赤ら顔で深酒、がんのリスク高める

赤ら顔で深酒、リスク高める

お酒は百薬の長といわれるが、飲酒はせいぜい1合までだ。
食道がん咽頭がん、肝臓がん、乳がん、大腸がんなど、多くのがんの発症リスクを高める。

たとえば日本人男性の場合、日本酒を毎日4合飲むと大腸がんになるリスクは3倍になり、同3合でもがん全体の罹患(りかん)リスクは喫煙と同じ1.6倍になる。
飲酒しながら喫煙するのは最悪の自殺行為で、食道がんのリスクは30倍にも上る。
とくに、飲むと顔が赤くなる人が深酒をすると、食道がん咽頭がんになる危険が非常に高まることを知る必要がある。

お酒に含まれるエタノールは肝臓で「アセトアルデヒド」に分解される。
アセトアルデヒドには発がん性があるが「2型アセトアルデヒド脱水素酵素ALDH2)」が酢酸に分解して、解毒している。
ALDH2の遺伝子には、分解力の強い型(正常型)と、乏しい型(欠損型)があり、両親からどちらかを受け継ぐ。

両親からともに欠損型を受け継いだ「完全欠損型」は日本人の約5%にみられ、お酒が全く飲めない下戸だ。
飲めないから、発がんも問題にならない。
ともに正常型を受け継いだ場合、アセトアルデヒドが蓄積しにくいので、がんの危険は少ない。
ただ、アルコール中毒が多い傾向にある。

問題は両親から受けた遺伝子のうち、どちらか一方が欠損型である「部分欠損型」で、日本人の約45%を占める。
このタイプの人はアセトアルデヒドを分解する力が十分ではないので、大量に飲むとアセトアルデヒドが体内にたまる。
これが血管を拡張させて顔を赤くすると同時にがんのリスクを高める。
大量の飲酒を続けると食道がんのリスクは95倍になるというデータもある。

ケンブリッジ大学の研究チームは、アセトアルデヒドによる「造血幹細胞」のDNAの切断と染色体の不安定性などのメカニズムを初めて実験動物で解明し、英科学誌ネイチャーに1月論文発表して話題となった。
がん化との関係がうかがえる。
ALDH2の欠損型はアジア人の一部にしかみられない。

執筆 東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2018.2.7