熱中症対策

熱中症、目まい・頭痛・意識障害をどう予防

高温で体の調節機能が働かなくなる熱中症になりやすい季節が近づいてきた。
今夏は福島第1原子力発電所の事故で電力不足も懸念され、エアコンの使用を控える動きも出ている。
しかし、行き過ぎは熱中症の引き金になり、最悪の場合は死に至ることもある。
効果的な対策が必要だ。

熱中症とは、高温の環境によって体の調節機能がうまく働かなくなり、体内の水分や塩分のバランスが崩れて発症する障害。環境省のマニュアルでは重症度が3段階まであり、症状が軽いものなら目まいや筋肉痛になり、次に頭痛や吐き気、倦怠(けんたい)感を覚える。
最も深刻なもので高体温や意識障害に陥る。
ちなみに日射病や熱射病など昔からよく聞くものも熱中症に含まれる。


昨年搬送1万3000人
高温多湿で、風通しが悪いような環境に長時間いると熱中症になりやすい。
日本生気象学会によるとセ氏28度以上が運動時の発症を警戒すべき水準で、31度を超えると、安静にしていても高齢者であれば熱中症になる可能性が出てくる。
杏林大学の山口芳裕・高度救命救急センター長は「32度を超えると重症例が増える傾向がある」と指摘する。

国立環境研究所によると記録的な猛暑だった昨年の熱中症患者数は全国で過去最高の約1万3千人。
これは救急車で病院に運ばれた数で、実際はもっと多いとみられる。
日本救急医学会の2008年の報告書では、高齢になるほど重症例が多いとのデータがある。高齢者は熱中症に伴う体の異変に気付きにくく、意識不明になる恐れがある。
エアコン自体を嫌う人も多く、屋内で発症して死亡に至るケースがある。

イメージ 1



若くても熱中症を軽視してはいけない。
学生は激しいスポーツ、働き盛りの中高年は屋外での仕事が熱中症の原因になりやすい。
気象庁は今年の夏は「昨年ほどではないが、平年並みかそれ以上の暑さになる可能性が高い」と予測する。

特に今年は節電でエアコンを使えないとなれば、つらい。
夜間にエアコンを使わずに寝不足になれば疲労を蓄積し、熱中症の遠因になる。
自宅を出ても注意が欠かせず、国立環境研究所の小野雅司フェローは「エアコンを控えた満員電車などで倒れる人が出るかもしれない」と話す。

どう予防すべきか。
汗をしっかりかいて気化させれば熱を放散し体温を下げられるが、汗をかく量が多い夏場は注意が必要。500ミリリットルの水分を体から失って初めて脱水症状を自覚するともされ、夏場は自発的で小まめな水分補給が欠かせない。
発汗で失う塩分も補給する必要があり、スポーツ飲料が効果的だが、糖分を含むものもあるので糖尿病の人は注意がいる。

服装は熱を吸収しやすいものは避け透湿性と通気性に優れたものがよい。
杏林大の山口センター長は「汗をかいて蒸発することで体温を下げられるので、それを妨げない服を着てほしい」と呼びかける。
休日の室内は半袖・半ズボンで十分だが、外出時は直射日光を避けるため肌の露出が少ない服を着て、帽子などをかぶるのがよい。

イメージ 2



運動で暑さに強い体
夏本番を迎える前に今からできることもある。
日本生気象学会は6月までに少し汗をかくくらいで「ややきつい」と感じる運動を1日30分間、週3回程度繰り返すことを提案する。
運動を続ければ血液量が増え、体温の調節機能が改善する。
これで夏場に同じ運動をしても暑さに対して強くなり、心拍数の上昇が抑えられる。
運動直後、糖質とたんぱく質を多く含むミルクなどの食品を摂取すると効果が上がるという。

オフィスでは28度以下であれば熱中症になる可能性は低いとされるが、暑さが不快に感じるレベルになると仕事に支障をきたすかもしれない。
ある大学教授が約5年前にオフィスの室内温度と社員の作業効率の関係性を調べたところ、室温が25度から1度上がるごとに作業効率が2%下がるとの結果が出た。

近代的なビルは照明やOA機器が出す熱を冷やすのにエアコンを使い、真冬も冷房することが多い。
しかし、エアコンを消す前に、照明やOA機器の利用を控えたりする方が節電効果が大きい。
扇風機も放熱を促すが、1人1台で、かつ機種によっては節電にならない。

裸であれば29度が働くのにちょうどいい。
ただ、裸では夏どころか社会生活が乗り切れそうにない。
やはり節電とうまく付き合う知恵を身につけたい。
                                    (山本優
出典 日経新聞・夕刊 2011.6.10(一部改変)
版権 日経新聞


他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
「葦の髄」メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版です)
があります。