てんかん 新薬相次ぐ

手術や検査、保険適用広がる
国内に患者は100万人いるとされるてんかんで、2006年から相次いで4種類の新薬が出た。
副作用が少ないのが特徴で、眠気やめまいなどの副作用に悩んできた患者の期待は高い。
薬で発作が抑えられない患者の手術や検査に対する公的医療保険の適用も広がってきた。

●発作治まり性格戻る
三重県に住む会社員男性(34)がてんかんの発作で倒れたのは08年3月、ゴルフに行こうと自宅を出た時だった。気がつくと、血だらけで救急車の中にいた。

搬送先の総合病院で側頭葉てんかんと診断された。
「車の運転はできませんが、2年間発作がなければ、また乗れるようになりますよ」。
男性は仕事に車が欠かせなかった。生後9カ月の子どもを抱え家も買ったばかりだった。

すぐに入院して薬による治療が始まった。
側頭葉てんかんに使われることが多い薬をのんだが、翌日、全身に激しいかゆみと発疹が出て中止した。次にのんだ薬はかえって発作がひどくなり、数時間意識を失うこともあった。

同年5月、妻(39)がネットで調べた静岡てんかん・神経医療センターhttp://www.shizuokamind.org/
を受診した。
検査の結果、脳の海馬という部分に発作の原因があった。

同センターで別の薬に替え、2カ月後、発作がなくなり退院できるようになった。
だが、家に戻ると激しい頭痛に悩まされた。常にイライラして家の物をたたいたり、壁に穴を開けたりして「人が変わった」と妻を驚かせた。

副作用を気にした医師の勧めで09年2月、再び入院。
このとき、前年に出たばかりの新薬「ラミクタール」を薦められた。約2カ月間かけて新薬に移行すると、頭痛やイライラ感が消えた。

病気がわかり男性は転職を余儀なくされた。
新しい職場でてんかんのことは話していない。
「今の薬になって妻は私の性格が戻ったと笑う。薬を飲むたびに家族を守ってくれと祈る」と話す。新薬に切り替えてから発作はない。


●副作用を減らす期待
てんかん薬では近年、相次いで四つの新薬が出た=
男性もこの新薬に出会って副作用がおさまった。

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てんかんの発作は、脳全体が興奮する「全般発作」と、脳の一部が興奮する「部分発作」に分けられる。その症状は全身が硬直した後けいれんを起こしたり、全身の力が抜けて崩れるように倒れたりするなど個人によって違う。患者の7割が部分発作を起こすと言われ、新薬はいずれも部分発作に効くとされる。

静岡てんかん・神経医療センターの井上有史院長は、新薬の特徴を「副作用が少なくて使いやすい」と話す。

てんかん薬の多くが、発作を起こす脳の神経の興奮を抑える働きを強める。
このため副作用として眠気やめまいが起きる。
ほかにも薬によっては体毛が濃くなったり、食欲が落ちたりする。新薬はこうした副作用が軽くてすむと期待されている。

患者の中には薬を複数のむ患者もいるが、新薬は他の抗てんかん薬や降圧剤などの違う薬を併用する場合でも、安心してのめるという。

てんかん患者の中には、これまでの薬では発作を抑えられない難治性の人が約2割を占める。
新薬で発作が抑えられるのではとの期待も高いが、国立精神・神経医療研究センターhttp://www.ncnp.go.jp/
小児神経科(東京都)の須貝研司主任医長は「新薬といえども旧来薬が作用する仕組みを組み合わせたものが多いので、効き目に過剰な期待は考えものだろう」と話す。

ただ、昨年発売された「イーケプラ」は、脳の神経を興奮させる神経伝達物質が放出されること自体を調整するという、これまでの薬にない仕組みを持つ点で期待されている。
すでに認められているラミクタール以外は、子どもにも使えるよう臨床試験中だ。

患者やその家族でつくる日本てんかん協会http://www.jea-net.jp/
は主なてんかん薬の特徴や注意点、価格などをまとめた「抗てんかん薬ポケットブック改訂3版」(送料込み500円)を昨年10月に発行した。新薬も掲載しているので参考になる。(日本てんかん協会/電話03・3202・5661)


●脳波記録、原因探る
薬で発作が抑えられないと、脳の一部を取り除く外科手術がある。
発作の原因が脳の一部に限られているなら薬が必要なくなることも多い。

昨年7月、発作を抑える機械を埋め込む迷走神経刺激療法が保険適用になった。
脳と内臓を結ぶ神経に、左胸に埋め込んだ機械から電気刺激を与えて発作を抑えるよう働きかける。
自己負担が一定額を超えると払い戻しを受けられる高額療養費制度を使えば約10万円で済む場合がある。

東大病院の川合謙介准教授によると、発作が完治するわけでないが、回数は平均で半分ほどに減り、症状も軽くなる。
電気刺激の強さや頻度を変えられるので、声がかれるなどの副作用も抑えやすい。

また、昨年4月から発作が起きた時の様子をビデオと脳波で記録する検査が保険でできるようになった。保険適用は手術の前後に限られるが、東北大学病院てんかん科の中里信和教授は「発作はてんかんが原因なのか、発作が脳のどの部分で起きているのかが詳しく調べられる」と話す。



<記者から読者の皆さまへ>
てんかんの新しい薬について取材を始めたのは昨年10月。専門の医師にすぐに取材できたものの、取材にご協力いただける患者の方を見つけるまでに大変時間がかかりました。

取材の中でお話を聞いた方の中には病気について、新聞に取り上げられることをためらう方が多くいらっしゃいました。
今回、ご協力いただいた男性もそうでしたが、背景には職場や学校などで、病気について知られると偏見を持たれてしまい、精神的につらい経験をしている方が少なくないようでした。
 
てんかんという病気について調べると、発症する年齢は乳幼児から高齢者まで幅広く、誰もが、いつ発作を起こしても不思議ではない病気です。
また、多くが薬で発作を抑えることができる病気です。
 
8割程度の人たちが18歳未満で発症していることから、学校などでもてんかんという病気について、もっと多くの人たちに理解を深めてもらうことも必要だと感じました。
 
日本てんかん協会などによると、長年薬をのみ続けている人の中には、副作用に悩みながらも、発作を抑えられているからと、古くからある薬をのんでいる人もいるようです。
 
発作の再発の恐れもあるので、薬を切り替えることは、大きな決断です。
また、新薬はまだ値段も高いので、専門医に相談してみてはいかがでしょうか。
 
日本てんかん協会では、電話による相談を受け付けています。
電話03・3232・3811(月、水、金曜日、午後1時15分~午後5時)


外科手術はてんかん専門医の認定がある外科医にご相談されてはいかがでしょうか。
日本てんかん学会ホームページhttp://square.umin.ac.jp/jes/
都道府県別で紹介されています。

迷走神経刺激療法は東大病院のホームページhttp://plaza.umin.ac.jp/~kenkawai/vns.html
に詳細がかかれています。

それぞれにメリット、デメリットがあります。
よく相談された上で治療方針を決めてください。

出典 朝日新聞・朝刊 2011.1.13
版権 朝日新聞社



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