食中毒の季節です

食中毒の季節です。牛肉、生野菜、そして……

蒸し暑くなってきました。細菌性食中毒の季節です。
病原性大腸菌による食中毒が、世界中で多発しています。

日本では焼き肉チェーン店で出されたユッケによる大腸菌O111集団食中毒で4人が死亡しました。
欧州では感染力が強い大腸菌O104がドイツを中心に猛威を振るい、6月6日までの死者は22人にのぼります。
欧州での流行の原因食材はまだ特定されていませんが、生野菜が疑われています。

日欧どちらも「生」がキーワードですね。

「生肉に気を付けている」という方でも、生野菜には無防備なことがままあります。
 生野菜は案外危険です。米国では2006年にホウレンソウやレタスによるO157の大規模感染が相次ぎ、3人が亡くなりました。
どちらも栽培に使った水が汚染されたためでした。

日本でも、2007年に東京にある大学の食堂で食事をした約450人が下痢などを起こしました。千切りキャベツが原因でした。調理場で生牛肉からキャベツへO157がうつったのです。
 
日欧の集団食中毒の、もう一つの共通キーワードは「広域」です。

焼き肉チェーン店の食中毒では富山・福井・石川・神奈川の4県にまたがって患者が出ています。
欧州では、10カ国以上で患者2000人超と、これまでにほとんど例がないほどの広域発生になっています。

これらの例に限らず、「広域化」は近年の集団食中毒の特徴です。
主な要因は
①食料生産の集約化
②食品加工の集中化
③食材流通の発達、です。
つまり、食料生産・流通の進歩にあわせ、食中毒も進化している、というわけです。

過去の広域食中毒の例をいくつか挙げてみましょう。
■98年:北海道産イクラが原因で、全国で約40人がO157食中毒を発症
■99年:イカを加工した菓子が原因で、全国でサルモネラ食中毒。イカを加工したのは青森県の小さな企業だったが、21品もの商品となって流通した。患者は46都道府県で1634人に上った
■00年:レストランチェーンの「ひと口ステーキ」が原因で4県で7人がO157に感染
■01年:「角切りステーキ」で滋賀県など3県で6人。半加工食品「牛タタキ」で7都県で140人。菌はどちらもO157

食中毒菌がついていても、見た目や臭いでは分かりません。
平凡なようですが、体調が芳しくないときは生ものを避け、生肉は別箸・別調理器具で扱い、よく火を通して食べる、などの予防の基本を徹底することでリスクをできるだけ減らすしかありません。

生野菜のサラダは、火を通すわけにはいきません。
野菜をよく流水で洗い、作りおきはせず、できたてをすぐいただく。これが安全サラダの基本です。

厚生労働省は、野菜の衛生管理のコツを次のようにまとめています。
http://www1.mhlw.go.jp/o-157/o157q_a/index.html#q18

(1)野菜は新鮮なものを購入し、冷蔵庫で保管するなど保存に気をつける。
(2)ブロッコリーやカリフラワーなどの形が複雑なものは、熱湯で湯がく。
(3)レタスなどの葉菜類は、一枚ずつはがして流水で十分に洗う。
(4)きゅうりやトマト、りんごなどの果実もよく洗い、皮をむいて食べる。
(5)食品用の洗浄剤や次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を使ったり、加熱することにより殺菌効果はより高まる。

さて、食中毒を起こすのは細菌やウイルスだけではありません。
タンザニア在住の友人から、「ウミガメ食中毒で3人死亡」というニュースが届きました。
地元紙「DailyNews」によると、命が助かった17人も症状はかなり重かったようです。
日本のフグ中毒のように、毒を持ったウミガメが原因とみられます。

ウミガメの肉に毒があるとは、知りませんでした。
びっくりしたので調べてみると、昨秋、ミクロネシアでも6人死亡、90人以上が発症していました。

日本でも報告がありました。
2003年に沖縄でアオウミガメの肉を汁にして食べた60代の男性が激しい腹痛を起こし、救急車で病院に運ばれています。
(ただし、同じカメ肉を食べた同年代の友人は何の症状もなかったそうです)

手元にある「原色有毒魚貝類便覧」(1969年発行、海沼勝著)には、1933(昭和8)年から1960(昭和35)年の間に南西諸島地域で4件、死者8人以上を含む約130人の患者がいたと書かれています。

ウミガメの毒の正体はよく分かっていませんが、多くのウミガメは無毒で、地域によっては時に有毒なカメがいる。また、沖縄の例のように、食べた人の体調などにも関係する、ということのようです。

ただし、現在、地球上に生息しているウミガメは全種、国際自然保護連合レッドリストに載っており、ワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)では加盟140カ国で国際間の取引が禁止されています。
日本でウミガメの肉を食べる機会は、小笠原などを除いてほとんどなく、ウミガメ中毒が多発する恐れはなさそうです。
                             中村通子《朝日新聞編集委員
https://aspara.asahi.com/blog/emergency/entry/nw8vZ0IsAX

出典 apital
版権 朝日新聞社


<私的コメント>
昔、メキシコのユカタン半島の遺跡巡りをしていた時、旅の途中にウミガメの料理を食べたことがありました。
この記事のような知識は全くなく、今からして思えばまさに「知らぬが仏」でした。


イメージ 1
2011.6.11夕方 横浜・大桟橋付近(象の鼻)
午前中、太平洋岸に大雨注意報の出た夕暮れ時。
当日は東日本大震災からちょうど3か月目でした。



他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
「葦の髄」メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版です)
があります。