新型抗がん剤 皮膚に副作用

清潔保ち 塗り薬で軽減

がん細胞を狙い撃ちする「分子標的薬」は従来の抗がん剤に比べ副作用が少ないと考えられてきたが、皮膚に特有の副作用が出やすく、対策が課題になっている。(岩永直子)



新潟市の自営業、奥村忠之さん(53)は2009年秋、新潟県立がんセンター新潟病院新潟市)で、大腸がんが見つかった。
肝臓への転移もあり、手術ではなく抗がん剤治療を受けることになった。
最初に始めた抗がん剤が効かなくなり、10年3月、分子標的薬「ベクティビックス(商品名)」の点滴に切り替えた。

治療を始めて10日あまりで、顔一面にニキビのような発疹が現れ、同院の皮膚科を受診した。
毛穴の炎症を抑える効果がある抗生物質ミノマイシンを飲み、強めのステロイドの塗り薬を塗り始めた。

それでもなお4月下旬ごろまでは、体中の皮膚が乾燥するなどの症状の悪化に悩まされたが、7月ごろには発疹や皮膚の乾燥はよくなった。
しかし、8月になると、今度は足の爪の周りが膿んで痛むようになり、歩くのも不便になった。

これらは分子標的薬の副作用だ。時間差で様々な症状が出る。

がん細胞の増殖に関係する「上皮成長因子受容体」を抑えようと働くため、同じ受容体がたくさんある皮膚や毛穴、爪にも影響が出てしまう。
肺がん治療薬のイレッサ、大腸がん治療薬のアービタックスなどがこの薬の仲間だ。

同病院皮膚科部長の竹之内辰也さんは「従来の抗がん剤の副作用と異なり、分子標的薬による皮膚の副作用は、薬が効いていることの証明でもある」と説明する。
ベクティビックス、アービタックスなどは、皮膚症状が強いほど生存期間が長い、との研究結果が複数ある。
効果のある治療を続ける意味でも、副作用対策が重要というわけだ。

奥村さんは、治療を始める前に副作用の説明を受けていたため、症状が出ても慌てなかった。
爪の周囲の腫れもこまめに洗って清潔に保ち、ステロイド抗生物質を続けると2か月後には改善した。

分子標的薬の種類によって、手足の皮膚が硬くなったり腫れたりして強く痛む「手足症候群」が多く表れたり、かゆみを伴う赤い斑点ができやすかったりと特徴がある。
かゆみや炎症を抑えるステロイドの塗り薬などで治療する。

赤い斑点でも、中央部分の色が濃いものは、重症化する恐れがある。
命にかかわるケースもあり、口の中や目元などがただれ、水ぶくれが出たら、薬の中断が必要となる。

患者自身のスキンケアも大切だ。
〈1〉清潔にする
〈2〉直射日光を避け、入浴時に優しく洗うなど刺激を与えない
〈3〉保湿する=表参照=のが基本だ。
症状が出る前から、治療開始と同時にスキンケアを始めると、症状の軽減や予防につながる。

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【分子標的薬の皮膚障害対策マニュアル】 第62回日本皮膚科学会中部支部学術大会のホームページで読むことができる。
http://www.jdac2011.jp/dl.html

出典 読売新聞 2012.1.14
版権 読売新聞社


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