太ると肝がんリスク高く

肥満は健康を害すが、太ると心臓病や糖尿病だけでなく肝臓がんにもなりやすくなる。
脂肪肝が原因の「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」を発症するからだ。肝硬変や肝臓がんへの進行を確実に防ぐ治療法はまだない。

メタボリック症候群の人は、とにかく減量に努めたい。


参考
メタボリック症候群[ Metabolic Syndrome ]とは
心筋梗塞動脈硬化と密接に関係している病態。
日本動脈硬化学会や日本糖尿病学会などが2005年4月に日本人向けの診断基準を作成した。
肥満や血圧、血糖など個々の検査データは正常値を少しはずれた程度だが、これが複数あるとメタボリック症候群にあてはまり、心臓病や糖尿病などのリスクが大幅に上がる。
原因は食べ過ぎや運動不足など。患者は40代以上の男性を中心に1000万人以上といわれている。
治療は食事に気を配り運動量を増やすのが基本。



飲酒に関係なく
神奈川県横須賀市在住の自営業、0さん(仮名、33)は、4年ほど前から毎春受けている健康診断の血液検査で「肝臓の機能がよくない」と指摘されるようになった。
飲酒もしないので、「肝臓が悪くなる原因が見あたらない」。医師も首をかしげた。

肝臓の検査値は改善されず、2010年5月、超音波検査を受けた。「脂肪肝かもしれません」と担当した医師から、脂肪肝外来のある横浜市立大学付属病院を紹介され、同年6月、足を運んだ。

荻田さんは身長173センチで体重は80キロ超。
まだ30歳代でメタボには該当しなかったが、肥満度をみるBMI(体重を身長で2回割って算出する値)は約27で太り気味だ。
腹部に針を刺して肝細胞を採取する肝生検を受けた。
1泊の検査入院になったが、今まで耳にしたことのないNASHという病気であることが判明。
荻田さんは「肝機能が衰えている理由がはっきりしてよかった」と話す。

肝臓は健康を維持するために代謝や解毒、排せつといった様々な機能を担っている。
暴飲暴食やカロリー過多の食生活が続くと、ここに中性脂肪などがじわじわとたまっていき、脂肪肝になる。

日本国内の非アルコール性脂肪肝の患者数は、海外データなどから推計すると約1000万人。
うち1割の100万人がNASHとみられている。

慶応義塾大学保健管理センターの横山裕一・准教授らが従業員4000人規模のある会社の超音波検査データを調べたところ、男性の3~4割、女性の1割で脂肪肝が見つかった。
確定診断ではないが、BMIや糖尿病の有無、肝機能をみる検査値などから総合的に判断すると、0.5%にあたる約20人が「NASHに間違いない」か「かなり疑わしい」だった。

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進行阻止は手探り
消化器内科の医師の間で脂肪肝が注目されるようになったのはここ数年のこと。
2000年以前は「脂肪肝は良性のもので、肝臓の組織が『線維化』という硬く筋張った状態になることはない」と考えられてきたからだ。
1990年代の終わりに米国で原因不明の肝炎が多数報告され、脂肪肝が進行したNASHが病気として認識されるようになった。

生体肝移植という治療法があるように、肝臓は再生しやすい臓器として知られる。
ただ、線維化が進むと、機能が衰え、再生速度も落ちる。
NASHを放っておくと10年間に2割の確率で肝硬変や肝臓がんになるとみられている。

横浜市大病院で脂肪肝外来を担当する米田正人医師は「NASHの患者は今後も増える。ウイルスが原因のB型やC型よりも厄介な肝炎だ」と話す。

米国の研究チームは10年5月、NASHの研究論文を、米臨床医学誌ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに発表した。
糖尿病を併発していない患者247人を対象に約2年間、比較試験を実施したところ、ビタミンEの投与で改善効果が確認できたという。

ビタミンE以外にも効果的とみられる選択肢はいくつかあるが、肝硬変や肝臓がんへの進行を確実に食い止める治療法はまだ確立しておらず、手探りの状態だ。

ただ、食生活を見直し日常生活に運動を積極的に取り入れて減量すれば、脂肪肝やNASHは改善が可能との意見で専門家は一致する。
「体重を7%落とせば、肝機能は回復していく」(米田医師)

Oさんもこの半年で野菜をたくさん食べるように心がけ、大好きだった豚カツなども控えるようにした。1年前のピーク時に82キロあった体重は77キロまで減った。
体重減に歩調を合わせるように、肝機能をみる検査値も改善してきたという。

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編集委員 矢野寿彦)

出典 日経新聞・朝刊 2011.2.4
版権 日経新聞


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