骨を増やす新薬

国内患者1100万人 骨粗しょう症 骨を増やす新薬

骨折の危険性が高い重症の骨粗しょう症に、新しい仕組みの薬が昨年10月に登場した。
骨の量が増えるのを促す「副甲状腺ホルモン剤」で、骨の量が減るのを抑える従来の薬とは効き方が異なり、治療成績も上々という。

腰痛がひどく、最近は腰も少し曲がり始めたIさん(仮名、73)。
病院を訪れて骨密度を測ると、重度の骨粗しょう症であることが判明した。医師から新しい薬を勧められ、使ってみることにした。

新薬の副甲状腺ホルモン剤は、1日1回、自分で注射するタイプ。
専用の注射器に使い捨ての針をつけ、おなかや太ももをつまんでボタンを押す。

Iさんの主治医は「骨密度が向上したほか、腰痛も改善し、元気になってきた」と新薬の効果に目を見張る。



骨芽細胞を増やす
骨粗しょう症は加齢とともに骨の密度が下がってすかすかの状態になり、骨が折れやすくなる病気だ。
人間の体は通常、骨を壊す破骨細胞が古い骨を吸収し、そこに骨を作る骨芽細胞が集まって新しい骨が作られる。
この骨吸収と骨形成のバランスが崩れ、骨吸収の働きが強くなると、骨の量が減ってしまう。

今回、登場した副甲状腺ホルモン剤は、骨ができるのを促す骨形成促進剤と呼ばれる。
骨芽細胞を増やし、骨を壊すよりも骨を作る量が上回るようにする。

臨床試験(治験)では、1年半の投与で腰椎の骨の密度が10%以上増えたことが確かめられた。
腰椎が骨折する確率も65%減った。

発売元である日本イーライリリーの宗和秀明・臨床開発医師は「使い始めて9カ月目以降から顕著に効果が表れる」と解説する。

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女性患者多く
日本骨粗鬆症学会によると、国内の患者数は推定で1100万人。
このうち800万人が女性だ。
女性は閉経後の50歳代前半から、男性は60歳代後半から増えるという。

女性の患者が多いのは、女性ホルモンであるエストロゲンの減少が骨粗しょう症の引き金になりやすいから。
エストロゲンには骨が減るのを抑える働きがあり、閉経でエストロゲンが減ると骨が減りやすくなる。

産業医科大学の中村利孝教授(整形外科)は「加齢に伴う臓器の機能低下で骨の中のコラーゲンが変化し、骨が弱くなることも一因だ」と説明する。

腰の曲がった高齢者が典型的だ。背骨の微小な骨折が少しずつ進み、変形していくと腰が曲がる。
腰が曲がると肺や心臓が圧迫されて機能が落ちやすい。
転んで手首や足などの骨を折ることもある。
脚の付け根の大腿骨けい部を骨折すると、寝たきりになるリスクが高い。

診断ではX線などで骨密度を測る。
「骨密度が若い頃のピークの70%未満」などが骨粗しょう症の診断基準だ。従来の治療法は、骨吸収を抑えるビスフォスフォネート製剤やSERM製剤などの骨吸収抑制剤が主流。
ただ、「骨吸収抑制剤は非常に効果がある薬だが、いったん背骨などを骨折すると、また骨折する可能性が高まるのは避けられない」(中村教授)。

骨吸収抑制剤を使っていた患者にも新薬は有効という。
新薬は薬価ベースで従来薬の10倍にあたる月5万~6万円と高価だが、「発売以降、想定の2倍のペースで利用されている」(日本イーライリリー)。
毎日自分で注射するのは負担という声に応え、旭化成ファーマが来年の発売を目指し週1回の注射で済むタイプを開発中。

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骨粗しょう症の予防法について中村教授に聞いた。

まずは骨密度を測定して骨の健康を調べておく。
日常生活では背筋を真っすぐ伸ばし、前かがみにならないよう姿勢に気をつける。
カルシウムやビタミンDなどの栄養維持も欠かせない。
週30分の適度なウオーキングなどの運動も有効という。親子だと体質や生活習慣が似てくるため、「父母が骨粗しょう症の場合は気をつけてほしい」と呼びかけている。
(川合智之)
出典 日経新聞・Web刊 2011.1.21
版権 日経新聞


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