訴えている。
■こうした指摘に対し、インドは反発している。
耐性遺伝子の名前が首都ニューデリーにちなむこともあり、現地メディアによると、野党・インド人民党の幹部は「論文はインドがメディカルツーリズムの人気目的地となってきたタイミングで出ており、疑わしい」と述べた。


超多剤耐性菌、国内初確認 船橋市の病院、20代患者
http://www.47news.jp/CN/201004/CN2010040701001005.html
■千葉県船橋市の市立医療センターに入院していた20代の患者が、国内で使われている30種類以上の抗生物質がすべて効かない、極めて耐性の強いアシネトバクター菌に感染していたことが分かった。
患者は既に回復して退院し、院内感染もなかった。
■池康嘉群馬大教授(細菌学)によると、抗生物質がまったく効かないアシネトバクター菌の感染が国内で確認されたのは初めて。
■池教授は「多剤耐性菌5件はほかにもあり、今回は一つの例にすぎない。海外から持ち込まれて感染する危険は常にあり、対策が重要だ」と話している。
■同センターによると、患者は昨年7月上旬、けがで入院していた米国の病院から同センターに転院した。抗生物質を投与したが効果がみられず、検査でアシネトバクター菌が検出された。
患者を感染症対策を施した個室に移動させた。
アシネトバクター菌は水回りや土壌などの自然界のほか、人間の皮膚などにも広く存在。
通常は健康な人への病原性は弱いが、免疫力が低下した人が感染すると肺炎や敗血症を起こし、死亡することもある。

出典 47NEWS 2010.8.25
版権 共同通信社



<きょうの一曲>
ピアノ協奏曲第23番イ長調K488~第2楽章アダージョ
http://www.youtube.com/watch?v=lhbXOY4YU1k&feature=fvw

東山魁夷画伯はモーツアルトの音楽をこよなく愛されたそうです。
この画伯の有名な18点の風景画による<白い馬の見える風景>の連作。
「緑響く」はモーツアルトのピアノ協奏曲イ長調の旋律から想を得て生まれました。
私も昨年、この画のモデルとなった御鹿射池(長野県・奥蓼科)を訪れました。



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2009.8撮影






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