がん薬物療法専門医(1) 臓器問わず治療に精通

「珍しい病気で、治療法もなかなかない」。
北海道石狩市の主婦(66)は、担当医の言葉に目の前が真っ暗になった。
地域でがん治療の中心となる「がん診療連携拠点病院」に指定された病院だが、腎臓の近くにできた特殊な肉腫で、担当医は診た経験がないという。

今年3月、札幌市の斗南病院を紹介された。
専門病院でも大病院でもないが、「がん薬物療法専門医」を中心に、抗がん剤治療全般を担う腫瘍内科がある。
臓器を問わず治療を手がけるので、まれながんでも年に数例の経験を積んでいた。

専門医の辻靖さん(51)は「抗がん剤で肉腫を抑えて、できるだけ快適な生活が送れるようにしましょう」と提案した。

5回の入院で抗がん剤治療を受けた後、病状が落ち着いた主婦は「検査のため時々通院しながら、ふだんはドライブやガーデニングを楽しんでいます」と話し、笑顔を取り戻した。

道内の60代男性は、進行した胃がんが肝臓に転移。
別のがん拠点病院で抗がん剤治療をすることになったが、発熱が続き、何らかの感染による熱と診断された。
しかし、1か月が過ぎても解熱剤で熱は下がらず、抗がん剤治療も始まらない。

そこで、辻さんにセカンドオピニオン(担当医以外の意見)を求めた。

「おそらく肝臓の腫瘍による発熱でしょう」。
まず腫瘍の熱に使う薬で熱を下げ、3日ほど後、抗がん剤治療を始めることができた。
男性は「がんとできるだけ仲良くつきあって、少しでも長生きしたい」と前向きに治療に取り組んでいる。

日本では、抗がん剤は医師であれば専門性にかかわらずだれでも使うことができ、外科医が手術の傍ら手がけることが多い。
しかし、次々に新薬が開発される一方で、毒性が強く慎重に使う必要がある抗がん剤は、事情に精通した専門家が扱うべきだとの考えが広がりつつある。
ただ、がん薬物療法専門医に認定された医師は586人に過ぎない。

斗南病院では、外科医は手術に専念し、抗がん剤治療は原則、専門医が担当。
どの診療科の患者にも対応し、抗がん剤を使う患者の8割以上を診ている。
臓器別の縦割り診療が根強い中で、中小規模の地域病院では珍しい体制という。

辻さんは「抗がん剤治療に通じていれば、どの診療科の医師が行ってもよいと思う。ただ、慣れない医師が無理に扱うより、臓器を問わず抗がん剤治療ができる専門医が各地にいれば、地域のがん治療のレベルアップにつながるのではないか」と指摘する。

出典 読売新聞 2011.9.23
版権 読売新聞社


<私的コメント>
昨夜の民放で放送されていた「ガイアの夜明け」は観られましたか?


番組の後半で、鹿児島県指宿市の「がん粒子線治療研究センター」んがとりあげられていました。
誰しもが「自分が『がん』にかかったら」とふと考える時がある筈です。
二人に一人が『がん』にかかり、三人に一人が『がん』で亡くなるわけですから当然といえば当然です。
1/2(50%)から1/3(33.3%)を引いた数字が問題です。
この数字はちょっと分かりにくいのですが、要するに100人の人がいれば50人が『がん』にかかり、33人
が『がん』で亡くなり、17人が生還(?)するというわけです。
したがって『がん』にかかった人の生還率は17÷50ということで34%と計算されます。
もちろん、がんがどこに出来たか(臓器別)、がんの「たち」(病理学的な「組織型」)、どの段階で見つかったか、発病年齢などの様々な要因が関係します。
意地悪く言えば「がんもどき」といって、生命予後に関係のない『がん』、つまり治療が延命につながらない(治療しなくともよい『がん』)もあるかも知れません。
逆に化学療法で生命予後が悪くなってしまうケース(化学療法死)もある筈です。





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