食中毒の感染源に迫るMLVA法

食中毒O157の感染源に迫るMLVA法とは?

ゲノムの配列を解析、原因食品を特定
食中毒で人が死ぬこともある腸管出血性大腸菌O(オー)157。
ゲノムに並ぶ塩基から菌のタイプを見分ける解析方法が注目されている。
離れた場所で発生しても、感染源の特定に役立つ。原因食品の流通を食い止め、被害拡大の防止が期待される。

昨秋、神奈川県内で腹痛や下痢、血便を訴える人が相次いだ。
ちょうど同じころ、秋田や千葉、東京、兵庫、広島の各都県でも同様の症状に見舞われた人たちがいた。
 
各地の患者の便からは、O157が検出された。
自治体が患者の食事を調べると、共通する食材として静岡県内の食品会社が製造する冷凍メンチカツが浮上。
開封商品からもO157を検出、患者のものと遺伝子型が一致した。
6都県67人の患者は、冷凍メンチカツによる食中毒だったと裏付けられた。
 
このとき、遺伝子型を見分けたのが「MLVA(ムルバ)法」と呼ばれる解析法だ。
O157の場合、遺伝情報全体であるゲノムは約560万個の塩基という物質のペアで構成されている。
塩基には4種類あり、ムルバ法は、この塩基の並び方の違いから菌の遺伝子型を区別する。
 
ただし、560万個をすべて解析すると費用と時間がかかる。
効率よく区別するため、ムルバ法では、特定の塩基の並び方が繰り返され、違いがでやすい17カ所を解析する。
基本的には、17カ所すべてで「繰り返し配列」の回数が一致した患者と、1カ所だけ違う患者を一緒にグループ化して、「同じ遺伝子型」と判断し、食事や行動の共通点を探す。
 
O157は、基本的に一つの菌が遺伝的にまったく同じ二つの菌に分裂して増えるため、繰り返し配列の数も同じになる。
だが、10万~700万回に1回の確率で分裂がうまくいかず、塩基の並び方が変わるとされる。
1個の菌が30分に1回のペースで分裂すれば、8時間半で10万個を超え、繰り返し配列の回数が違う菌が出る可能性がある。
そのため、1カ所だけ違う患者も同じグループに含める。
 
患者からの聞き取り調査結果なども踏まえて、感染源と疑われる食品を調べ、同じ遺伝子型の0157を検出すれば、原因食品と断定する。
回収や出荷停止といった対策をとり、被害の拡大を防ぐ。

手間省き効率的
遺伝子型を見分ける方法としては、全国の多くの地方衛生研究所(地衛研)が採用している「PFGE法」もある。
ただ、この方法は手間がかかり、ムルバ法より結果判明が遅くなる。
しかも、型が一致するかどうか調べたい複数の菌を、同じ施設に集める必要がある。
 
ムルバ法は、そういった制約がない。
東京都健康安全研究センターのS微生物部長は「各地でムルバ法が導入されれば、菌を自治体間で送る頻度も少なくなり、流行の探知はもっと早くなる。感染症リスクの面からも安心だ」と期待する。
 
ただ、まだ全国的には普及しかもていない。
国立感染症研究所によると、昨年度、国内の地衛研でムルバ法を実施していると答えたのは約15%。
菌を届けられた感染研がムルバ法で調べた結果を共有しているのが実情だ。
 
そこで全国の地帯研でつくる協議会は今年、ムルバ法のマニュアル作成に着手。
10月、各地の担当者向けの研修を初めて開き、普及に向けて動き出した。
 
ただし、ムルバ法だけですべて解明できるわけではない。
 
いまの社会は、1カ所で製造された食品や食材が各地に流通して
おり、汚染が広がる可能性がある。
事例の関連を調べるムルバ法は重要なツールだ。
しかし、患者への聞き取り調査などに代わるものではない。
うまく組み合わせて活用していくことが大切だ。

ノロ・はしかは
0157など細菌に比べて塩基数が少ないウイルスは、「繰り返し配列」の回数をみるムルバ法ではなく、個々の塩基の並び方の違いを解析している。
 
今年2月、東京都内の小学校9校で、児童と教職員ら約1200人が相次いで下痢や嘔吐を訴えた。
患者の便から、ノロウイルスが検出された。
 
原因がわからないなか、都は各地の患者から出たウイルスを解析。
ノロウイルスは約7700個の塩基でできているが、うち約300個を調べると、配列が一致。
感染源の可能性が高い食品として、給食の共通食材だった「きざみのり」が浮上した。
 
きざみのりの未開封品からもノロウイルスが検出され、このウイルスの約300個の塩基配列も、患者のウイルスと同じだった。
きざみのりが原因の食中毒と断定された。
加工業者は営業禁止の処分を受けた。
 
同様の手法を使ってが強いはしか(麻疹)が蔓延しないように自治体がウイルスの監視をしている。
 
日本はワクチン接種の徹底などで感染者が激減し、2015年、世界保健機関(WHO)から土着のウイルスがいない「排除状態」と認められた。
だが、海外で感染した日本人や来日した外国人が持ち込むケースが後を絶たない。
自治体は、患者から検出したウイルスのゲノム約1万6千塩基のうちいWHOが決めた450塩基を調べ、24の遺伝子型に分類している。
海外の流行型と一致するかを調べ、排除状態が続いているかの証明
に活用している。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2017.11.12