安易な遺伝子検査に警鐘

この度の東北地方太平洋沖地震により被災されました方々に、心よりお見舞い申し上げます。
犠牲になられた方々、そしてご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げます。
また、福島第一原発事案(事故)で避難中の方々、そして計画停電中の首都圏の方々にお見舞い申し上げます。
また、被災者支援や原発復旧作業などの災害対策に全力を尽くしてみえる皆様に敬意を表します。


広がる診断ビジネス、安易な遺伝子検査に警鐘

太りやすい体質かどうかや糖尿病などの患いやすさを、遺伝子を調べて「予測する」健康ビジネスが広がっている。
病院へ行かなくてもインターネットなどを通じて検査できるので、気軽に受ける人も少なくない。
ただ、専門家は「どれも科学的根拠に乏しく、十分な知識のないまま安易に遺伝子検査を受けるのはいかがなものか」と警鐘を鳴らす。

相模原市にある北里大学病院の遺伝診療部。
高齢出産における染色体異常の子どもが生まれるリスクや、いとこ同士による結婚の問題点といった遺伝相談に交じって、最近増えているのが、遺伝子検査ビジネスを巡る問い合わせだ。

「軽い気持ちで受けたら糖尿病になりやすいといわれた。将来、就職や結婚ができるか心配だ」「送られてきた検査結果は紙切れ1枚。病気のなりやすさがパーセンテージで書いてあるが、どう解釈すればいいのかわからない」


キット購入し郵送
ここ数年で急速に広がった遺伝子検査ビジネスは、病気との関連が明らかになった遺伝子の塩基配列を調べ、発症リスクをはじき出す。
糖尿病やがん、アルツハイマー病など様々な疾患が対象だ。

採血しなくても口の中の粘膜を綿棒でこすり取れば検査に必要なDNA(デオキシリボ核酸)は取り出せる。
ネットで専用キットを購入し採取した粘膜を郵送すれば済む。
歯科医が遺伝子検査の窓口になっている例も目立つ。費用はまちまちだが、1検査あたり数千円から数万円。

遺伝子を調べて自分の体を詳しく知れば、生活習慣病を予防する動機づけになるかもしれない。
そんな考えから、検査を受ける人もいるが、専門家はそろって「軽い気持ちで受けるのはやめてほしい」という。
どうしてなのか。

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病気の多くは、複数の遺伝要因と環境要因とが複雑に絡み合って発症する「多因子疾患」だ。
原因が特定の遺伝子に限られる病気はほとんどなく、1つの遺伝子を調べるだけで発症リスクがわかるものではない。

例えば、中高年になると気をつけたい2型糖尿病。発症に関連するとみられる遺伝子はこれまでに20種類以上見つかっている。
仮にこうした遺伝子の大半を検査できるとしても、糖尿病になるかどうかは食生活や運動の有無といった環境要因の影響の方が大きい。

米国の研究チームは約2000人を対象に、遺伝子検査をした場合としなかった場合とで、糖尿病リスクの予測精度に差がないことを突き止め、2008年、米臨床医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表した。

遺伝子検査そのものの信ぴょう性にも疑問の声があがる。
米国の会計検査院による実験データだが、1人のDNAを別人としていくつかの検査会社に送ると、同じDNAにもかかわらず結果が異なるケースがあった。
予防用に高額なサプリメントを推奨してきたが、その成分を調べると、どこの薬局でも売っている安価な栄養剤だったという。

DNAに刻まれた遺伝情報は究極の個人情報といわれる。
その内容は生まれたときから一生変わらない。
検査結果は個人にとどまらず、血縁者にも影響を及ぼす。
北里大の高田史男教授は「十分な知識のないままに、うかつ・気軽に知るべきものではない」と語る。


国の監視など訴え
日本人類遺伝学会は昨年10月、こうした遺伝子検査ビジネスに関する見解をまとめた。
米国や韓国などが規制に乗り出したことに倣って、「国は遺伝子検査を監視・監督する体制の確立に早急に取り組むべきだ」と訴えた。

日米欧など世界の研究者が力を合わせヒトゲノム(全遺伝情報)を解読してからちょうど10年がたった。医療の現場では家族性がんの診断や抗がん剤の効果・副作用を知るため遺伝子検査を利用する機会は増えている。
信州大学の福嶋義光教授は「遺伝子研究の進展は医療行為においてはとても有意義だが、診断ビジネスへの利用を放置するのはよくない」と話す。

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編集委員 矢野寿彦)

出典 日経新聞 Web刊 2011.3.6
版権 日経新聞



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