高齢者のぜんそく

ぜんそく、高齢者も注意

「息切れ」軽く見ずに 受診遅れる場合も
ぜんそくは子どもの病気と思いがちだが、65歳以上の患者も少なくない。
呼吸やせきの後に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった症状がなく、アレルギー反応がない非アトピー型が多いのが特徴だ。
息苦しさを高齢のためと誤解すると、治療も遅れかねない。

札幌市中央区にある某クリニックには、お年寄りの患者がよく訪れる。
60代後半の女性は、夫に付き添われてきたという。
本人は「ゴロゴロ、ゼーゼーはない」と説明していたが、1秒間にはける空気の量は、通常の32%しかなかったという。
数年前、別のクリニックでぜんそくと言われても治療をしてこなかったが、夫が心配して連れてきた。

高齢者はよく『息切れ』を訴えてくる。
肺活量や肺機能の検査をすると、肺の奥の細い気管支がやられていることが多い。

ぜんそくは、適切な治療をせずに発作を繰り返すと、気管支の炎症部分が厚くなり回復しにくくなる。

某先生が患者の発症年齢を調べたところ、1728人中60歳以上が55.4%を占めた。
厚生労働省の2008年の患者調査では、1日当たりの推定患者数は、65歳以上が2万7500人。35~64歳は2万2800人、15~34歳が1万1600人で、成人は年齢階層が上がるほど多い。

高齢で見過ごされやすいのは、「ゼーゼー」いう喘鳴(ぜんめい)がない人がいるほか、ハウスダストやダニなどが発作を引き起こすアトピー型でない人も多いからだ。

日本アレルギー学会理事長の秋山一男・国立病院機構相模原病院長によると、旧国立病院の共同研究では小児ぜんそくの非アトピー型は4.8%だが、成人発症ぜんそくの45.9%が非アトピー型という。

高齢者が息苦しいと訴えた場合、心不全をまず疑うが、喘鳴がなかったり、検査でアレルギー反応がなかったりすると、かぜとしてぜんそくを見過ごしてしまう可能性もある。
ストレス、不安、感染症などが引き金になることもある。

治療は、ステロイドなどの長期間使い続ける吸入薬の普及で、毎日欠かさず使えば炎症を抑え、QOL(生活の質)の向上が図れるようになった。
しかし、高齢者は、気管支の奥まで上手に薬を吸えなかったり、独居や認知症で継続的に使えなかったりする例が少なくない。
秋山院長は「息苦しさを年齢のせいにしないこと。正しく早期診断し、治療することで、症状も安定する」と話す。

高齢のぜんそく患者は、COPD(慢性閉塞〈へいそく〉性肺疾患)との合併も多く注意が必要だ。
これはたばこの煙などを長年、吸い続けることで起こる肺の病気だ
。旧厚生省研究班の調査では、65歳以上のCOPD合併率は4人に1人だった。

高齢でCOPDを合併している患者は、ぜんそくのみの患者以上にQOLが落ちてしまう傾向がある。QOL項目を点数化して、65歳以上のぜんそくCOPDとの合併患者、高齢のぜんそく患者、65歳未満のぜんそく患者の3グループを比較すると、高齢の合併患者は残りの2グループより、心の健康や体の働きが落ちていた。
別の尺度で調べると、高齢のぜんそく患者はCOPDの合併によって、日常生活に必要な体の機能が悪化していた。

早めに治療すれば、快適に暮らせるようになる患者も少なくない。
バランスの良い食事をとるほか、呼吸に必要な上半身の筋力をつけることや、腹式呼吸で呼吸リハビリをすることも大切。    (岩崎賢一)

出典 朝日新聞・朝刊 2012.1.24(一部改変)
版権 朝日新聞社


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