胃がん 「早期」は剥離切除

日経実力病院調査2010 腫瘍の状態で治療法選択 「早期」は剥離切除 胃がん

胃がんは年間約10万人が発症し、日本人で最も多いがんだけに治療技術は世界的にも進んでいる。
早期がんには内視鏡で負担をかけずに切除する方法も普及、早期の生存率は100%に近い。
日本経済新聞社が公開データを基に実施した「日経実力病院調査」の「胃がん編」で上位に入った病院はがんの状態を十分見極めて治療法を選んでいる。
一方、緩和ケアの体制は不十分で課題も浮かび上がった。

<参考>
緩和ケア[ palliative care ]
病気の根治を目指すのではなく、痛みを取り、症状を和らげることを目的とした医療。
医療用麻薬をはじめとする鎮痛剤の投与、食事がとれなくなった患者に対する輸液、精神的なサポートなどを含む。
がんやエイズの患者に実施されることが多い。
かつては治療の手段がなくなった後の終末期の医療と考えられていたが、最近では治療と並行して早期から行うことが重要との考えが主流になっている。



今回の調査で国立がん研究センター中央病院(東京・中央)は、胃がん手術を受けて2009年7~12月に退院した患者が442例に上る。
うち内視鏡で胃の内部から切除したのは175例と全国で最も多かった。

同病院ではまず内視鏡でがんの大きさや進行度合いを診断。
がん細胞を一部採取し、がんの大きさや組織型など特徴を調べる。
そのうえで、外科と病理科の医師とで手術方法を決める。09年の1年間で内視鏡手術は393例に達し、375例(95.4%)は「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」だった。

内視鏡手術には、腫瘍にワイヤをかけて電気で焼き切る内視鏡的粘膜切除術という方法もあるが、消化管腫瘍科・消化管内視鏡科の小田一郎医師は「ESDは確実に病巣を摘出できる」と説明する。

ESDは患者の口から内視鏡を挿入し患部の下に液体を注入。患部を浮き上がらせ、電気メスで病巣を胃壁から取り除く。手術時間は1時間程度だ。
ただ、術後に出血の危険が数%あり、1週間程度の入院が必要という。

がん細胞は胃壁の内側の表面に発生し、徐々に胃壁内部に進行していく。
内視鏡で手術できるのは、「胃壁表面の浅いがんで、がん細胞が1つにまとまっている比較的悪性度の低い分化型が対象」と小田医師は説明する。

ESDは06年から公的保険の適用対象になり、日本の各病院に広がった。
日本は胃がん患者が多いが、早期発見も多く、日本の内視鏡手術件数は世界でトップの実績を持つ。

他方、早期でもがんが胃の粘膜下層を超えたり、進行した胃がんになったりすると、内視鏡手術ではなく、胃を切除する外科手術が必要だ。
開腹手術が一般的だったが、腹部に数カ所の穴を開けて器具を差し入れる腹腔鏡手術も普及している。

腹腔鏡のメリットは体への負担の少なさだ。
県立静岡がんセンター(静岡県長泉町)は、寺島雅典胃外科部長が就任した約3年前から腹腔鏡に力を入れてきた。
出血量は開腹の場合100~200ccだが、腹腔鏡は10~20cc程度で、寺島部長は「呼吸器への負担も少なく、早期がんで、肺機能が低下した高齢患者などには有力な選択肢」と話す。

同センターは、リンパ節への転移がないなど早期の胃がんに限定して腹腔鏡手術を行っている。
大きな傷を残したくない患者が腹腔鏡を選ぶ例が多い。
開腹では、みぞおちからへそまで20センチ近く切開し、傷ついた体幹部の筋肉が完全に付くまで3~6カ月はかかるため、運動選手などは腹腔鏡を選ぶ傾向があるという。

リンパ節に転移した進行がんは腹腔鏡では切除が難しく、鉗子(かんし)でがん部分を強くつかむとがんが散らばる恐れもあり、安全と確実性を最優先して開腹手術を選ぶ。
ただ、寺島部長は「どちらも翌日には離床し、8日目ごろに退院するのは変わらない。開腹手術も麻酔方法を工夫すれば、一概に腹腔鏡手術より痛みが大きいとも言えない」と指摘している。


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(注)診療実績の*は0~+9の誤差あり。「-」は0~9例で詳細不明。「開腹や腹腔鏡手術」「内視鏡胃切除術」は「手術あり」の内数。ただ、他の手術もあるため、2つの合計は「手術あり」と一致しない。医療機能評価の点数は審査結果の各点数を合計して100点満点に換算。平均点は69.8点で、空欄は未認定か非公開。構造の各項目の内容は(注1)がん診療連携拠点病院加算=国から拠点病院の指定を受けている病院(注2)緩和ケア診療加算=常勤や看護師などの専従チームがあるなど(注3)緩和ケア病棟入院料=緩和ケアを行う病棟があるなど。診療報酬が未加算の項目は空欄

出典 日経新聞・Web刊 2011.1.27
版権 日経新聞

<私的コメント>
がんの手術などの場合には手術件数は「病院の実力」について一定の評価が出来ると思われます。
しかし、腹腔鏡手術や内視鏡手術などの新しい技術の選択については「病院側の思惑」を完全には排除出来ません。
どういうことかというと、病院の成績を上げるために従来の術式が良いと思われる場合にも新しい術式が選択されてしまうケースがあるからです。



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