社会全体で「少しずつ減塩」に取り組もう

社会全体で「少しずつ減塩」に取り組もう ~ 名古屋市立大学・木村玄次郎教授インタビュー ~

さまざまな生活習慣病のもとになる高血圧。
その高血圧を防ぐためには、食塩摂取量を減らすことが重要です。
でも実現はなかなか難しい。
「社会全体で減塩に取り組もう」と訴える名古屋市立大学の木村玄次郎教授にお聞きしました。

◇ 急な減塩は失敗の元
― 塩を多く取りすぎると健康に良くないんですね。
塩を取りすぎると高血圧になりやすく、動脈硬化につながって脳卒中や心臓疾患を招きます。
塩分の取りすぎは、特に胃ガンのリスクを高めるほか、排出にカルシウムが使われてしまって減るため、骨粗鬆症が増え、気管支喘息白内障との関連も指摘されています。

― 健康にいいとは思っても、塩を減らすと食事がおいしくなくなりませんか。
それまでの10~15%であれば、塩を減らしても人間の舌は味が薄くなったと感じないことが分かっています。
だから、まず最初は1割程度塩分を減らす。数カ月から1年ぐらい後にさらに1割減らす。
このように段階を踏めば、減塩は負担なくできると考えています。
 
みなさん、急に塩を減らそうとするから、味が薄い、おいしくないとなり失敗するのです。
また、高齢者が急に減塩すると脱水を招く危険もあります。減塩のコツは「少しずつ減らすこと」です。


― それなら取り組みやすそうです。
加えて、米国で研究されたDASH(ダッシュ)食=Dietary Approaches to Stop Hypertensionを取り入れると効果が高まります。
野菜や果物、植物性タンパク質やカルシウムが豊富な食事です。
古典的な日本食に、カルシウムとして低脂肪の乳製品を加えたもの、と考えるとわかりやすいと思います。
塩分を体から排出する作用があると考えられています。
 
ご家庭で食事をつくっていらっしゃる方は、少しずつの減塩とDASH食をぜひ実践してください。
 
ただ残念ながら、減塩は個人の努力だけではどうしても限界があります。 


◇ 業界全体で減塩に取り組む意義
― どういうことでしょう。
ある調査では、家庭の食事で取る塩分は全体の20~30%で、残りは外食や加工食品から取っていると思われます。
つまり、外食や加工食品の塩分が減らないといけないのです。

― 家で料理するときに塩を減らしても、外食したり、加工品でしょっぱいものを食べてしまうと…
残念ながら元通りです。
ですから、国民全体で食塩の削減に取り組むためには、食品業界や外食産業全体が取り組む必要があります。

― 現在高血圧でない人もいます。濃い味付けが好きな人でも、血圧は正常な人もいますよね。社会全体で取り組む必要があるのでしょうか。
食塩を摂取すると血圧が上がり、塩の量を減らすと血圧が低下することを食塩感受性と言います。
この反応に個人差があるのは確かです。
1週間から1カ月ほどの比較では、塩を食べても血圧がそれほど上がらない人がいます。
 
しかし、長期的に見れば、子どもでも高齢者でも、食塩感受性が高い人でも乏しい人でも、個人差なく血圧が上がると考えられています()。

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チンパンジーでの実験ですが、1日あたり10グラム程度の食塩を与えると、6カ月ではほとんど血圧が変動しないのに、1年以上続けると例外なく大きく血圧が上昇するのです。
 
さらに、高血圧の人の方が、脳卒中心筋梗塞などのリスクは高いですが、全体の人数で見ると、発症するのは圧倒的に正常を少し上回る程度の血圧の人たちです。
この集団の方が人数が圧倒的に多いですから。この人たちの発症を防ごうと思えば、減塩は社会全体で取り組むことが必要なのです。

― どんな取り組みが考えられますか。
先ほどの「少しずつ減らす」を業界、社会全体で実践すればいいのです。
 
醤油やみそ、ソースなどの調味料、ハムやかまぼこなどの加工食品、さらにレストランなどの外食産業、ソフトドリンクなどにも食塩はたくさん含まれていますから、飲料メーカーなどが一緒になって、10~15%の塩分削減を1年ごとに繰り返すのです。
 
5年もすれば日本高血圧学会や海外で指針とされる一日6グラム未満が達成可能だと思っています。


◇ わかりやすい塩分表示を
― 減塩商品はいまでもありますが、実際どれほど「減塩」されているのかは、分かりにくく、選ぶときに迷います。
そうです。
いまはナトリウムの量だけだったり、食塩相当量が併記されていたりと表記が一定でありません。
また、100グラム当たりの量だったり、全製品中の総量だったりして分かりにくい。
外食や加工食品で塩分を調整しようとしても簡単ではありません。
 
まずは食塩の含有量を統一した方法で表示し、それを食べたり飲んだりすれば、目標の1日6グラムの何%を占めるのか、グラフで表せばいいと思います。
 
また、ラベル表示を実践している国もあります。
英国などでは、製品ごとに食塩の含有量を表しているのはもちろん、平均的な食塩の量なら黄色、多ければ赤、少なければ緑のラベルが貼られています。
消費者が買うときに非常にわかりやすくなっているのです。
緑のラベルの商品は健康に気を使った製品だと一目で分かり、手にも取りやすいでしょう。


― それはいいアイデアですね。
緑ラベルの商品が多いと、消費者の減塩、健康に気を配っているということで、企業のブランドイメージもあがるのではないでしょうか。
 
さらに国は、上記のような取り組みをぜひ推進してもらいたいし、タバコと同じように、食塩にも高い税金をかけてほしいです。
いまは塩が安価だから、満腹感のために大量に使われているという事情がありますから。


◇ 食塩は必須ではない
― ちょっと思ったんですが、その取り組みが実践されたとして塩分の減らしすぎになりませんか。かえって体に良くないのではないですか。
みなさん誤解していますが、現代人が塩分を積極的に取らなくてはならないのは、熱中症などで脱水症状を起こしているような場合だけです。
食塩は、普段の生活で自ら積極的に摂取しなくてはならないものではなく、素材に含まれている塩分で十分生きていけるのです。
 
ブラジルにヤノマモ族という人たちがいますが、彼らは食塩を取る習慣がありません。
彼らに高血圧は存在しないうえに、赤ちゃんも、高齢者も同じ血圧です。
つまり年を取っても血圧が上がらないのです。
 
減塩こそが、効果の高い健康施策なのです。

出典 アピタル・オリジナル記事 2011.1.21
版権 朝日新聞社

<私的コメント>
木村教授とは以前に少しお話する機会がありました。
教授は「ナトリウムの入っていない食塩を作るのが夢だ」と熱く語ってみえました。
人工甘味料があるわけですから、あながち非現実的なことでもないかも知れません。


<自遊時間>

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氷上から鎮魂の祈り モスクワ、世界フィギュア開会式
開会式で氷上に映し出された日の丸=飯塚晋一撮影
http://www.asahi.com/international/update/0428/TKY201104270657.html?ref=recb




小佐古内閣官房参与が辞意 政権を批判
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/kan_cabinet/
小佐古敏荘(こさこ・としそう)内閣官房参与(東京大大学院教授)が29日、官邸を訪ね菅直人首相宛に辞表を提出した。小佐古氏は29日夕記者会見し、菅政権の福島第1原発事故への取り組みについて「その場限りの対応で、事態の収束を遅らせた」と批判した。

小佐古氏は「(自らの)提言の一部は実現したが対策が講じられていないのもある。正しい対策の実施がなされるよう望む。国際常識のある原子力安全行政の復活を強く求める」との見解を報道陣に配布した。

小佐古氏は放射線安全学の専門家で、3月16日、参与に起用された。

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産経新聞 4月29日(金)19時26分配信
<私的コメント>
これが学者です。
名古屋市でも、以前にK市長から逃げ出した学者がいました。
こういった場面で泣く悔しい気持ちも分からないでもありません。
しかし、自分の考えが通らないからといって泣いて辞めるというのは、だだっ子みたいで精神の幼稚性を物語っていませんか。

今朝知ったのですが、以下の記事に目がとまりました。
小佐古氏は厳しい基準ではなく甘い基準を出していたんですね。

小佐古氏も甘い提言=枝野長官が暗に批判
枝野幸男官房長官は1日午後の記者会見で、福島第1原発事故の政府対応を批判して内閣官房参与を辞任した小佐古敏荘東大大学院教授から、「牛乳や飲料水の安全基準値について、放射性ヨウ素の場合3000ベクレル(1キロ当たり)でいい」と3月下旬に提言を受けたことを明らかにした。
その上で、枝野長官は「(原子力)安全委員会等の判断で300ベクレルが基準となった。専門家の意見もいろいろある」と小佐古氏を暗に批判した。 
http://www.excite.co.jp/News/politics_g/20110501/Jiji_20110501X054.html

彼の経歴をみると医学者ではなく放射線安全学の工学者です。
どうして、「牛乳や飲料水の安全基準値」について語れるのか不思議です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E4%BD%90%E5%8F%A4%E6%95%8F%E8%8D%98


他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
「葦の髄」メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版です)
があります。