失神

最近の日経新聞の健康欄に「失神」がとりあげられていました。

失神は脳への血液の流れが一時的に低下して突然、意識を失ってしまう状態をいいます。
大抵は数分で意識が戻ってしまうため軽く考えられがちですが、心臓病など命にかかわる病気が隠れている可能性もあります。


失神、思わぬ病気のサイン?

出血や貧血 見逃さないで
失神は大人の3人に1人は一生の間に経験するといわれる発作です。
米国の調査では、年間に1000人あたり約6人の割合で起こり、日本でも毎年70万人以上が見舞われています。
東京都内では年間約2万4000人が失神で救急搬送されているという試算もあります。

失神の原因も様々です。
最も多いのは自律神経の調節がうまくいかないタイプ。
学校の朝礼や駅のホームなどで立ち続けていた時や、高齢者が食後に発症するケースなどが典型例です。

立った状態では、脳へ血を多く送ろうと、心拍数を上げ、血管も収縮させる神経が働きます。
この時に逆の働きをする神経が過剰になると、心拍にブレーキをかけ、血管も広がり血圧が一時的に低下します。


トイレや入浴時に
トイレの最中に失神が起きやすいのも同じ理由で、中高年の男性が居酒屋などで酒を飲んだ後、排尿時にふらつくケースは少なくありません。
激しく咳き込んで、そのまま失神する例もあります。
いずれも顔色が青くなって倒れることが多いのです。
そういった場合は、横になって1~2分たつと意識が戻ります。
しばらく安静にしていれば大丈夫です。
ただ、出血や貧血などより怖い原因を見逃さないためにも、後日、医療機関を受診することをおすすめします。

失神の原因は検査台に横になり台を起こしてその姿勢を数十分間保つ「ヘッドアップチルト試験」等で調べます。
ただ、医師でも確定診断が難しいケースがあります。
意識が回復してもろれつが回らず手に麻痺などがあれば脳梗塞の可能性があり、消化管出血や子宮外妊娠による失神もあります。

高齢者に多いのが食後と入浴時の失神です。
食後は消化のために血液が胃腸に集まりますが、老化現象で自律神経の調節能が衰えた高齢者では、脳へ行く血液が低下しがちで失神を起こしやすくなります。
予防には、食後にすぐに立ち上がらないようにします。
お茶やコーヒーなどに含まれるカフェインには自律神経を刺激する作用があるので適度に飲むことをお薦めします。

冬場のお風呂にも注意が必要です。
熱めの湯に長くつかると、体温が上がって血管が広がり失神することもあります。
狭心症不整脈が起こりやすくなる場合もあります。


エコー検査受診を
失神の原因としての心臓の不調を見逃すと危険です。
失神全体の2~3割は心臓が原因といわれます。
脈が早くなったり遅くなったり止まったりする不整脈が主な原因です。
予兆もなく突然に倒れます。
危険なタイプでは、けいれんが起き、呼吸もとまりそのまま亡くなる人さえいます。

突然死を招く心室の頻脈や細動、20~40代男性が寝ている間におかしないびきなどを発して急死するブルガダ症候群も不整脈も一種。
体を横にしても不整脈が続いていると回復しない。

幸いに命を落とさずに済んだとしても原因を見逃したままだと同じことが繰り返され、次は死亡することもある。
医療機関で採血や心電図、心エコー検査を受け、心臓をきちんと診てもらう必要があります。

医師は家族に50歳以前で突然死した人がいないかなども調べ、最終的に判断します。
再発したら命にかかわる患者にはペースメーカーやICD(植え込み型除細動器)などの装着や、心臓の不整脈の原因箇所を焼き切る手術を勧める場合もあります。

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出典 日経新聞・朝刊 2010.8.22(一部改変)
版権 日経新聞






<番外編>
体内時計 簡単に高精度での測定に成功 佐賀大と山口大
頭髪やあごひげの根元についた細胞から、24時間周期の体のリズムを刻む体内時計を動かす「時計遺伝子」の活動パターンを簡単に精度良く測定することに、佐賀大と山口大などの研究チームが成功した。
体内時計の乱れは体調不良や高血圧、糖尿病などの病気の発症にかかわるため、病気の治療や予防、時差ぼけの解消などへの応用が期待される。
24日付米科学アカデミー紀要で発表した。

時計遺伝子は20個ほどあり、体のすべての細胞内に存在する。
これまで血液や口の中の粘膜の細胞で測ろうとしてきたが、手法が煩雑で精度も低かった。

明石真・山口大教授(時間生物学)らは、体毛を引き抜くと根元についてくる毛包細胞に着目。
時計遺伝子がたんぱく質を作る過程でできる物質(伝達RNA)の増減を測定すると、三つの遺伝子で24時間周期の明確な変動パターンがあった。
量が最も多いピーク時刻は、早起きの人で早いなど個々の生活習慣に対応するほか、生活リズムの変化にも連動し、同じ人が3週間かけて起床を4時間早めると、ピークも約3時間早まった。
時計遺伝子の増減が、高血圧や血糖値などの変動に、どのように関連するかは今後調べていく。

さらに、自動車部品工場で早番と遅番を1週間ごとに繰り返す20~30代の男性6人について調べると、生活リズムは約7時間ずつ前後にずれるのに対し、体内時計は2時間ほどしか変化せず、慢性的な時差ぼけになっていることが分かった。
明石教授は「労働環境の改善や、体内時計の乱れが引き起こす病気の予防・診断に役立てたい」と話す。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100824-00000012-mai-soci
出典 毎日新聞 2010.8.24
版権 毎日新聞社









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