淘汰されなかった遺伝子変異

淘汰されなかった遺伝子変異

内閣府が2009年に実施したがんに関する世論調査の結果、日本人がもっとも実践しているがん予防法は「焦げた部分は避ける」だった。
しかし、これは一種の都市伝説で、焦げを心配する必要はまずない。
 
「日光に当たりすぎないよう心がける」もランク入りしたが、適度な日光浴はビタミンDを活性化させ、骨を強くするだけでなく、がんの予防にもプラスですからこちらは逆効果だ。
日照時間の少ない環境で進化した白人には、紫外線による皮膚がんは大きな問題だ。
しかし、この列島に住み続けてきた日本人には問題にならない。
 
その逆の例がお酒だ。
西洋社会ではお酒とがんの関係はそれほど強くない。
エタノールを分解してできる発がん性のある「アセトアルデヒド」の解毒能力に欠ける人は、白人や黒人にはほとんどいないからだ。
アセトアルデヒドは血管を拡張させる。
お酒を飲んで顔が赤くなるのは、体内にこの物質がたまっているサインだ。
 
アセトアルデヒドを酢酸に分解する2型アセトアルデヒド脱水素酵素ALDH2)の遺伝子には変異型があるが、東アジアにしかみられない。
日本人の半分弱は両親から正常型と変異型を両方受け継いでいるので、飲めるけれど赤くなるタイプだ。
このタイプの人が深酒をすると食道がんのリスクは100倍近くまで上昇する。

そもそも、15万年前にアフリカで誕生した人類にはALDH2の変異型はなかった。
アイヌ民族縄文人が属する「古モンゴロイド」にも変異型はまずない。
2万年以上前にアジアのどこかで「新モンゴロイド」に起きた突然変異が起源と推測されている。
 
1万年以上則から日本列島に住んでいた縄文人と、約2000年前に朝鮮半島からやってきた新モンゴロイド弥生人との混血が日本人のルーツといわれる。

<私的コメント>
「約2000年前に・・・」とは、何かの間違いではと思うぐらい直近です。

当時はお酒などありませんから、ALDH2の変異型は生存上のマイナスとはならず、淘汰されずに受け継がれたわけだ。
 
渡来人である弥生人が稲作とともに日本列島に持ち込んだALDH2の遺伝子変異のおかけで、日本人の深酒は喫煙なみのリスクになったといえる。
  
執筆 東京大学病院・中川恵一准教授

参考・引用 一部変更
日経新聞・朝刊 2018.2.14