抗癌剤の薬効にも限界

薬効に限界 中止提案も

To:高野先生 
最近、今の抗がん剤が効かなくなってきました。ほかに方法があるでしょうか。ご意見を聞かせて下さい――。

横浜市の主婦Aさん(56)は、10年前から乳がんを患う。
手術の半年後、骨に転移が見つかり、翌年には肝臓に転移。
これまで10種類以上の抗がん剤を使って治療を続けてきた。
副作用のため1回の投与でやめた薬もあるが、何とか乗り越えて来た。

メールで相談したのは、最初にAさんの抗がん剤治療を担当していた虎の門病院臨床腫瘍科の専門医、高野利実さん(39)。
冒頭のメールへの返事は、こうだ。

 
Re:Aさん 
使える抗がん剤はありますが、今の状況では、効果の期待よりも、デメリットの方が大きいと考えられます。
抗がん剤を使うこと」にこだわりすぎて、穏やかな時間を失ってしまうのは得策とは思えません。
「何のために治療するのか」をよく考えた方がよいと思います――。

抗がん剤の専門家が、それをやめる提案をすることもある。
抗がん剤の多くは、がんの縮小や延命を目指して使われるが、がんを完治させることはできないのが現実だ。

副作用が、かえって生活をつらくする可能性もあり、よりよい時間を過ごすためには、苦痛を和らげる治療だけ受けるという選択もありうる。

以前から、抗がん剤をやめる選択を提示されていたAさんだが、自分なりに考え、継続を選んできた。
そして、メールにこうつづった。

 
To:高野先生 
私は抗がん剤治療を続けたいと思っています。
私には副作用より何もしないことの方がストレスになります――。

がんが見つかった当初は、2人の子どもが中学生と小学生。
「受験に影響するのでは」「多感な時期に負担が大き過ぎる」。
心配がせきを切ったように押し寄せ、「死ぬわけにいかない」という決意が、抗がん剤に向かわせた。

月日がたち、いつしか家族の「心の準備」も、抗がん剤治療を続ける理由の一つになった。

Aさんは「今は少しでも長く家族と暮らしたい。治療を継続すればそれは可能だと信じているし、私が最後まで頑張ることは、『できることはやった』と家族が納得して私の死を受け入れる手助けにもなる。そう信じています」と話す。

高野さんは「患者さんは、それぞれの価値観を持って病気と向き合っている。医師は、ただ薬を使うだけでなく、薬の限界もきちんと理解し、選択肢を示すべきだと思う」と語る。

出典 読売新聞 2011.9.28
版権 読売新聞社


<私的コメント>
厚労省は、2009年度の医療費がついに国民所得の1割を超し36兆円に達した、と昨日の29日に発表しました。
3年連続の増加で過去最高を更新したということですので、2011年度はもっとすごいことになっていることと思います。
高齢化に伴う入院の増加や医療技術の高度化に伴う経費増が主因と分析しています。
年齢階層別に見ると、65歳以上が19兆9479億円(同18兆9999億円)と全体の55.4%を占め高齢者が大半の医療費を使っていることがわかります。
65歳以上では1人当たり平均68万7700円(同67万3400円)で、65歳未満の16万3000円(同15万8900円)の4.2倍となっているということです。 
これは当たり前といえば当たり前のことですが、コストベネフィットの低い治療も多い筈です。
治療費の高い割には効を奏さない治療も多くあります。
がんや難病指定疾患のように治りにくい病気ほど、治療費が高くなり治療効果も少ない(コストベネフィットが低い)ということも分かります。
今回の記事で感銘を受けたのが、抗癌剤の限界をきちんと説明する医師がいるということです。
病院の収益を考えれば、抗癌剤を勧めた方がいいに決まっています。
患者さん側も「抗癌剤の限界」を医師から話されたら「見捨てられた」という気持ちになるのもよく分かります。
抗癌剤の限界」を話す限りは、患者さんに寄り添ったフォローが医療側には重要になって来ます。



<自遊時間>
イチローの11年連続200本安打の記録が途絶えてしまいました。


イチローが持っていたプロ野球シーズン最多安打記録を昨年更新した阪神マートンの話
「200安打を10年連続というのは信じられないような記録。研究される中、20代後半でメジャーに来て、年齢を重ねながら達成したのは素晴らしいこと。彼は何かを生み出す力がある選手。来年また200本打つと思う」

ヤクルト・青木の話
「184本でも十分すごいことだと思う」

日本ハム・稲葉の話
「コメントするなんて失礼でしょ。俺らがやったことのないことをしているわけだし。コメントできない。すご過ぎて」

日本ハム・斎藤の話
「11年目で途切れたと言っても、184本打っている。十分すごすぎます。尊敬します」


最初にタイトルを見た時に、稲葉選手のコメントにイチローが「失礼でしょ」と言ったのかと勘違いしました。
イチローなら言いそうなことだという先入観からです。
今朝の新型iPhoneについてソフトバンクKDDIの社長は「ノーコメント」を強調していましたが、これとは意味が違います。

各選手がイチローをリスペクトしているのがよく分かります。
特に稲葉選手のコメントは感動的です。
「ちょっといい話」として紹介させていただきました。


WBC交渉は強気に=米側を「帝国主義」と批判―巨人渡辺会長
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110929-00000173-jij-spo

ワールド・ベースボール・クラシックWBC)もちょっとゴタゴタしているようです。
このWBCへの取り組み方でイチロー選手と松井(秀)選手とで違っていたのを思い出しました。
もっとも所属チームの方針ということもあったのでしょうが。



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