顔面骨折に注意

顔面骨折といえば、まずは思い浮かべるのが昨年末に話題の中心となった花形若手歌舞伎役者。
記者会見では、どこを骨折したのというぐらいに見事に治っていました。
よほど手術した先生の腕が良かったのか。
あの短期間での回復ぶりは骨折が軽かったのではと、勘ぐってしまう程です。

スポーツでの接触・酔って転倒…顔面骨折に注意

顔面の骨は体の骨のなかでも比較的折れやすい。
スポーツの最中に相手と接触したり中高年が酔っぱらって転倒し顔をぶつけたりすると、骨折することがある。
比較的多いのは鼻で、頬などが続く。
典型的な骨折の事例と治療を紹介する。

顔面の骨は鼻骨、頬骨(きょうこつ)、上顎骨、下顎骨、前頭骨などで構成する。
鼻骨などの周辺には上顎洞や篩骨(しこつ)洞といった空洞があり、周囲の骨も薄い。

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こうした構造は脳を守るためと考えられている。外部から力が加わると、顔の骨が壊れて緩衝の役割を果たし、脳を保護するという。
顔面骨折の治療に取り組んでいる杏林大学医学部形成外科・美容外科の尾崎峰講師は「顔の骨はクッションのようなもの」と説明する。

顔面骨折で一番多いのは鼻の骨折だ。
杏林大学医学部付属病院を訪れる顔面骨折患者の約半数は鼻骨骨折で、若い男性が圧倒的に多いという。
 
鼻骨は鼻のうち、目頭あたりから約3分の1までだが、鼻は顔の中で飛び出ているのでぶつけやすい。
バスケットボールやラグビーといったスポーツで相手の肘や頭などが当たったり、誤って転倒したりしたときに傷める。

大学生のCさん(21)はラグビーをしているときに相手選手の頭が鼻にぶつかった。
鼻血が出て、鼻が腫れてしまい、杏林大付属病院に運ばれた。


鼻で全身麻酔
腫れがひどいと、外観だけでは鼻骨が折れて変形しているのか分からないことがある。
そこでコンピューター断層撮影装置(CT)などを使って調べる。

通常、治療は1週間前後経過して腫れが引いてから実施するが、切開手術はしない。
痛いので全身麻酔をかけて、はさみのような形状の鉗子(かんし)を鼻の穴に挿入し、折れた骨片をはさんで元の位置に戻す。

さらにガーゼで鼻の穴の内側から固定(内固定)する。
鼻の外側は石こうのギプスなどで覆い、保護する。
杏林大の場合、通常は2~3日で退院する。運動を控えれば約1カ月で治る。

鼻骨の次に多いのが頬の骨折だ。
スポーツのほか、自転車で転倒したり、けんかで殴られたりすると、頬の出っ張りの周辺などが折れる。腫れていても、頬がへこんでいるのが分かるという。
痛むほか、鼻の横や上唇、歯茎にしびれを感じ、口も開けづらい。

CTなどで調べて全身麻酔をし整復固定術を実施する。
口の中、上あごの粘膜や目の下などを切り開き、折れた骨を元の位置に戻す。

その際、折れた骨を保持するために小さな固定部品を使う。
「プレート」と呼ばれ、細長くて薄く、チタン製が多い。
プレートは折れた骨に小さなネジなどで留める。患者は3日から1週間ほど入院。
3カ月ほどで完治する。

若者から高齢者まで幅広い年齢層にみられるのが下あごの骨折だ。
30代の男性Dさんは飲酒後、駅の階段で転倒し、下あごを強く打った。
あごから出血し、腫れた。
CTとレントゲンを撮影して調べたところ、下あごの中央と左右の耳の近くを骨折していた。

治療の基本は顎間固定とプレートによる固定だ。
顎間固定は上と下のあごがきちんとかみ合うように上下のあごを金属製の器具やワイヤ、輪ゴムなどを用いて固定すること。
軽症ならば顎間固定だけで治る。

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期間中は流動食
ただ、顎間固定を施している間は、流動食しかとることができない。
尾崎講師は「下顎骨の骨折は食事に影響を及ぼすので、手術をしない選択肢はない」と説明する。

もう一つのあごである上顎骨の骨折はあまり多くない。
この骨は交通事故や高所からの転落など極めて強い力が加わった場合に折れる。脳などを傷めることもあり、重傷度が高い。

目の辺りも骨折する。
眼窩(がんか)内骨折と呼ばれ、野球のボールがぶつかったり、けんかで相手のパンチを受けたりすると、眼球が収まっている眼窩の鼻側の骨(眼窩内壁)や下側の骨(眼窩下壁)が折れる。

特に眼窩下壁は、厚さが1~2ミリメートル程度。
まるで紙のような骨だ。
まぶたが腫れて痛むほか、気持ちが悪くなり、吐き気を催すことが多い。

CTで患部を調べ、眼球の動きもチェックする。
治療は症状にもよるが、まぶたの下を切開し、腰の骨を一部採取して、折れた下壁の下敷きとして挿入し、その上に折れた骨片を復元する。

顔面骨折で注意したいのは陳旧性骨折だ。
骨折してから数週間以上たち、折れた骨片がそのままくっついた状態をいう。
交通事故や転落事故で体の様々な部位を損傷した場合などは、顔面骨折の治療は後回しになることがある。

顔面骨折で一番多い鼻骨骨折の場合では、1カ月以上たって顔の皮膚や鼻の穴の中の傷が治ってから治療にやってくるケースもあるという。
鼻骨はくっつきやすい骨なので、陳旧性骨折の場合は骨を切り、位置などを調整する。
手術後は鼻にギプスをつけて固定する。折れた骨がそのままくっついてからの治療は患者の負担が増すので注意したい。
編集委員 鹿児島昌樹)
出典 日経新聞 Web刊 20101.1.28
版権 日経新聞

<私的コメント>
昨夜、プロボクシングWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチをTVで中継していました。
WBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志(31)が、世界初挑戦の同級4位・三浦隆司(26)を8回終了TKOで下し、3度目の防衛に成功したという試合です。
ご覧になられた方も多いのではないでしょうか。

以下、新聞報道。

「8回終了後、三浦は自ら試合続行不可能を申し入れた。
内山のジャブを受け続けた右目は腫れ上がり、視界を完全に失った。
『自分から無理だと。あれ以上続けたら死んでます』。
その顔は原形をとどめていなかった。」

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この写真は、まだ右目の腫れはあまりないのですが、8回終了時には凄い腫れ方でした。
おそらく眼窩内骨折を起こしているものと思われます。

死者も時々出るプロボクシング。
ヘッドギアが義務付けられないのが不思議なくらいです。



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