ミトコンドリアで「代謝力」アップ

ミトコンドリアで「代謝力」をアップする

代謝が下がるのは、年齢のせいだから仕方がないと思っていませんか? 
実は代謝をつかさどっているのが「ミトコンドリア」。
この名を聞いて「中学校の生物の授業で聞いたことがある!」と思った人もいるのでは。
このミトコンドリア、何歳になっても増やすことができるのです。
ミトコンドリアの仕組みを知れば、代謝を良くするために何をすればいいかが見えてきます。


ミトコンドリアの数を減らすな
「食べていなくても太る」「以前より疲れがとれにくくなった」。
40代、50代にとってこれは共通した悩み。
これには、「代謝」が深く関係していると考えられます。

体の中では様々な「代謝」が起きていますが代表的なのは、食物に含まれる糖や脂肪をエネルギーに変える「エネルギー代謝」です。
この代謝がうまくいっていれば、糖や脂肪を余すことなくたくさんのエネルギーを作れます。

エネルギー代謝をうまく働かせるための重要なキーワードが、「ミトコンドリア」です。
ミトコンドリアは、細胞の中にある小さな器官。
酸素を用いて糖や脂肪を分解し、臓器や筋肉などの器官が動くのに必要なATPという物質に変えます。
ミトコンドリアは体内の“発電所”で、ATPが“電気”のような存在です」と言うのは、日本医科大学大学院医学研究科教授の太田成男さん。

ミトコンドリアは、男女ともに40代前半が曲がり角。放っておくと数も減るし、機能も低下します。すると、疲れやすく太りやすい、代謝が悪い状態に。また、ミトコンドリアの数が少ないと、一つひとつに負担がかかり、活性酸素が発生しやすくなります。

活性酸素は、全身の老化につながるうえに、ミトコンドリア自身も弱らせることに。
そのため、ミトコンドリアの数を増やすことが重要なのです」(太田さん)


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基礎代謝は、年齢を重ねるにつれて下がる  
1日に必要なカロリーを体重で割った数値を見ると、男女ともずっと下がり続けることが分かる(データ:「日本人の食事摂取基準(2010年版)」)


■メタボとは、「代謝」が悪い状態
ところで、メタボリックシンドロームの意味を知っていますか? 
メタボリックとは、英語で「代謝の」という意味。
メタボとは単なる肥満を指すのではなく、エネルギー代謝が崩れた状態を指すのです。

メタボを解消するためには、「運動をする」「摂取カロリーを減らしたほうがいい」というのは常識。
これを、ミトコンドリアの働きから考えると、興味深いことが分かっています。

まず、「運動」とミトコンドリアの関係を考えてみましょう。
運動してたくさんATPを使うと、ATPが不足します。
すると、細胞ではAMPKという酵素が活性化し「体内の脂肪を使え」「ミトコンドリアを増やせ」という指令を出すのです。

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血管が拡張すると、ミトコンドリアは増えて大きくなる  
血管拡張ホルモンをたくさん分泌するようにしたマウスは、通常のマウスに比べて、ミトコンドリアの数が多く、大きかった。
(データ:Miyashita K et.al.58:2880-92,2009 Diabetes)


「特に、AMPKが活性化するのは、やや強めの筋トレです。有酸素運動の合間にやや強めの筋トレをはさむサーキットトレーニンによって、より効率よくミトコンドリアを増やすことができます。といっても、きついトレーニングを行う必要はありません。ウオーキングの合間に、筋肉痛にならない程度の刺激を筋肉に与える運動と考えてください。太極拳やヨガ、バレエなどは、ミトコンドリアにとってもいい運動ですね」(太田さん)


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(この記事のイラスト:にしごりるみ)



ミトコンドリアにやさしい「食べ方」とは
今度は、「食べ方」とミトコンドリアの関係について見てみましょう。
「食べすぎずに、摂取カロリーを腹7分目で抑えることは、ミトコンドリアを元気にしているのです」というのは、慶応義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授の伊藤裕さん。

「摂取カロリーを適切に抑えると、長寿遺伝子のサーチュインが増えることが分かっています。サーチュインは、ミトコンドリアを増やすのです。漫然と食事をするのではなく、1日のうちに数回「お腹がすいた」と感じる時間を作ることを心がけてください」(伊藤さん)。

摂取カロリーを抑えるというと、「お茶漬けかパンだけにしよう」と考える人がいますが、これはミトコンドリアにとって、よくない食事。
ミトコンドリアでエネルギーを作る際には、酸素以外にもアミノ酸やビタミンなどの成分を必要とするからです。

疲労のための食材に詳しい、大阪市立大学大学院医学研究科特任講師の福田早苗さんは、「代謝がよく、疲れにくい体を作るために、たくさんの栄養素がかかわります」と言います。
例えば、抗疲労効果が実証された成分にはイミダゾールジペプチドがあります。

「これは、マグロや鶏の胸肉など、長時間の連続運動を必要とする動物や魚に含まれています。ほかにも、トリプトファンというアミノ酸や、ビタミンB1など、抗疲労効果の高い成分を組み合わせてとり続けることが大切です」(福田さん)

つまり、たんぱく質や野菜をしっかりとることも、代謝アップには欠かせないのです。

食事や運動の効果は、数カ月続けないと出ないと思いがち。
でも、ミトコンドリアは短期間で増えます。
「最初はきついと感じた運動でも、1週間ほど続けるうちに、きつくなくなるという経験はありませんか? ミトコンドリアが増えた結果だと考えられます。毎日作られるミトコンドリアをイメージしながら、食事や運動をしてみてください」(太田さん)。


【ストレスがミトコンドリアを弱める!】
ミトコンドリアの数が多く、それぞれがうまく働いている人は普段からよく運動し、適切な量とバランスの食事をリズムよくとっています。
すると、ATPがたくさん作られて、脂肪が余らない、という良いサイクルができます。
ミトコンドリアがうまく機能しない人は、細胞の中のミトコンドリアが少なく、一つひとつに負担がかかっています。
疲弊したミトコンドリアからは、活性酸素が発生しやすく、老化の原因に。
活性酸素は、ミトコンドリア自身も弱めてしまいます。
このような状況では、食事としてとった糖や脂肪が余り、肥満になります。
肥満は、高血圧や高血糖になりやすいのですが、これがミトコンドリアの力をさらに弱めてしまう――という悪循環に陥ってしまいます。
ストレスも、ミトコンドリアを弱める原因です。
(日経ヘルス プルミエ 三谷弘美)
[日経ヘルス プルミエ2010年11月号の記事を基に再構成]
出典 日経新聞・Web刊 2011.1.21
版権 日経新聞

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