お年寄りの骨折に注意

お年寄りの骨折「ぬ・か・づけ」に注意

体の機能が衰え、骨がもろくなりがちなお年寄りでは、転倒がきっかけで骨折することも多い。
寝たきりになる原因にもなり、深刻だ。高齢者の場合、いつどこで起きてもおかしくないと考え、ふだんの生活から注意が必要だ。
国内に1千万人以上と推計される骨粗鬆症の治療や予防も重要になる。

転倒・骨折 要介護の原因の1割
群馬県のある市内の公民館で2月上旬、高齢者向けの「転倒・骨折予防教室」が開かれた。
65歳以上の男女約20人が参加。
歩行速度や片足立ちの時間を測定したり、骨密度を調べたりして、転倒や骨折の恐れが高まっていないかをチェックした。
 
市が主催し、市内にある外科病院のリハビリスタッフらが検査や指導を担当した。
参加した男性(65)は、転倒の恐れも骨密度の状態も深刻ではなかったものの、「小さな石ころにつまずくこともあり、体の衰えを感じることが増えました。気を付けないといけないですね」と話した。
 
厚生労働省国民生活基礎調査(2016年)によると、介護が必要になった原因のうち、骨折・転倒は、認知症、脳血管疾患、高齢による衰弱に次ぐ4位。
全体の12%を占める。
 
転倒をきっかけに骨折し、閉じこもるようになり、寝たきりの状態へ・・・。
こうした経過をたどる高齢者は決して少なくない。
とくに、大腿骨近位部(股の付け根)は転倒の際に力がかかりやすく、骨折を引き起こしやすい。
立ったり歩いたりする機能に影響するため、深刻だ。
 
高齢者は、転倒への漠然とした恐怖感や恥ずかしさはある一方、「折につながる」という認識は意外に乏しいと感じる。
転倒、骨折が高齢者の生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼすことをもっと知っておく必要がある。

靴や歩き方で工夫を
転倒からの骨折を防ぐには、どうしたらいいのか。
専門家は、日常生活でのちょっとした注意や工夫をあげる。
 
たとえば、転びやすい場所を「ぬ・か・づけ」と覚えるといい。
「ぬ」はぬれているところ、「か」は階段や段差、「づけ」は片付けていないところ。
雨が降って駅のぬれた階段や横断歩道の白塗り部分、マンホールの上などは、転びやすい場所だ。
ひざを少し曲げ、足裏全体で地面を踏みしめるように歩くといいという。
 
転んだ経験から外出が怖くなって引きこもりになると体が弱っていく。
転びやすい原因や場所を知り、転倒を積極的に防ぎたい。
 
かかとが固定されないサンダル履きは控えたほうがいい。
平べったい靴ならば、つまずいてもバランスを立て直しやすいが、かかとが固定されていないと難しい。サンダル履きで洗濯物を干しに出たり、庭仕事をしたりしていて転倒し、骨折に至る。森田さんがみている患者には、こうした人が多いという。
 立ったまま靴下をはくと、片足立ちの状態になり、バランスを崩しやすい。「座るという動作を増やすだけで、安全性が増します」と森田さん。
 首都大学東京の浅川康吉教授(理学療法学)は「歩き方に気をつけたり、足腰を鍛えたりすることも大切だが、家のなかの整理整頓を心がけるだけでもだいぶ違う」と助言する。床の上に新聞や雑誌を置いたままにしたり、電気コードが散らばっていたり。家のなかでよく移動する「動線」に、「こうしたつまずきの原因がないかを見直してほしい」と助言する。

背が縮んだ 骨粗鬆症かも
骨がもろくなる骨粗鬆症の治療も重要だ。
骨粗鬆症であれば、転倒したときに、骨折の恐れがより高まるからだ。
 
骨粗鬆症の有病率(股の付け根の骨)は、男女ともに高齢になるほど上がる。
女性ホルモンの減少が関係するとされる女性では70代で43%、80代以上は65%ととくに顕著だ。
 
骨粗鬆症は自覚症状がなく、骨折してから初めて気付く人も多い。
女性の場合は、若いときに比べて身長が5センチ以上低くなっていたり、背中が丸くなっていたりすれば、骨粗鬆症による背骨の骨折が起きている可能性を考えて、医療機関の受診を検討したい。
 
骨を壊す細胞の働きを妨げる「ビスフォスフォネート製剤」などの登場で、治療も進んだ。
こうした治療効果もあり、北欧や北米では大腿骨近位部の骨折の発生率が減ってきているとの報告がある。
一方、日本整形外科学会の調査によると、国内では2009年7万208件から14年には9万1595件と、年々増え続けている。
 
大腿骨近位部を骨折してから1年以内に骨粗鬆症の薬物治療を受けた人は、国内では2割弱と低い。
この治療率の低さも影響していると考えられる。
次の骨折を防ぐ意味でも、治療の重要性を知っておきたい。
 
骨粗鬆症の予防には、ウォーキングなどの適度な運動、カルシウムやたんぱく質を含んだバランスのよい食事に加え、適度に日光にあたるといい。
紫外線によってビタミンDが皮膚でつくられ、カルシウムの吸収を助ける。
1日30分ほど太陽光を浴びると効果が見込める。

参考・引用
朝日新聞・朝刊 2018.3.7