脂肪燃やしやすい体にするには

猛暑で細った食欲が回復すると同時に、秋の味覚も次々と登場してきた。
つい食べ過ぎてしまいがちな季節だが、肥満予防に大切なのは脂肪を燃焼しやすい体をつくることだ。
最近では体内の脂質代謝の研究が進み、体の脂肪を燃焼しやすくする生活習慣のヒントが分かってきた。

いうまでもなく肥満の原因は食べ過ぎにある。
一日に体が消費するエネルギーよりも多くを取れば、余った分が体脂肪に蓄積される。
これまで脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵場所だと考えられてきたが、どうやらもっと重要な役割を果たしているらしい。

筑波大学付属病院内分泌代謝・糖尿病内科の島野仁教授は「エネルギー代謝の研究は、ブドウ糖など糖質が中心だったが、最近は脂質の重要性が増している。脂質代謝の改善は肥満やメタボリック症候群を防ぐ新たなアプローチとして注目されている」と話す。


体内時計正常に
例えば、私たちの体には昼と夜を区別する体内時計の機能があることはよく知られているが、日本大学薬学部健康衛生学研究室の榛葉繁紀准教授は、脂肪細胞において時計の働きを担っている遺伝子に注目し、脂肪細胞の役割を解明した。

榛葉准教授は「この時計の働きによって、脂肪細胞は昼間の活動時間には脂肪を分解してエネルギーを供給し、夜間は余っているエネルギーを脂肪として蓄積している」と話す。

全身のエネルギーのコントロールに脂肪細胞はより積極的な役割を果たしていたのだ。
よく「夜遅く食事をすると太る」といわれているが、それもこの機能で説明できるという。

さらに榛葉准教授は、時計遺伝子を壊したマウスでは血糖値を下げるインスリンの働きに異常をきたすことを発見した。
それをきっかけに、世界各国の研究者が体内時計とメタボリック症候群に関する大規模な調査に取り組んだ。

その結果、夜昼の区別のない不規則な生活をしている人ほどメタボリック症候群を発症しやすいことが明らかになった。
榛葉准教授は「肥満予防には、早寝、早起き、朝食をしっかり食べるなど規則正しい生活をして、体内時計の働きを高めることがなにより大切」と話す。

活動時の脂肪の燃焼に自律神経が重要な働きをしていることも分かってきた。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、活動中は交感神経の働きが活発になる。
脂肪細胞にある「β3受容体」は、交感神経の刺激を受けて脂肪分解などを進めるため、機能の低下が脂肪蓄積の原因になる。

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トウガラシ効果
この受容体の機能を高める研究も進められているが、医薬品への応用はまだ先だ。
そのかわり身近な食材に一定の効果があることが分かってきた。

京都大学大学院人間・環境学研究科の森谷敏夫教授は、トウガラシの辛味成分であるカプサイシンを含んだカレーを食べたときの自律神経活動とエネルギー代謝を、カプサイシンを含まない食事をしたときと比較した。

その結果、カプサイシンを含んだ食事をしたときに自律神経の活動、エネルギー消費量のいずれもが高まったことを明らかにした。

脂肪の質に注目した研究も進んでいる。
筑波大学の島野教授は、メタボリック症候群を起こしにくいマウスの脂肪組織を構成する脂肪酸は、青魚などの脂に含まれ体に良いとされるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)に近い性質を持っていることを、動物実験で解明した。

これらを食事で取っても脂肪細胞の機能を高めるのではないかと期待されたが、最近、その効果を裏付ける調査が発表された。

国立国際医療研究センター国立がん研究センターの研究グループは、約5万人を対象に魚介類を食べる頻度、種類、量を調査し5年後の糖尿病発症率を調べ、結果を今年8月の米臨床栄養学の雑誌の電子版に掲載した。

その結果、男性の最も多く魚を食べるグループでは、最も少ないグループと比較して、糖尿病を発症する頻度が低い傾向が見られた。
しかも、アジ、イワシなどの小・中型の魚やサケなど脂の多い魚を食べた男性ほど発症リスクが低下していた。

こうした脂肪代謝に関する最新の研究成果を基に、脂肪を燃焼しやすい生活習慣を表にまとめてみた。
日大の榛葉准教授は「いずれもこれまで健康によいといわれていた方法だ。健康常識に科学的な裏付けがなされつつある」と話している。 (ライター 荒川 直樹)

◇     ◇

サケの身、有害物質除く
私たちの食欲を刺激する秋の味覚。
同時にメタボリック症候群を予防するなど健康づくりに役立つ食材も豊富だ。

例えば、秋になって脂がのるのが魚介類。
なかでも戻りガツオ、サンマ、サケなどはEPA、DHAなど体に良いとされる脂肪酸を豊富に含んでいる。
サケの身には、体内に生じる活性酸素と呼ばれる有害物質を消去する抗酸化物質であるアスタキサンチンが豊富に含まれている。

またキノコ類は、食物繊維が豊富な低カロリー食品。
これらを上手に利用することで、おいしく食べながら健康づくりをしていきたい。

出典 日経プラスワン 2010.6.24(一部改変)
版権 日経新聞


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