脳卒中治療は内科・外科の連携が重要

脳の血管が詰まるなどして起こる脳卒中は迅速に診断し、患者の状態に応じて内科や脳外科(以下外科)の治療を柔軟に選べる体制が不可欠です。
日本経済新聞社が公開データを基に実施した「日経実力病院調査」の「脳卒中編」では内科と外科の連携で救命率を高め、早期からリハビリテーションを実施するなど総力戦で取り組む病院が上位となりました。



内科・外科、連携が決め手 早期リハビリに回復効果 脳卒中編 日経実力病院調査2010


「血管がかなり狭くなっている」「外科的治療はどうだろう」。
九州医療センター(福岡市)では毎朝、脳血管内科と脳神経外科の医師が症例検討会を開催し、すべての脳卒中患者の治療方針を決める。
岡田靖・脳血管内科部長は「脳卒中治療は内科と外科それぞれの治療法に固執せず、患者に合わせて柔軟に治療法を選ぶことが重要」と話す。

2001年に脳血管センターを開設し、脳血管内科医10人と脳神経外科医6人が所属、病院内には45床の専門病棟も持つ。
診断群分類別包括払い(DPC)制度の対象となった退院患者は09年7~12月で「手術なし」が計514例と、国内の脳卒中治療の“総本山”である国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の584例に次ぐ。

脳卒中の治療は時間との勝負でもある。
血管内に詰まった血栓を溶かす「tPA」は発症3時間以内に投与する必要があるからだ。

このため同センターは急患に備え、脳血管内科と脳神経外科の医師3人が常に待機。
脳の断面図を撮影する磁気共鳴画像装置(MRI)や脳血管を立体的に撮影できる装置(MRA)を24時間稼働させ、素早く治療にかかれる体制をつくっている。
tPAを投与できた患者を含めて急性脳梗塞患者のうち、8割弱は介助なしで歩行できる状態で退院できているという。

脳卒中治療の中核病院として地域の中小病院や診療所、救急隊と治療方針の共通化も推進。
脳卒中が疑われる患者を、ためらわずに同センターに送れる体制構築にも力を入れ、新規入院の8割強が紹介患者だ。

武蔵野赤十字病院(東京都武蔵野市)も症例検討会を毎朝実施。
医師や看護師、ケースワーカーらが前日に入院した患者の治療方針や経過を話し合う。
「人が足りなければ他の科も協力するなど助け合う体制ができた」(富田博樹院長)

同病院は脳卒中に特化した治療室「脳卒中ケアユニット(SCU)」に加え、脳卒中センター内にSCUなどの患者が利用する専用リハビリスペースを完備。
発症患者を受け入れて治療するだけでなく、できるだけ早期から積極的にリハビリを実施するのが特徴だ。

以前は発症後2~4週間(急性期)は安静にする方がよいとされたが、寝たままではすぐ筋肉が衰え、1週間寝ていると起きたり座ったりするのも困難になる。
横になったままだと肺炎などの合併症も起こりやすい。
富田院長は「容体が安定すれば、発症翌日からベッドなどでリハビリを始めることもある」と語る。

早ければ約2週間で近隣の回復期リハビリ専門施設へ移る。
転院先の病院の調べでは、武蔵野赤十字で急性期リハビリを受けた重症患者の日常機能評価の改善率は85.7%と、実施していない他病院からの転院患者に比べ21.5ポイント高い。
富田院長は「極力早くからリハビリに取り組むと、回復効果も良い」と早期実施の重要性を強調している。

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脳卒中 脳の血管が詰まったり、破れたりするために起こる脳血管障害。09年の死亡は約12万2000人で、日本人の死因の1割強を占め、がん、心臓病に次ぐ。半身マヒや言語障害などの後遺症で要介護状態になる原因として、最も多いとされる。

脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3つに分類される。
脳梗塞は血管が血栓などで詰まる、極端に狭くなり血液が流れなくなるなどの症状。脳出血動脈硬化でもろくなった脳血管が破れて出血する。
くも膜下出血は動脈にできた瘤が破れ、脳の表面の軟膜と、その外側を覆うくも膜の間に出血する。

かつては脳出血が最も多かったが血圧管理などで大幅に減少する一方、食生活の変化による高コレステロール化などで脳梗塞が最も多くなっている。

出典 日経新聞・Web刊 2011.1.6
版権 日経新聞





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