未確立の医療が医療事故の温床に

未確立の医療、審査厳しく 患者への説明、不十分な例も

高度な医療の開発を担う大学病院などでは、安全性や有効性が確立していない薬や医療機器を治療に用いることがある。

事前審査や患者へのリスクの説明は欠かせないが、手続きがおろそかにされることもある。

相次いだ死亡事故を受け、厚生労働省は安全管理を強化している。

 

東京都内の男性(当時74)は2011年10月、J医大病院(東京都港区)で大動脈瘤の手術を受けた2週間後に多臓器不全で亡くなった。

「ステントグラフト」と呼ばれる人工血管を、足の付け根から動脈に入れたカテーテルによって運び、血管の内側に固定して動脈瘤への血流を遮断する手術だった。

 

男性の動脈瘤は胸部から腹部まで広がり、腹部で腸や左右の腎臓に血液を送る動脈が枝分かれする部分にも及んでいた。

枝分かれする動脈の血流を確保するため、窓状の穴が四つ開いた

人工血管が用いられた。

主治医である教授が豪州の医療機器会社に製作を依頼したものだった。

 

手術では、動脈内に入れた人工血管が予定の固定場所からずれるトラブルが発生。

血流が途絶えた右の腎臓が機能しなくなった。

 

男性の死後、遺族は診療記録の証拠保全を申請。

入手した文書には、人工血管を作った会社が主治医に送ったメールが含まれていた。

そこには、「動物実験臨床試験を経ていないため未知の危険があり得る」「予期せぬ危険が生じる可能性について必ず患者に説明し、同意を得ること」などと忠告が記されていた。

 

どこの国でも承認されていない特注品が使われたことを初めて知った遺族が説明を求めると、手術は、欧州と豪州で薬事承認を得た器具を使うことを条件に、臨床研究として大学の倫理委員会が承認したことが判明。

患者の同意を得る際に、倫理委承認の同意説明書を用いなかったこともわかった。

病院側は「手続き上の不備」を認め、文書で謝罪した。

 

遺族は15年3月、病院を運営する法人と主治医に計約8700万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。

昨年9月の尋問で主治医は、申請時から海外でも未承認のステントグラフトを使うことを考えていた、と述べた。

大学は係争中を理由に取材に応じていない。

 

遺族の一人は「リスクも十分認識したうえで自由な意思によって治療法を選ぶという、患者としての当然の機会が奪われた。主治医

の行為は現代の医療の常識からかけ離れており、裁判を通してその責任を明らかにしたい」と話している。

 

G大病院  担当医以外も判断関与

未確立の医療の安全管理は、14年に明るみに出たG大病院(前橋市)の死亡事故でも問題になった。

 

腹腔鏡を用いて肝臓を切除する保険適用外手術で8人の患者が死亡。

いずれも院内の倫理審査にかけられておらず、保険適用外についても患者に説明されていなかった。

 

厚労省は15年、群馬大病院に対し、高度な医療技術の開発や提供を行う施設として厚労相が認めた特定機能病院(大学病院を中心に

85病院)の承認を取り消した。

その後、厚労省が全国の特定機能病院を調べたところ、新規技術の導入についてルールを定めていない病院が他にも見つかった。

 

厚労省は16年、特定機能病院の承認要件を見直し、難度の高い新規技術の適否を決定する部門を設けることや、その判断のための意

見を述べる評価委員会の設置を求めることにした。

 

一連の事故を受けて、G大病院は、臨床倫理委員会の下に専門委員会を設置した。

専門委は、身体にダメージを与える可能性の高い手術などについて、患者に説明し、同意を得るのに用いる共通の文書を審査・承認するほか、個別の患者ごとに治療実施の可否などを判断する役割も担う。

 

いずれも旧第2外科の手術で起きた死亡事故を病院として把握するのが遅れたことから、専門委が承認したすべての治療について、担当する診療科に報告を求めた上で、他科の医師らが電子カルテ上で確認する仕組みも導入した。

 

遺族会代表のKさん(49)は「新しい手術や治療法の実施を担当医の判断だけに委ねない仕組みをつくったことは評価する。医療事故の反省を忘れず、患者本人の希望を大事にする医療を実践してほしい」と話している。

<コメント>

いずれも大学病院での医療事故という共通点があります。

功名心や昇進が根っこにある点では「白い巨塔」や「心臓移植・和田事件」やドクター関連のTV番組のストーリーを彷彿とさせます。

J大の教授は、米国で手術の腕を磨き、帰国後「鳴り物入り」で出身校の教授になった方です。

手術の様子をライブ中継して、研究会や学会に参加したドクターに手技の解説をするライブデモで、患者さんを手術中に死亡させた過去があります。

G大学の件も、学内の二つの外科教室の確執と教授の指導力不足が根底にありました。

いつ交通事故を起こしても起こしてもおかしくないドライバーが事故を起こしたケースと似ています。

 

<関連サイト>

未確立の医療の審査の手順

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/691