野菜・果物と糖尿病

野菜・果物と糖尿病予防

野菜や果物を多く食べることが健康によいとされる。
2型糖尿病の予防との関係を調べた研究が、英国医学雑誌電子版に8月掲載された。

著者らは文献検索で6件の追跡調査を選び出した。
米国の研究が4件、中国とフィンランドの研究が1件ずつだった。
対象者を合計すると22万3512人、平均13.4年追跡していた。

その結果、摂取量が最小のグループに対する、最大のグループのリスクを集計すると、野菜では0.91倍(研究5件)、果物では0.93倍(5件)、野菜と果物の合計では1.00倍(4件)と、いずれも誤差範囲の結果で、リスク低下は認められなかった。

一方、ホウレンソウやレタスなどの緑の葉の野菜の場合は0.86倍(研究4件)で、リスクが低下していると判断された。緑の葉の野菜の摂取量が最小群と最大群の差は、1日122グラムに相当した。


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著者らによると、食物と糖尿病についての従来の研究は、炭水化物によるリスク上昇と、食物繊維によるリスク低下に焦点が当てられてきた。
野菜と果物の役割は十分分かっていなかったという。

緑の葉の野菜によるリスク低下の仕組みについて、著者らは、βカロテン、ビタミンC、ポリフェノールによる抗酸化作用(活性酸素による細胞障害の予防作用)などを挙げている。
しかし、最も重要な成分は、血糖上昇を抑える作用がはっきり分かっている食物繊維ではないかと思える。

野菜や果物と2型糖尿病との関係を直接調べた追跡調査が、意外に少ないことが印象的だ。
そのため、野菜と果物を合わせた場合のリスクの低下が見られなかった点も含めて、今後さらに研究を重ねて再検討する必要がある。

その間、糖尿病予防の重点を、肥満と運動不足の予防、さらに炭水化物を控えて食物繊維を多くとることに置くのが適切だろう。
野菜や果物の摂取も、食物繊維を多くとる手段として位置づけるのが、現状では穏当と思われる。

出典 朝日新聞・夕刊 2010.10.4
版権 朝日新聞社



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野菜と果物のがん予防効果は?

食べ物によるがん予防といえば、野菜と果物がまず思い浮かぶ。
ところが、野菜と果物のがん予防効果は、これまで考えられていたよりずっと小さいという論文が、米国がん研究所ジャーナルに4月掲載された。

西欧10カ国の25~70歳の男女約48万人の食生活を調べ、8.7年追跡、約3万例のがん発症を確認した。その結果、野菜と果物を合わせた1日摂取量が200グラム増えても、がん全体のリスクは3%しか下がらなかった。
野菜が100グラム増えても2%、果物が100グラム増えても1%しか、リスクは下がらない。
男女別でも同様だった。

野菜や果物を多く取る群は、学歴が高く、喫煙者が少なく、飲酒量が少なく、運動量が多かった。
そのため、この小さなリスク低下も、これら他の要因の効果による見かけ上の結果に過ぎない可能性があると、著者らは考えている。

著者らは、個別のがんでなく、がん全体と、野菜・果物の関係を調べた1万人超の追跡調査を6件引用している。
男女でリスク低下あり、女性のみあり、男女ともなしと、結果はばらばらだった。
このうち1件は筆者らの2008年の論文だが、男女とも野菜と果物でリスクは低下しなかった。

研究に対する論評によると、90年代は野菜と果物によるがん予防の期待が高まり、50%ものリスク低下の可能性すら議論された。
しかし、そんな期待の基礎になったのは、がんになった患者らに過去の食生活を思い出してもらい、がんになっていない人たちと比べる後ろ向き研究だった。
がんでない調査協力者は、一般の集団より食生活が健康的なことが多く、そのため、野菜と果物の予防効果を過大視する傾向につながった。

野菜や果物は、心臓病、脳卒中、一部のがんの予防には有用だ。
野菜と果物を多く食べることが健康に良いことは変わらない。ただし、がん全体の予防に対する役割は、かつての期待よりずっと小さいことを、今回のデータは示していると言えるだろう。

出典 朝日新聞・夕刊 2010.6.14
版権 朝日新聞社


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