在宅治療で急変した時

きょうは「在宅を続けるための入院」という内容の新聞記事をとりあげました。


在宅で急変、入院しやすく

具合が悪くなった時に一時的に入院させて欲しい――。

自宅で療養する患者の声を受け、診療所と連携して在宅患者が急変した場合に受け入れる仕組みづくりに取り組む病院が出てきた。
国も今春から、診療報酬上の加算を新たに設けて、後押しを始めている。 


往診医と連携、仕組み作り急げ
リウマチや脳梗塞(こうそく)の後遺症があり自宅で療養している愛知県阿久比町の女性(75)は10月中旬、たんがからみやすくなり薬が飲めなくなった。
往診にきた診療所の在宅医に「肺炎でしょう」と診断され、国立長寿医療研究センター(同県大府市)に緊急入院することが決まった。

抗生剤などで症状はよくなり約1カ月で退院できた。

女性は4年前から車いす生活で、おかゆなどを食べることもできるが鼻に通した管から栄養を補給する。介護の必要性が最も高い「要介護5」の認定を受け、夫(72)の介護のもと、医師の往診や週3回の訪問看護、ヘルパーなどを利用する。

一時的に悪くなったときに優先して国立長寿に入院できるシステムにも登録していた。
夫は「何かあっても安心。病院の医師にいちから説明しなくてもすむ」と話す。

昨春に始まったこのシステムでは、在宅医が必要と判断すれば必要な検査の結果が出なくても早期に患者は国立長寿に入院できる。
入院先を迷ったり、入院を断られたりする恐れがない。

患者の情報は在宅医と国立長寿の間で共有され、無駄な検査は省ける。
病院と在宅医が連携して治療にも当たる。
また耳鼻咽喉科脳神経外科など国立長寿の専門医が全身の検査や治療をしてくれるメリットもある。

2人部屋と個室の全20ベッド。
自宅で療養する患者の救急からみとりまで対応する。
熱が出たり呼吸の状態が悪くなったりした場合も入院できる。
また腹部の穴から管で胃に栄養を入れる胃ろうの交換や、家族が病気の時に一時的に預かる入院も認める。

登録は患者と診療所の在宅医。
登録する医師は58人いる。
昨年度の入院は、登録患者164人でのべ254件。
うち199件が自宅に戻った。
自宅に戻って亡くなった割合(在宅死率)は36%で愛知県平均の約3倍だった。

三浦久幸在宅医療推進室長は「24時間対応する在宅療養支援診療所など、往診に力を入れる所だけでなく、往診をするか迷うような診療所も在宅医療をやってみようかという気になるようだ。このやり方だと特別な環境でない診療所でも始められる」と話す。

ただ収支は厳しい。
開設前の推計では満床で年2千万円の赤字。
実際の入院率は60~70%でさらに赤字は膨らむ。
急変患者に対応するため、病棟看護師は16人、夜間は2人ずつと手厚い態勢をとるなど人件費がかかるためだ。

入院の需要は登録患者の1割弱、20床を満床にするには約200人の登録が必要だとわかってきた。
鳥羽研二病院長は「在宅医療の安心の設計として、効率的な支援病棟のシステムが広がるよう政策提言をしていきたい」と言う。


療養支援の加算新設
厚生労働省が2008年に一般の人を対象にした意識調査によると、必要な時には入院したい人も含め「自宅療養」を望む人が6割を超した。
一方で、最期まで自宅療養できると考える人はわずか6%。

理由には「症状が急変した時の対応が不安」(54%)、「急変時にすぐ病院に入院できるか不安」(32%)などがあがった。自宅で療養したくても、現実にはそれを支える態勢が乏しいことをうかがわせた。

そうした不安を解消するため、在宅の患者が急変した時などに入院を受ける所を増やそうと、この春の診療報酬改定で「救急・在宅等支援療養病床初期加算」が新たに設けられた。

訪問診療なども展開する康明会病院(東京都日野市)は「一時的な入院をさせて」という在宅医らの切実な声を受け、昨春から2つのベッドを急に悪くなった在宅患者らのために使っている。
この春までに30~40代の医師3人を大学病院などから招き医療機器もそろえた。
今後、10ベッドまで増やしていく考えだ。

対象は肺炎や骨折、脱水、心不全などの患者。今年4~9月の半年間で、緊急入院の相談は計64件。
8割にあたる52件は実際に入院した。
在宅からが大半を占めるが、特別養護老人ホームや有料老人ホームからも入院がある。

同病院のE常務理事は「在宅医療を推進しながら、急変した時に入院できない状況はおかしい。緊急入院の需要を満たしていきたい」と話す。

ただ加算は長期療養患者向けの療養病床だけ。
急性期患者を受けるため入院基本料が療養より高い設定の国立長寿のような病院の一般病床では、在宅の急変患者を受け入れても収入面の優遇はない。

都のモデル事業などに指定されたK病院(荒川区)は、地域の診療所や施設合わせ約90カ所からの紹介で急変患者を受け入れる。
42床のうち2、3割がそうした患者で埋まる。

食事やトイレなどに手がかかる患者が多く、依頼数も増えつつある。
病院側は「このままではスタッフが疲弊する」と嘆く。

都医療政策課の担当者は「緊急一時入院は在宅医の支援になるし、具合が悪くなればいつでも病院に行けるとわかれば在宅を続けられるという患者が多い。昨年から今年にかけて実施した木村病院などによるモデル事業を検証していく」という。


◆キーワード<救急・在宅等支援療養病床初期加算> 
2010年度の診療報酬改定で設けられた。
在宅療養中の患者や介護施設の入所者が急変し、病院や有床診療所の療養病床に入院すると、受け入れ側の収入が1日につき1500円増える。
14日以内の制限がある。
急性期病院に患者が集中するのを防ぎ、療養病床にも在宅患者らの受け入れを担ってもらおうとするもの。
急性期病院から状態が落ち着いた患者を受け入れる場合も同じように1日1500円つく。



<私的コメント>
今後,年々高齢者が増えていきます。
緊急入院が出来る医療機関が増加しなければ、急変した在宅の高齢者は入院機会が奪われます。
緊急入院が必要なのは在宅患者だけではありません。
毎年ニュースとなる介護施設でのインフルエンザやノロウイルスの集団発生と死亡。
私は対処の遅れと不完全さがこういった死亡の原因と考えています。
介護施設医療機関ではありません。
十分な処置が行われていない可能性があります。

採算性の改善のための<救急・在宅等支援療養病床初期加算>がこの程度の額のものであれば、実効性には大いに疑問があります。 

出典 朝日新聞・朝刊 2010.12.2
版権 朝日新聞社



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