アルツハイマー病の原因物質、細胞にたまる仕組み解明

神経細胞の中心から末端部に様々なたんぱく質を運ぶ「キネシン1」という運搬役のたんぱく質が働かなくなると、アルツハイマー病の発症につながる物質が末端部にたまってしまうことを、名古屋大の松本邦弘教授と久本直毅准教授(生命理学)らが解明した。仕組みがわかったことで、治療法の開発につなげられる可能性がある。
9日付の米科学誌で発表する。

脳が萎縮するアルツハイマー病は、神経の伝達に必要な「APP」というたんぱく質が脳内の神経細胞の末端部にたまって変異し、蓄積されてしまうことが原因だと考えられている。

APPは、神経細胞の中心部から末端部に向けてレールのように延びた微小管をキネシン1によって運ばれる。APPが末端部にたまりすぎると、通常は別の運搬役のたんぱく質によって中心部に戻され、分解される。

松本教授らは線虫の細胞を使い、キネシン1など運搬役の二つのたんぱく質を働かなくした上で、APPが往復するかどうかを観察した。
その結果、中心部から末端部に運ばれはするものの、中心部には戻らず、末端部にたまってしまうことがわかった。

キネシン1はAPPのほか、復路用の別の運搬役も末端部まで運んでおり、実験でキネシン1などが働かなかったために、この復路用の運搬役が足りなくなったのが原因とみられる。
往路用の運搬役がキネシン1以外に存在するらしいことも、この実験でわかった。

アルツハイマー病の患者は国内に約120万人いるとみられ、久本准教授は「こうした仕組みの理解がさらに進めば、治療につながるかも知れない」と話している。(高山裕喜)

出典 asahi.com 2011.2.9
版権 朝日新聞社


<キネシン 関連サイト>
キネシンの動く仕組み
http://www.biological-j.net/blog/2009/02/000691.html
■細胞の中には、微小管やアクチン等の細胞骨格があります。
中心体から伸びる微小管は、チューブリンタンパク質が集合した細長いチューブで、細胞内に放射状に張り巡らされています。
■細胞は、この微小管を線路のように使って、いろいろな物質を必要な場所に運んで生きています。
また細胞分裂時には、複製された染色体を細胞の両端に運びます。
■この線路(微小管)上を、これらのいろいろな荷物を背負って運ぶモータータンパク質:キネシンがあります。

細胞分裂とモータータンパク質
http://www.biological-j.net/blog/2008/12/000636.html


<「アミロイド前駆体タンパク質」(Amyloid precursor protein, APP) 関連サイト>
アルツハイマー認知症の生化学
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC%E5%9E%8B%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%81%AE%E7%94%9F%E5%8C%96%E5%AD%A6
アルツハイマー認知症は、タンパク質のミスフォールディング(折りたたみ異常)がもたらす疾患であることは判明しており、アルツハイマー認知症の患者の脳からは異常に折りたたまれたアミロイドβタンパク質の蓄積が見られる。
アミロイドβ(Aβとも表記される)は短いペプチドであり、膜貫通タンパク質である「アミロイド前駆体タンパク質」(Amyloid precursor protein, APP)の異常分解産物である。
■APPの機能は不明であるが、おそらく神経細胞の発生に関与しているのではないかと考えられている。プレセニリンというタンパク質分解酵素複合体の構成因子があり、APPのプロセシングと分解に関与することが知られている 。

アルツハイマー病の原因となる「アミロイドベータ」の産生調節機構を解明
- 新しいアルツハイマー病治療薬の開発に有望戦略 -
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2008/081020_2/detail.html
■アミロイドベータ(Aβ)と呼ばれるペプチドを過剰産生・蓄積することが、アルツハイマー病の原因であるとする説が有力です。
Aβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)から2段階の切断で生成されます。
その第1段階は、タンパク質分解酵素のベータ(β)セクレターゼ(BACE1)によるβ切断で、アルツハイマー病の発症機序に深くかかわるとともに、その抑制が実現すると有望な治療戦略となりうると考えられています。
■APPとBACE1は、共に細胞膜を貫通するタンパク質で、APPのβ切断調節には「ラフト」と呼ばれるコレステロールなどを主要成分とする膜マイクロドメインが重要であることが示唆されていました。

'''<私的コメント>'''
これらの難しい研究も、結局はアルツハイマー病治療のための新薬開発につながるかどうかという一点にかかっています。
アミロイドベータ(Aβ)の過剰産生・蓄積を抑制する薬剤は単に進行を防止するに過ぎません。
Aβの蓄積を解除する新薬が開発されればアルツハイマー病の真の治療薬ということになります。
しかし、Aβが一度蓄積した神経の変性が可逆的に戻るかどうかは疑問です。
このあたりの解明はされているのでしょうか。



他に
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