がん用張る鎮痛剤

近くに大学病院があります。
最近「痛みセンター」が新設されました。

昨日、強度の腰痛で当センターに通院中の女性が、インフルエンザワクチンの接種のために当院に来院されました。
お話を伺うと、腰椎の側湾に伴う腰痛で手術は無理といわれているとのこと。
現在は、センターで漢方薬を2種類処方されているそうです。

そこでふと、がん鎮痛薬「デュロテップMTパッチ」に慢性痛の適応が追加されたことを思い出してご本人にお話しました。

その後に、以下の記事を見つけました。



がん用張る鎮痛剤、肩・ひざの慢性痛治療に光?

厚労省、使用を承認  処方誤り副作用の疑い例
取り扱いが簡便な張り薬タイプで、がんの強い痛みを和らげる鎮痛薬が、重い肩やひざの痛みなど慢性痛の治療にも使えるようになった。
国内で慢性痛を解消できない患者は推計約390万人。
この鎮痛薬は患者の治療の選択肢を広げるとされる半面、不適正な使用によるとみられる重い副作用も報告された。
医師が厳格な使用規則を理解したうえで治療する必要がある。
 
厚生労働省は1月、米系製薬会社ヤンセンファーマ(東京・千代田)製のがん鎮痛薬「デュロテップMTパッチ」を、慢性痛にも使えるよう承認した。
有効成分「フェンタニル」は、強力な「オピオイド鎮痛薬」の一種で、鎮痛作用がモルヒネの数十倍以上とされる。
世界保健機関(WHO)はフェンタニルを「中等度から強度のがんの痛み」に使うよう勧めている。


3日に1回
パッチは親指のつめ程度の大きさの張り薬で、使用方法は簡単だ。
効果が現れるのに12時間以上かかるが、胸のあたりの皮膚に張れば、3日に1回の張り替えで済む。
がん以外の慢性痛で痛みが強い場合に使われる飲み薬の「塩酸モルヒネ」は、1日複数回服用する必要があり、煩雑だった。
 
都内在住のAさん(仮名、43)は同パッチを使う一人。
6年ほど前に消化器系の難病である潰瘍性大腸炎を発病。
おなかの奥の重い鈍痛に悩まされていた。
今年3月、帯状疱疹を発症すると、腹痛の痛みもひどくなった。
慢性痛に悩まされてから、「ふつうに生活していても疲れやすくなった」という。
 
中村さんはペインクリニックに通い続けたが、腹痛は治らず、このパッチを用い始めた。
当初は食欲不振や吐き気、嘔吐に苦しみ、「必ずしも楽な治療でなかった」と明かす。
ただ、今は症状も落ち着き、「良い治療を受けられた」と満足している。
 
慶応大の高木安雄教授や松平浩・関東労災病院川崎市)勤労者筋・骨格系疾患研究センター長らが実施した2009年の共同調査(約2万人から回答を回収)によると、国内では2200万人程度が慢性痛を抱え、うち390万人程度の患者は既存の治療で痛みを解消できていない。
治療に不満を感じる患者の86.4%が「痛みやしびれがとれなかった」としている。
 
厚労省は9月に開いた有識者の検討会「慢性の痛みに関する検討会」で慢性痛対策に関する提言をまとめ、「有効性の乏しい治療が今なお続けられている」と指摘した。
実際、医師からも、「炎症がひいた痛みに効果がない非ステロイド性抗炎症薬を使い続けて副作用である胃腸障害を引き起こす例は多い」との声が出ている。
 
ヤンセンは非ステロイド性抗炎症薬などで痛みを解消できていない患者に対し、「パッチは新たな治療を提供する」としている。


国内各社も開発
慢性痛の治療を改善する患者の需要は高いとみられ、国内の製薬各社は治療薬の開発に躍起だ。
久光製薬日本新薬はそれぞれ、がんの痛みに使う薬剤を慢性痛に応用するための開発を進める方針だ。
 
ただ、デュロテップMTパッチの使用には注意が必要だ。
ヤンセンによる同薬剤の市販直後調査では、同薬剤の不適切な使用で慢性痛患者に起きたとみられる重い副作用事例(呼吸抑制)が1件判明した。
このほか、同薬剤との因果関係は不明ながら死亡事例が2件起きている。
 
同パッチは3日に1回の投与でその間は鎮痛効果が持続する。
他方、その副作用も持続する恐れがあり、同社はまず薬効持続期間が短い別のオピオイド鎮痛薬で、患者が副作用に耐えられるか確かめることを使用上の注意として求めている。
だが、いずれの例でも医師は適切な確認をせずにパッチを処方していた。
 
強い作用のオピオイド鎮痛薬は従来、医師にも使用に抵抗があった。
3日に1回張るパッチは使い勝手が良く、利用が広がるのでは、との期待があった。
ただ、医師の理解が十分でないまま不適切使用が相次げば、不安が広がり、医師も処方しづらくなる。
患者が新しい治療の恩恵を受けられなくなる事態だけは避けたい。


使用法周知、メーカー任せに限界 医師・学会の協力必要
強い鎮痛作用と裏腹に副作用の恐れも高いヤンセン製のデュロテップMTパッチ。
オピオイド鎮痛薬では国内で初めて明確に「慢性痛」への適応を認めるのに際し、厚労省は同社に、適正な流通管理に必要な措置を講じるよう求めた。
 
ヤンセンは医師に慢性痛やパッチなどについてeラーニングを受講する仕組みをつくった。
これを受講、テストに合格すると、「確認書」を医師に発行する。
薬局では処方せんと確認書の2つがそろわないと、患者が薬を受け取れないという。
 
ただ、同社が公表した不適切事例のうち、重い副作用が起きたケースでは医師や薬剤師のミスで、医師がeラーニングを受けなかったのにパッチが処方されてしまった。
処方薬剤の量も多すぎた。
死亡事例ではオピオイド鎮痛薬による安全性や有効性の確認が不適切なままパッチが処方されていた。
 
医師の理解不足で、一部とはいえ薬剤の適切使用を促す仕組みが十分機能しなかった形だ。
 
ヤンセンのeラーニングを受けた医師は「求められる治療に関する知識水準は必ずしも高くはない」と漏らす。
医師の知識底上げをメーカーに任せるだけでは難しい,と指摘する声もある。
医師や学会も巻き込んでの取り組みが求められそうだ。

出典 日経新聞・夕刊 2010.11.11
版権 日経新聞


<関連サイト>
フェンタニル(貼):デュロテップ
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se82/se8219700.html

がん疼痛治療剤「デュロテップ®MTパッチ」の承認を取得
http://www.janssen.co.jp/inforest/public/home?paf_gear_id=2100029&paf_gm=content&paf_dm=full&vid=v11&cid=cnt47336

[PDF] 適正使用徹底のお願い
http://www.janssen.co.jp/info/20100722_DrtMT.pdf

デュロテップMTパッチ16.8mg
http://www.qlife.jp/meds/rx13592.html

「デュロテップMTパッチ:慢性疼痛の効能追加」
http://hello.ap.teacup.com/d-inf/2055.html


<自遊時間>
以前、駐車違反強化のニュースがあった時に、違反切符を「張る」という表現が新聞でされました。
マスコミはすべてこの書き方になっています。
私は、「貼る」という書き方を信じていたので違和感がありました。
今でもすっきりしません。

きょうのタイトルも「張る」です。
「がん用張る・・・」ではなんだか「頑(がん)張る」みたいになってしまいます。




他に
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