「白内障」 手術普及、眼内レンズ豊富に

年を重ねていくと老眼だけでなく、様々な目の病気にかかるリスクが高くなります。
視力が落ちたり、視野が狭くなったり、最悪の場合は失明にもつながるだけに、できるだけ早めに治療することが大切です。
病気によっては、視力回復も期待される新薬が登場するなど治療法の選択肢も増えています。

白内障

目の水晶体が白く濁り、次第に視力が落ちてくる白内障
医療技術の進歩で日帰り手術も普及、傷も2ミリメートル前後で済み、高齢者でも安心して治療が受けられるようになった。
ただ、視力回復のために目の中に入れる眼内レンズの種類が増え、治療後にピントが合わずに再手術を迫られる例があるなど、新たな課題も出てきた。

都内在住でテレビ番組制作に携わるKさん(49)は1年前、保険適用外のため約100万円を自己負担し、「多焦点レンズ」を両目に入れる白内障手術を受けた。
知人から「多焦点だと老眼も気にならなくなる」とアドバイスされたからだ。

手術で白濁した水晶体は取り除かれ、視力も出るようになったが、パソコン画面などを注視すると、にじむように見える。
慣れれば大丈夫かとしばらく我慢したが、見づらさにイライラが募った。

北里大学病院を紹介され、1月に右目だけを再手術。
遠くに焦点を合わせた単焦点レンズに変えた。
「遠くはよく見えるようになった。ただ、近くがまだピタッときていない感じがする」とこぼすが、再手術前よりは見づらさは解消されたという。


濁り40歳代で40%
白内障の主な原因は加齢だ。
水晶体の濁りは40歳代で40%、50歳代で50%、60歳代で75%、15歳代で85%、80歳代でほぼ100%の人にあるようだ。
アトピー性皮膚炎や外傷、紫外線、糖尿病などの影響で濁ることもある。

水晶体はクリスタリンというたんぱく質でできており、白濁すると光が届きにくくなるだけでなく、均一だったレンズの屈折率が変わり、きちんと網膜で像を結べなくなる。
個人差はあるが「メガネやコンタクトをしても視力が出ない」「片目で見ても2重に見える」「夜は見えるが昼見えにくい」などの症状を訴えることが多い。

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濁った水晶体を取り除き、代わりに眼内レンズを挿入する手術が基本的な治療だ。
高齢化とともに白内障の手術数は年間約100万件と、15年前の2.5倍。
手術に踏み切る時期も「昔は本当に見えなくなってからが多かったが、今は車の免許更新など、生活に不自由さを感じた時が多い」(三井記念病院の赤星隆幸部長)。
その分、単に見えるようになればよいのではなく、老眼や近視、乱視なども一緒に矯正したいという患者側の要望も高まっている。

視力回復のカギを握るのが眼内レンズだ。
素材は曲げられるアクリル樹脂などが主流で、直径6ミリメートルのレンズが2ミリメートル以下の傷口から挿入できる。
焦点も遠くか近くの単焦点だけでなく、メガネのように「遠近両用」をうたう多焦点や乱視矯正用も登場した。

滝川さんを診た北里大学の清水公也教授は「眼内レンズの選択肢が広がり、目の構造や仕事上、多焦点レンズが合わない人にも適用しているようだ」と警鐘を鳴らす。
白内障の手術をすれば老眼も治ると思っている人も多いが、眼内レンズには自動調節能力はない。
手術後にどこに焦点を合わせたいかをあらかじめ決め、目の大きさや角膜のカーブを考慮して選択する。

筑波大学の大鹿哲郎教授も「多焦点はすべてに焦点があうというよりむしろ2重焦点と理解してほしい。遠くと近くとの2カ所に1度に合わせようとするため、1つ1つの画像がクリアにならない」と説明する。


感染症にも注意
手術方法も多様化している。
従来の強膜(白目の部分)から切る手法では出血し、回復に日数がかかったり、抗血栓薬を飲んでいる人は服用を控えたりしなければならなかった。
血管のない角膜(黒目の部分)から切る方法も取り入れられ、持病のある人でも手術を受けやすくなった。

ただ、角膜を切る方法だと「傷口が2ミリメートルを超えると大きさの3乗に比例して乱視が起こることもある」(赤星部長)。
手術後の感染症も約2500人に1人といわれゼロではない。
目は内服薬が効きにくく、日帰り手術の場合も抗生物質の点眼などできちんと対処しなければならない。

最先端の医療技術をもつ日本では白内障は治療法が確立した目の病気といえる。
手術方法や眼内レンズの選択肢が増えた分、治療後の生活スタイルをきちんと見据え、何を優先するかなど、医師らとよく相談するようにしたい。

出典 日経新聞・夕刊 2010.2.19
版権 日経新聞






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