ロボット手術

日本はロボット大国と言われて来ました。
しかし、今回の福島第一原発で最初に災害時作業ロボットが使われたのは米国製「タロン」でした。
ロボット手術の普及も、欧米や韓国に遅れをとってしまいました。
このロボット手術に使われる装置は内視鏡下手術支援ロボット(ロボットアーム)といい、有名なのが「ダヴィンチ」です。
昨年(2010年)末の時点での国別導入件数は米国1285台、イタリア51台、ドイツ48台、フランス39台、韓国34台などで、日本は第9位の18台です。

日本は導入台数だけではなく、医療行政の「ダヴィンチ」に対する理解不足から、ごく一部の手術に先進医療として認可されしかも高額な自己負担が強いられます。
一方、韓国ではロボット手術センターを造り、消化器外科分野で海外の患者を呼び込み、瞬く間に世界一の症例数となっています。
日本の第一線の外科医が切歯扼腕している状態ですが、こういったことは医療に限った話ではありません。
たとえばアジアのハブ空港や港としての地位も、世界を視野に入れた国策の欠如から韓国やシンガポールなどに遅れをとりました。
何とも情けない話です。

さて、「ダヴィンチ」は遠隔操作が可能なため、理論的には海外の患者さんの手術もすることが出来るのです。
ロボットアームは人の手をミニチュア化した1本の腕と、切除はもちろん縫合もできる二本の腕を持っています。
手術中の体内の様子は、術者に必要な大きさに倍率を変えることが出来、かつ奥行きのある立体的映像として見られます。
一方、現在普及している腹腔鏡手術では、二次元の平面画像を医師の経験とイメージトレーニングにより三次元化します。
術者が実際に動かすスピードより遅く大きな動きに変換できるところから、正確に1ミリ切るなど、人の手では難しい仕事をこなし、手ぶれや誤動作を防ぐ装置も備えています。


以下、引用。

内視鏡手術支援装置を用いた手術(ロボット手術)

ロボットによる精密手術
最先端のコンピュータ技術を医学、特に外科領域に臨床応用するコンピュータ外科(Computer Aided Surgery: CAS)が発達し、外科手術にロボティクスを導入した医工学連携が進んでいます。
一般に先行して使われている「ロボット手術」とは、人間である術者の手の動きを忠実にロボット鉗子が再現して行う手術であり、人間が精密手術用機器を用いて行う「精密手術」です。
手術操作をするのはあくまで術者である人間です。
自動化された動きや、機械のみの動作は無く、人間の制御のもとに安全性が確保されています。
"da Vinci"(Intuitive Surgical社、図)は主として胸腹部の手術を行うロボットで,da Vinciは欧米主体で全世界の中規模以上の病院に300台以上が導入され、心臓外科、泌尿器、一般外科領域を中心に既に一万例を超す手術実績があります。

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ロボット手術の特徴と優しさについて
最先端の工学技術により、人間を超える「目」や「手」の開発を行い、よく見える三次元画像を見ながら、自由度の高い微細な操作も可能な鉗子を用いて、安全で確実な手術操作を行います。
開腹手術の感覚に近く直感的な手術操作が可能です。

患者様の体(皮膚)には小さな鉗子挿入用の穴を開けるのみで、従来の大きく切開する場合に比べて、侵襲が少なく、合併症も稀です。
手首が曲がらない内視鏡手術用鉗子に比べてロボット手術用鉗子は手首の自由度があり、微細で精密な手術操作ができます。
 
一般外科の胸腹部領域では、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、膵癌に対して主にda Vinciが使用されています。
泌尿器科領域での前立腺腫瘍、腎・尿路系腫瘍、婦人科領域での子宮癌に対してもda Vinciを用いた手術が報告されています。
21世紀に入って、様々な腫瘍を対象として、最新の治療機器を利用した低侵襲のロボティクス医療が展開されています。

出典
http://www.kyudai2geka.com/contents/davinci.html
(動画もみることが出来ます)

<参考>
週刊文春 2011.5.19「病院情報ファイル ロボット手術のいま」


<追加>
文中には「安全で確実な手術操作」「侵襲が少なく、合併症も稀」と書かれています。
しかし、このロボットも下手な手術を上手い手術に変換することは出来ません。

ロボット手術後、死亡…名大病院がん切除中、膵臓損傷
名古屋大学医学部付属病院(名古屋市昭和区)は、内視鏡手術ロボット「ダビンチ」を使い、遠隔操作で胃がんを切除した70歳代の男性患者が5日後に死亡した、と22日発表した。

同病院は「ロボットに不具合はなかった」とする一方、「患者の死亡と手術との因果関係は不明」とし、厚生労働省のモデル事業で診療関連死の原因究明を行う第三者機関に調査を申請した。

松尾清一院長らによると、男性は今月上旬、胃前庭部の早期がん切除手術を受けた。
手術中に膵臓を損傷し、縫合したが、翌日に腸管壊死(えし)が発生。さらに筋膜炎も併発し、5日後に多臓器不全で死亡したという。

ダビンチは米国製。
3~4本のアーム(腕)の先端に内視鏡や電気メス、鉗子(かんし)を取り付け、医師は数メートル離れた操縦席で、手術部位の立体映像を見ながら操作する。
メスなどを操る際の手ぶれを補正する機能などもあるため精度の高い手術が可能とされる。欧米や韓国では計1万台以上が稼働しているが、国内では保険診療の適用外のため、今年3月現在で計13台にとどまっている。

同病院も3月に導入したばかりで、胃の手術としては今回が4例目。
導入初期のため、数百万円とみられる手術費用は無料としていた。
胃の手術への活用は当面中止し、外部有識者を招いた院内調査委員会でも検証するという。

松尾院長は「ご遺族に哀悼の意とおわびを申し上げる。ロボットによる先進医療は国内でも広がっていくべきで、だからこそ事実を公表し、検証する必要があると考えた」と述べた。
(2010年9月23日 読売新聞)
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=31183


<関連サイト>
医療事故
http://wellfrog4.exblog.jp/16436866/



他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
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