腹腔鏡に潜むリスク

腹腔鏡に潜むリスク 体への負担軽減のはずが…  患者死亡も 難しい手術、第三者が審査

体への負担が少ないとして普及してきた内視鏡手術。
最近、この内視鏡の一種である腹腔鏡を使った手術で複数の患者が死亡した。
この手術法の妥当性を正確に見極める動きが医療現場に出てきた。

手術計画について第三者と協議することも重要だ、と指摘する声もある。

腹腔鏡手術は部位によって難易度はかわる。
胆のうは「外科医の入門」とされる。
大腸がんでも普及し、胃がんも早期発見なら積極的に使われる。
開腹であれ腹腔鏡であれ、同じように治ることが期待できるなら患者負担を考えて腹腔鏡が選択される。



肝臓切除難しく
ただ肝臓や膵臓は難しい領域。
開腹手術でも切除が難しい場所に腫瘍ができることが多い。
保険適用は部分切除など一部の術式に限られ、肝臓の右葉の切除などは保険適用外となる。
私的コメント
こういった手術を受けられる場合には、ご自身で保険適用の有無をしっかり調べておいた方がよい。
保険適用がないのに、医療提供者側から何ら説明がない場合には問題がある。

保険適用外の手術はリスクも高い。
日本肝胆膵外科学会の調査によると、肝臓の保険適用内の腹腔鏡手術は死亡率が0.27%だったが、適用外は1.45%。膵臓の切除は保険適用内の0.1%に対し、適用外は1.08%だった。

保険適用外の高難度の腹腔鏡手術は倫理委員会の審査を受けなければならない。
安全面に配慮しているかなどを審査する倫理委員会を通すことで、リスクを適切に判定するのが目的だ。

日本肝胆膵外科学会調査では、腹腔鏡による肝臓や膵臓を切除する保険適用外の手術で、55%の病院が倫理委員会を通していなかった。

国内の大学病院では昨年度、内視鏡手術の一つ胸腔鏡手術で縫合不全などの合併症が5件続いた。
すべて保険適用外の手術で、院内の倫理審査を受けていなかった。
私的コメント;
保険適用外の手術の場合、手術費用は本来100%患者負担となります。


「腹腔鏡手術の信頼が揺らいでいる」。名古屋大病院では危機感を募らせる。
保険適用外の手術に対する審査体制を見直す方針だ。
倫理委員会とは別に、新たな審査組織を6月にも立ち上げる。
手術の妥当性を検討し、詳細な検討が必要なら倫理委員会で審査する仕組みだ。
私的コメント
この大学ではかつて大腸がんを腹腔鏡手術で行い、手術開始時点で腹部大動脈損傷による腹腔内大量出血を起こし死亡させたという医療事故がありました。
何を今さらといった感じです。
参考(当時の新聞記事より)
名古屋大学医学部付属病院(名古屋市昭和区、二村雄次病院長)で2002年8月、入院中の30代の男性患者が大腸摘出などの手術を受けた際、手術器具や内視鏡を腹部内に挿入するためのプラスチック製器具「トロッカー」が大動脈を傷つけ、大量出血が原因で2日後に死亡していたことがわかった。



内視鏡の症例 13年17万件超 90年から開始 腹部が半分
腹腔鏡を使った手術は、日本では1990年に胆のうの摘出で行われた。
この手術が92年に保険の対象となり、腹腔鏡手術が拡大するきっかけとなった。
日本内視鏡外科学会の調査では、腹腔鏡を含む内視鏡手術の症例数は90年には2370例だったが、2007年に10万例を超え、13年は17万8000例に上った。

90~13年の合計でみると、症例数は胆のうや胃がんなどの腹部外科が約半分。
次いで産婦人科子宮筋腫子宮内膜症などが多い。3番目は肺がんなどの呼吸器外科となっている。

一般的に内視鏡手術は開腹手術より難易度が高いとされる。
ただ日本外科学会と日本消化器外科学会の調査では、胃切除の全体死亡率1.07%に対し、腹腔鏡手術は0.43%。
腹腔鏡手術は早期がんに適用されるケースが多いことを踏まえても、日本外科学会などは「開腹と比べ死亡率が高い事実はない」としている。

出典および参考
日本経済新聞・朝刊 2015.5.17