酒が確実に高める大腸がんのリスク

大腸がんのリスク、酒が確実に高める では許容量は?

大腸がんにより、毎年約5万人もの人が命を落としている。
この恐ろしい大腸がんが、飲酒と深い関係があることをご存じだろうか。
赤身・加工肉による大腸がんリスクも話題になったが、飲酒も大腸がんのリスクを高める要因の1つだという。

こよなく酒を愛し、日々、酒を愛飲する左党にとっても、「がん」はやはり気にせずにはいられない病気である。
 
何といってもがんは日本人の死因のNo.1、生涯でがんになる確率は男性63%、女性47%にも達する。
そして、飲酒はがんのリスクを上げる大きな要因の1つである。
特に、喉頭がんや食道がんのリスクが飲酒によって上がることはよく知られている。

働き盛りの世代を襲う「大腸がん」
国立がん研究センターが2016年8月に発表したデータによると、がんの部位ごとの罹患数では、大腸がんは男女ともに2位、男女合わせると大腸がんが最多となっている。
さらには女性のがん死亡原因の1位になっている。
大腸がんは50歳を過ぎたころ、つまり「働き盛り」ともいえる年代から発症率が高くなる。 

大腸がんというと、肉や脂質を多く摂取する食生活が原因だとばかり思われることが多い。
2015年には、「赤身肉や加工肉の摂取が大腸がんのリスクを上げる」と発表され、マスコミなどで広く取り上げられたのは記憶に新しい。
しかし、どうやらそれだけではないらしい。
 
この大腸がん、飲酒と深い関係があるとも聞くが、これは本当なのだろうか。
そして、なぜ飲酒が大腸がんに影響するのだろうか。

今や大腸がんによる死亡者数は約5万人に!
かつて大腸がんは欧米に多いと言われていたが、近年は日本でも大きな問題となっている。
日本における大腸がんによる死亡者数は、最近では約5万人に達している。
 
生活習慣の変化が影響していると考えられる。
腸の長い日本人が欧米型の食事、つまり赤身肉や脂質の多い食事をすることが腸に悪影響を及ぼすといわれていた。
しかし、大腸がんのリスクを上げるのはそれだけではない。
意外と知られていないが、飲酒も大腸がんのリスクを高める重要な要因の1つだ。

飲酒が大腸がんのリスクを高めるのは「確実」
国立がん研究センターでは、日本人のがんと生活習慣との因果関係の評価を行っている。
国内外の最新の研究結果を基に、全体および個々の部位のがんについてリスク評価を「がんのリスク・予防要因 評価一覧」としてホームページで公開している。
「データ不十分」⇒「可能性あり」⇒「ほぼ確実」⇒「確実」の順に科学的根拠としての信頼性が高くなる。

この評価によると、大腸がんのリスクを高める要因の中で「確実」になっている唯一の要因が飲酒だ。
次に信頼性が高いのが「肥満」で「ほぼ確実」となっている。
 
では、アルコールの摂取は大腸がんのリスクをどのくらい上げるのだろうか。
 
5つのコホート研究のデータを合わせた合計約20万人を対象にしたデータを解析して、日本人の飲酒と大腸がんのリスクを評価した研究がある(Am J Epidemiol. 2008;167:1397-1406.)。
それによると、男女ともに過度の飲酒で大腸全体、そして結腸、直腸がんのリスクが上がるという結果になった。
特に男性の場合は顕著に現れている。

男性では、純アルコールに換算して23~45.9g/日、46~68.9g/日、69~91.9g/日、92g以上/日のグループでまったく飲まないグループよりもそれぞれ1.4倍、2.0倍、2.2倍、3.0倍と、アルコールの量に比例して、リスクが確実に高くなる。
女性の場合も、男性ほど顕著ではないが、アルコール摂取量が23g以上/日のグループは、飲まないグループよりリスクが1.6倍に高まるという結果になっている。

これは、大腸がんを気にする左党にとっては、かなり厳しいデータだ。
純アルコール23gは日本酒にして約1合。
左党からすれば大した量ではない。
 
なお、大腸は大きく、肛門近くの直腸と、その上の急カーブしている部分(S状結腸)より上の結腸に分けられるが、そのいずれも飲酒によりがんのリスクが高くなる傾向が見られた。

なぜ飲酒が大腸がんを引き起こすのか?
日本人と欧米人に分けて、飲酒量と大腸がんの関係性を分析た研究がある。
これによると、日本人は明らかに酒量が増えるほど極端に右肩上がりになるが、欧米人は実に緩やかである。

これは、やはり日本人はアルコール耐性が弱いことが原因なのだろうか?
日本人は人種的に見てもアルコール耐性が弱い方が多くいます。
アルコール耐性の強い欧米人は、1日2合未満の飲酒では大腸がんのリスクが上昇していないのに対し、日本人は1.4~1.8倍もリスクが上がっている。

ではいったい、どんなメカニズムによって大腸がんが引き起こされてしまうのだろうか?

実は、飲酒が大腸がんを引き起こすメカニズムはまだはっきりと解明されていない。
 
まず原因として考えられるのは、アセトアルデヒドによる毒性だ。
アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドには発がん性があることが実験でも確認されている。
日常的に多量飲酒が習慣化している方、そしてアルコールを飲んで、顔が赤くなるような方は、アセトアルデヒドの毒性にさらされる時間も長くなることから危険が高まる可能性がある。
 
しかし、アルコールの代謝に関わる遺伝子型と大腸がんの関連性を調べた最近の研究では、必ずしも明確な関連性は出ていない。
このため遺伝的な体質ではなく、腸内細菌の働きによってアルコールから生成されたアセトアルデヒド葉酸の吸収や働きを阻害することにより、大腸がんの発生リスクが高まるのではないかという説が有力になっている。

葉酸は積極的に摂取するといい
葉酸はビタミンB群の一種で、名前の通り葉野菜などに多く含まれている。
葉酸は、細胞の合成や修復に深く関わる重要な栄養素で、細胞の遺伝情報が入ったDNA(遺伝子)の合成に必要な成分だ。
ところが、前述のようにアセトアルデヒドは、腸内の葉酸の吸収を妨げる効果がある。
これにより、細胞の合成・修復作用が阻害され、大腸がん発生の初期段階となる遺伝子の損傷が引き起こされるのではないかと考えられている。
 
カニズムこそ明確になっていないものの、がん予防と葉酸に何らかの関係があることは確かなようだ。
では日常的に葉酸を摂取すれば、飲み続けていても大腸がんを防ぐことができるのだろうか?
 
残念ながら、葉酸をたくさん摂取しても、大腸がんの罹患リスクが下がるとは言い切れない。
タバコが明確な要因である肺がんとは異なり、大腸がんの場合、要因が非常に複雑に絡んでいるためだ。
とはいえ、葉酸不足にならないよう積極的に摂取するといいだろう。
葉酸ブロッコリーやホウレン草や小松菜などの青い野菜、そして柑橘系のフルーツに多く含まれている。できれば、サプリメントに頼らず、食物から摂取するといい。

やはり飲み過ぎは避けたほうがいい
大腸がんを防ぐためのポイントを整理すると・・・

まずは酒量である。
酒量が増えると大腸がんのリスクが上がる。
まずは酒量を純アルコールに換算して23~45.9g未満(日本酒1~2合程度)に抑えること、これが大前提だ。

食事については、食物繊維も重要なポイントになる。
穀物由来の食物繊維を積極的にとる。
かつては、ゴボウなどをはじめとする野菜からの摂取がいいとされていたが、最新の研究によって米や麦などの穀類に含まれる繊維が有効なことも分かってきた。
白米に雑穀を混ぜるなどして食べるといい。
その他、牛乳などカルシウムを豊富に含んだ食品も積極的にとりたい。
 
玄米や大麦などは、すでに日々の食生活に取り入れられている方も多いだろうが特殊なものでなく、誰もがすぐに実践できる食材なのがありがたい。
 
また、肥満も大腸がんのリスクを高める。
BMIが25を超えないよう注意する。
そのためにも週150分を目安に運動することを習慣づけよう。

肥満はがんをはじめ、様々な病気の元凶だ。
メタボと診断されている方は、さらに注意が必要だ。
溝上さんが推奨する週150分の運動は、1日に換算すれば20分ちょっと。
1駅分歩く、エレベーターより階段を使うなど、少し意識することで無理なく達成できそうである。
 
大腸がんは昔に比べ、確実に増えている。
多くの人が心配するのも無理はないが、その一方で、「大腸がんは早期発見であれば治る確率が高いがん」だ。
だからこそ早期発見がとても重要だ。
40歳を超えたら年1回、大腸がん検診を受けよう。
過度に恐れることなく、定期的にがん検診を受けながら、日々の食生活に留意し、酒と長く付き合いたい。

参考・引用
日経Gooday 2017.9.5