膀胱に高濃度抗がん剤

「膀胱を取るのは勘弁してもらえませんか」

東京都のB男さん(75)は2010年12月、膀胱がんの経過を診てもらっていた主治医に訴えた。

頻尿が気になり、近くの泌尿器科クリニックを受診。
粘膜にがんが広く散らばった上皮内がんというタイプの膀胱がんと診断され、結核予防に使うBCGワクチンを膀胱内に注入する薬物治療を受けた。
しかし、再発し、がんは筋肉まで深く進行。
主治医は膀胱すべてを切除する手術が必要と説明した。

「血尿があったが、体調は悪くなかった。人工膀胱にするのは気が進まず、手術を引き延ばしていた」(B男さん)

そんな時、膀胱を温存したまま、高濃度の抗がん剤を特殊な方法で注入する治療に大阪医大病院(大阪府高槻市)が取り組んでいることを知った。
11年8月、主治医の紹介状を手に大阪に向かった。
診察した泌尿器科教授の東治人(あずまはるひと)さんは「膀胱全摘を避けられる可能性がある」と話した。

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脚の付け根から動脈に特殊な細い管(カテーテル)を入れ、膀胱以外の方向の血流を止めながら抗がん剤(シスプラチン)を注入する。
抗がん剤を含んだ血液が全身に回らないよう、膀胱から戻る静脈血を、腎臓病で血液の老廃物を取り除く時に用いる人工透析装置に通し、血中の抗がん剤を取り除く。

透析で90%以上は除去されるため、抗がん剤を高濃度で使うことができ、副作用は軽くすむ。
約2時間の治療だ。
抗がん剤治療の前後計5週間は、週5回の放射線照射を行って、治療効果の上乗せを図る。

同大は15年前から100人以上を治療。
転移のない患者では約9割が再発していない。
11年7月に、入院費用など一部に保険がきく国の高度医療に認められた。
保険のきかない自己負担分は18万円だ。

B男さんは11月初めに退院。
現在、体力回復のため、買い物などに積極的に外出するようにしている。

東教授は「この治療法は副作用が少ないため高齢者にも行える。全摘手術と比べた生存率や生活の質の違いを調べているところで、膀胱を取らずに治す新しい治療法として確立させたい」と話している。

出典 読売新聞 2011.12.14
版権 読売新聞社

<私的コメント>
この記事で私が注目したのは、東京の患者さんが主治医の紹介状を持って大阪の大学病院まで治療に行ったことです。
このケースは患者さんが自ら紹介先調べてを、主治医に紹介状を頼んでいます。
本来は、主治医が最善の治療を模索して紹介するのが本当だと思います。
私は、内科特に循環器が専門です。
しかし専門外であってもこういった記事で専門外の知識を蓄積しておきたいと思っています。
開業してから現在に至るまで数例の膀胱がんの患者さんに「遭遇」しました。
この病気に限らず、最善、最新の治療が他の地域の病院で行われている場合には、当人には一応ご案内しています。
しかし、地元での治療を希望される方がほとんどです。
手術後の通院や見舞いに来る家族の利便性を考えてのことです。
その辺りがちょっと残念に思う場合があります。
しかし、ホームドクターとしては最新の知識が入った「引き出し」は用意しておきたいと考えています。
こういった新聞記事は、読んだ時には興味が無くとも、自分や周囲で同じ病気にかかってしまう場合があるのです。
こうしてドキュメントしておくのも少しは役に立つのかな、と思っています。
何よりも自分の「引き出し」としてではありますが。


読んでいただいて有り難うございます。
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