外部被曝、低レベルでは個人差

放射性物質による外部被曝、低レベルでは大きな個人差

福島第1原子力発電所の事故で放出された放射性物質に対する国民の不安が続く。
政府は「健康にはただちに影響はない」としながら、原発周辺に警戒区域を設定し、学校の屋外活動も制限した。
放射線は体にどんな影響を与え、どれだけ浴びると危険なのか。
体の表面から直接浴びる外部被曝と、食品などを介して受ける内部被曝について解説する。
1回目は外部被曝

「年間20ミリシーベルトを超えても大丈夫というが本当だろうか」
「校庭の土を除去すれば安全なのでしょうか」――。
4月17日、福島県伊達市で開かれた放射線に関する講演では住民からの質問が相次いだ。
講演会には福島県放射線健康リスク管理アドバイザーを務める山下俊一・長崎大学教授が参加し、会場に集まった住民約600人と長い時間にわたり質疑応答が続いた。

伊達市は福島第1原発から約60キロメートル離れている。
年間の累積放射線量が年間20ミリシーベルトを超える恐れがあるとして計画的避難区域に指定された飯舘村に隣接し、市民には不安が広がる。
山下教授は「住民は具体的な線量の数値で質問してくる。対処法を示さないと不安が強まる」と話す。

イメージ 1



被爆者調査で推定
政府が警戒区域などの設定で考慮したのは、人体の外側から放射線を浴びる外部被曝だ。
被曝による健康影響は大きく分けて2つある。
1つは、原爆などで一度に大量の放射線を受けて障害が出る「急性障害」。
具体的には1シーベルトを超えると、リンパ球の減少や嘔吐(おうと)などの健康被害が起きるとされる。
現状の福島第1原発では「住民などが急性障害になるような高い放射線量を受ける可能性はほとんどない」(山下教授)という。

もう1つが、放射線量を浴びてから時間が経過し、がんなどの症状が出る「晩発性障害」だ。
放射線は体を形づくる細胞のDNA(デオキシリボ核酸)に傷をつけ、細胞をがん化させる可能性がある。

これらの障害はどれだけの放射線を浴びると表れるのか。
広島・長崎の原爆による被爆者を長期間、追跡した疫学調査から、ある程度のことが分かる。
原爆による「被爆」と原発事故による「被曝」は放射線を浴びる期間や量は異なるが、推定は可能だ。

原爆ではウランなど核物質の爆発で放出したエネルギーのうち、大半は高熱と熱風になり、残りは放射線として出た。
これを受けた被爆者には急性障害が表れたほか、長い期間にわたり晩発性障害が続いている。
戦後、日米両国で設置した放射線影響研究所は、約4万4600人の被爆者について浴びた放射線量ごとに、固形がんになった人数などを調べている。

イメージ 2



線量が多いほど、放射線の影響でがんになったと推定できる割合は高くなる。
1千~2千ミリシーベルトでは40%を超え、500~1千ミリシーベルトでも約30%に達した。
5~100ミリシーベルトを浴びた約2万7千人のうち4400人余りの被爆者はがんを発症。
推定で1.8%が被爆によって、がんになったとみられるが、断定できるほどの明確な差はないという。


分からない点多く
低いレベルの放射線は浴びてから数年~数十年後に症状が表れることもあるほか、個人差も大きい。
同研究所疫学部の陶山昭彦部長は「線量が低い場合は、喫煙などの生活習慣などによって引き起こされたがんと区別ができない」と説明する。

そもそも放射線を浴びなくても、日本人の半分はがんになるとされる。
そのため、放射線の影響でがんを発生したと判断するには、被曝してから、がんの発生率が有意に上昇したとする結果が出なければ原因だと断定しにくい。

放射線から身を守るための基準を勧告する国際放射線防護委員会(ICRP)は広島・長崎の疫学調査などをもとに、およそ100ミリシーベルト以下の放射線を浴びてもがんになる確率は上がらないとした。

ただし、低レベルの放射線量による健康影響は科学的に分からない点が多く、将来がんが発生する可能性は否定できない。
今後、福島第1原発事故が収束するまで、一定レベルの放射性物質は出続けるとみられ、国民の不安を解消するためにも住民の健康を長期間にわたり調べるべきだとの声は根強い。 (西村絵)


出典 日経新聞 Web刊 2011.5.8
版権 日経新聞



<自遊時間>
イメージ 3


ある雑誌に出ていた腕時計の広告です。
フクロウの文字盤が気になります。
蒔絵時計だそうです。
説明には
「絵を盛り上げることで遠近を表現する高蒔絵に加え、アワビ、蝶貝などを文様の形に置くことにより光彩を表現する螺鈿蒔絵を取り入れています」
とあります。
どんな方の腕に巻かれるのでしょうか。


他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
「葦の髄」メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版です)
があります。