脳を鍛える10の技術

この度の東北地方太平洋沖地震により被災されました方々に、心よりお見舞い申し上げます。
犠牲になられた方々、そしてご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げます。
また、福島第一原発事案(事故)で避難中の方々、そして計画停電中の首都圏の方々にお見舞い申し上げます。
また、被災者支援や原発復旧作業などの災害対策に全力を尽くしてみえる皆様に敬意を表します。


すぐできる、脳を鍛える10の技術

脳を鍛えるために大切な要素は「運動」「社交性」「知的活動」「バランスのよい食生活」。
これらを組み合わせることで、脳内のネットワークを刺激し、予期せぬ変化に柔軟に対応できる“認知予備力”を高めることができます。
ここに紹介した10の方法以外でも、四つの要素が含まれていれば、脳を鍛えることにつながります。

逆に単調なことを繰り返したり、人付き合いを断ったり、体を動かさずにいると脳の老化を招くことに。「脳を鍛える方法には、ルーチンワークではなく、いつもより少しだけ難易度を上げることが大切。“うまくできない”とあがいているときがトレーニングになるのです」と諏訪東京理科大学共通教育センター教授の篠原菊紀さん。
ピアノの演奏や包丁での皮むきも、もともとできる人にとってはトレーニングにはなりません。
本人にとってちょっと難しいと感じる課題に挑戦すれば「使われていないネットワークを刺激します」(篠原さん)。

以下で紹介する10の技術はどれも日常生活で行うことですが、少しだけ複雑にしたり、意識を集中させたりすることで、使われる脳の領域が広がります。
3番目に挙げた「心をこめる」は家事などを行うときだけでなく、様々な行動に共通する要素。
例えば絵を見るときでも、実際に買うことを考えて見るほうが、ぼんやり眺めるより脳が活性化するのです。
「気持ちの入れ方で前頭葉の使われ方は大きく異なります」と篠原さんは言います。

もう一つ大切なのは「楽しむ」こと。
旅行や音楽、日記といった趣味的なことは、楽しんで続ければ脳から快楽に関係するホルモンが分泌されます。
すると、意欲が高まり、上達につながるという好循環に。苦手なことにチャレンジして、難しすぎて苦痛になるくらいなら、方向転換するほうが脳にはいい結果を生むようです。


1 早足とゆっくり歩きを交互に、散歩する
週に3回、1回30分程度のウオーキングがおすすめ。
ただ歩くだけでなく、早足とゆっくり歩きを交互に行う「インターバル速歩」ならより効果的。
少しだけきつい運動の刺激を挟むことで前頭葉がより活性化します。
歩き始めてウオーミングアップを終えたら、少し息が上がる程度の早足を3分間。次に呼吸を整えながらのゆっくり歩きを3分間と、交互に繰り返しましょう。

2 左手を使う
日ごろ何気なく行っている動作を左手(左利きなら右手)に置き換えて行ってみて。
例えば左手でパソコンのマウスを操作したり、ドアの開閉をしたり、歯磨きをしたり、ボタンを留めたり。意識して作業のハードルを少しだけ上げることで、普段と違う感覚を体験しましょう。
これが眠っている脳のネットワークを刺激。左手を使うと、右脳も使うことにもなります。

3 面倒なことに、心をこめる
「家事をしっかりする人は認知症になりにくい」という研究結果があります。
気持ちのこもらない家事には脳内の反射的なネットワークしか使われませんが、集中して行えば前頭葉が活性化。
ピーラーではなく包丁を使って皮をむいたり、掃除機を使わずにホウキとチリトリで掃除をしたりと工夫してみて。
「キレイにしよう」「丁寧に皮をむこう」と意識するだけで脳の広い領域が活性化します。

4 減塩和食で適度の肉・乳製品
脳卒中の引き金になる塩分の取りすぎに気をつけながら、野菜や豆類、海藻類などをとりやすい和食を食事の基本に。
主菜は魚中心がいいのですが、肉を全く食べないのはNG。豚肉には全身の老化予防につながる脂肪やビタミンが豊富に含まれています。
脳出血の予防にも肉は必要です。
和食でとりにくいカルシウムは乳製品で補うようにして、骨粗しょう症もしっかり予防。

5 座禅をしてゆっくり呼吸
座禅のポイントは正しい姿勢で安定して座り、呼吸を整えること。
お尻の下にクッションを挟み、腰を高くしてあぐらなどを組むと姿勢が安定します。
好みでお香などをたき、リラックスできる環境で行えば気持ちが安定し、自分を見つめ直す機会にも。
規則正しい腹式呼吸は心のバランスを整える脳内物質「セロトニン」の分泌にもいい作用を及ぼすといわれています。

6 行き当たりばったりで旅行する
心と体を刺激する旅行は認知症予防に最適。
綿密に計画を立てるのもいいですが、行き当たりばったりで、先入観のない新鮮な魅力を味わうのも脳を活性化します。
見知らぬ土地に着いたら、五感をフル稼働させて、おいしい料理や、珍しい風景、心地いい宿を探しましょう。
予期せぬ出来事をポジティブに受け入れることも脳内のネットワークを刺激します。

7 本を読んだら感想を言い合う
本を読むという「知的活動」だけでも脳は鍛えられますが、読後に人と感想を語り合えば、より効果的。本の内容に対する理解も深まります。
一人で読むだけでは忘れてしまう内容も、ほかの人と感想を言い合ったり、批評し合ったりすることで知識がより深く記憶に残ることに。
人と意見をやり取りする共感力やコミュニケーション力を養うことにもつながります。

8 パートナーのいいところを探す
篠原さんが行った実験によると、パートナーの「いいところ」を考えるほうが「いやなところ」を考えるよりも前頭葉や頭頂部が活性化するのだそう。
「細かすぎる」といった欠点が浮かんだとしても、「小さなことを観察する力がある」と長所に置き換えてみて。
夫や妻、子ども、友人など、会話した相手のいいところを探す習慣を持てば、脳が活性化してコミュニケーション力もアップ。

9 音楽をじっくり聴く
日々の生活では目から入ってくる情報を中心に生活していますが、時には音楽だけに耳を傾けて聴く力を意識してみて。
聴覚は視覚以上に積極的に意識しないと刺激できません。
聴覚を刺激することは認知機能に関係する脳のへんとう体や海馬、前頭葉などの活性化につながります。1日の終わりなど、目を閉じ、視覚からの情報を遮断して、音楽を聴く習慣を持ちましょう。

10 日記・ブログをつける
「言語能力が高い人は認知症になりにくい」というデータがあります。
たまに書くのではなく、日記やブログのような習慣性のあるものに取り組んで、適度な使命感を持って続けることも大事。
書くネタを探すことで、積極的に行動するようになったり、情報のアンテナを張り巡らせるようになったり。書くために正しい表記を調べたりすることで集中力が高まります。
(ライター 竹下順子)
出典 日経新聞 Web刊 2011.4.1
版権 日経新聞


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