日本人の髪が太くて直毛なのはなぜ?

日本人の髪の謎 太くて直毛なのにはワケがある

「日本人の毛髪は世界的にかなり特殊な種類に属している」――。
最近、こんな話を耳にした。
しかも、これは中国や韓国など東アジアに共通する特徴らしい。
 
そこで、状況を詳しく把握するため、髪の毛の研究に約20年間取り組んできた花王総合美容技術研究所の佐藤直紀室長のもとに向かった。


日本人の髪の太さ 白人のおよそ1.5倍
「日本など東アジア人の毛髪の特徴はとにかく直毛で太いことです。標準的な白人の毛髪のざっと1.5倍くらいの太さがあり、世界でも最も太い種類に属しています」。
佐藤さんはこう解説してくれた。
 
毛髪の太さや形態は遺伝子で決まり、人種によって大まかに次の3タイプに分かれるという。
(1)細かくカールした縮毛で、細くて固いのが黒人
(2)ウエーブがかかっていて細いのが白人
(3)太くて直毛なのが黄色人――だ。

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これは花王が各国・地域女性の毛髪の太さ(短径)を調査した結果である。
 
米国(調査対象574人)やドイツ(同595人)の平均値は0.050~0.055ミリ程度と細く、メキシコ(同148人)の 0.065~0.070ミリ程度、フィリピン(同7843人)の0.070~0.075ミリ程度と徐々に拡大。
台湾(同957人)と日本(同7580人) はともに0.080ミリ程度で、東アジアに向かうほど太くなる傾向が読み取れる。
 

太いほど円形、直毛に
佐藤さんによると、太い毛髪ほど断面の形状は円形に近くなりやすい。
逆に細い毛髪ほど楕円のようにゆがんだ断面になりやすい。
しかも「毛髪は断面が円形に近いほど直毛になりやすく、一方、断面が楕円になるほどウエーブが出て、くせ毛になりやすい」という。
 
つまり、日本など東アジア人の毛髪は世界でも最も太く、断面が円形で直毛が多いというわけ。
逆に欧米人の毛髪はより細く、断面が楕円でウエーブが出やすいのだ(写真2)。
 
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なぜ、こんな勢力分布ができあがったのだろうか?

写真3は日本人の毛髪の断面である。

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毛髪の中心部に空洞ができているのが分かる。
 
「太い毛髪ほど中心部が大きく、空洞ができやすい」と理化学研究所ゲノム医科学研究センター(横浜市)の藤本明洋さんは話す(必ず空洞ができるわけではない)。
 
毛髪は3つの層からできている(図4)。

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最も外側を包んでいるのがうろこ状のキューティクル。
これは固いたんぱく質が主成分で、髪の内部組織を守る働きがある。
そのすぐ内側は繊維状のたんぱく質でできているコルテックス。
毛髪の中心部はメデュラという柔らかなたんぱく質でできている。
ちょうど「太巻きずし」のようにのりとご飯と具でできた三重構造だ。
この中心部のメデュラが大きいほど、空洞になりやすい。
 
ここでひとつの仮説が浮上してくる。


キツネ、クマ、シカなどの毛にも空洞
「毛髪の内部に空洞ができると断熱材のように保温性が高まり、寒冷気候では生存に有利だったのではないか」というのだ。たしかにキツネ、クマ、シカなど野生動物でも、北方に生息する動物の毛の方が中心部に空洞のあるものが目立つ。
 
つまり、中国北部やシベリアの乾燥した寒冷気候を生き抜くのには、太くて断面が円形で直毛の方が適していたと考えられるのだ。
こうして、世 界では少数派である太くて真っすぐな毛髪が東アジアを中心に広がったというわけ。
詳しい理由は完全に解明されていないが、ひとつの仮説になっているようだ。
 
このほか、毛髪の種類を決める遺伝子が歯や汗腺の形状にも影響を与えることから、それが生存に有利だったという説もある。
 
では、アジア人の祖先はどのようなルートで移住してきたのだろうか?

遺伝子研究の成果により、その推定ルートが次第に明らかになりつつある。
 
図5は東京大学の菅野純夫教授、徳永勝士教授らが共同で東アジア、東南アジアの1928人を対象に遺伝子の個人差を解析し、先史時代におけるアジアでの人類の移住ルートを推定したイラストである(アジア10カ国、90人以上の研究者が参加した国際共同研究)。
 
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それによると、アジア人の祖先が南から次第に北方へ分岐し、広がっている様子がうかがえる。
 
人間の先祖は20万~10万年前にアフリカで出現し、世界各地へ進出した。
5万年以上前にインドに到達したアジア人の先祖の一部がタイに渡り、南はインドネシアへ、北は中国などへそれぞれ移住。
先住民族と混血しながら集団を形成したというのだ。
 
「南の集団の方が北の集団よりも遺伝子の多様性に富んでいる。だから、南から北上した遺伝子が現在の東アジアの住民に大きく影響しているようだ」と徳永さん。
遺伝的な特徴が似た人たちは使う言語も似ており、日本人は韓国人と最も近い特徴があるという。
 
日本人には世界では少数派の乾型(カサカサ)の耳あかや酒に弱い下戸が多い。
さらに毛髪の形状でも、東アジア特有の特徴があることが分かったというわけだ。
遺伝子上はそれぞれまったく別の現象なのだが、突然変異で東アジアに誕生し、人類の移住で広がったプロセスもよく似通っている。

「酒、耳あか、毛髪」は日本人の先祖を探るための重要な手掛かりになっているようだ。
(編集委員 小林明)
出典 日経新聞・Web刊 2011.2.4
版権 日経新聞



<関連サイト>
日本人のルーツと特徴
http://www.asahi-net.or.jp/~uv6y-ysd/sex1_1_15jp.htm
日本人
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA
あなたは縄文系?弥生系? 日本人ルーツの研究に新手法 
http://scienceplus2ch.blog108.fc2.com/blog-entry-178.html
日本人のアイデンティティを考える1
http://miraikoro.3.pro.tok2.com/study/mekarauroko/nihonjinnorutu.htm
分子レベルでみた日本人のルーツ
http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/5/5-26.html


<私的コメント>
髪の毛自体の話もさることながら、「髪の毛」から日本人のルーツを探るという内容に興味が湧きます。
この記事を読んで誰もが自分のルーツに思いを馳せるはずです。

文中の
「人間の先祖は20万~10万年前にアフリカで出現し、世界各地へ進出した。5万年以上前にインドに到達したアジア人の先祖の一部がタイに渡り、南はインドネシアへ、北は中国などへそれぞれ移住。」
はちょっとわかりにくいですね。
「20万~10万年前にアフリカで出現し、世界各地へ進出した人間の先祖」と「5万年以上前にインドに到達したアジア人の先祖の一部」との時間軸的な関係がよくわかりません。

私は、バイカル湖周辺に居住していたモンゴロイドがルーツと理解していました。
また、記事の中の図では朝鮮半島から渡来したことになっているようですが、「モンゴロイドの日本列島への移動は、前後4回に大別できる」という説があります。
つまり
1)現在のインドネシア(スンダランド)からの南方系
2)シベリアからサハリン経由でやってきた北方系モンゴロイド
3)中国華南地方から朝鮮半島を経由してやってきた南方系
4)華北朝鮮半島からの渡来系弥生人
です。     (Newton別冊「血液型・海流で探る日本人のルーツ、2000年6月)

こういった研究の手法としては、今回の研究の毛髪以外には言語・頭骨・血液型・耳垢・指紋・ヘモグロビンなどがあり最近、コンドリアDNA、Gm遺伝子などを用いた手法があるとのこと。

皆さんもご存知かと思いますが、日本人のルーツを探る関野吉晴氏の「グレートジャーニー」。
壮大なるロマンです。
はたして彼は何を見つけたのでしょうか。

関野吉晴公式サイト
http://www.sekino.info/




他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
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